第39話
「どうして、お姉ちゃんたちとお姉さんたちがここのいるの?」
そう尋ねると、睨み合っていたみんなの視線が僕に集まる。
「それがな……突然、ユーリがくれた私たちへのプレゼントが光ったんだ」
セリスお姉ちゃんがそう言うと、みんなが僕の上げたプレゼントを見る。
セリスお姉ちゃんはネックレスをジャランと揺らす。
アリスお姉ちゃんは右手首の腕輪を恥ずかしそうに見せる。
ミリスお姉ちゃんは左手首の腕輪を小さなお胸を張って見せる。
エルザはうっとりとほっぺに手を当てて左薬指の指輪を見せる。
エルメダは右薬指の指輪にある宝石を爪でガリガリといじる。
やめてよ、エルメダ!! それ結構高かったんだからね!! 宝石を傷つけないで!!
そしてアリシアお姉さんとリーシアお姉さんは、耳たぶを人差し指で弾いてピアスを見た。
みんなが僕のプレゼントを見るに……みんなが来たのは僕の上げたプレゼントが反応したってこと?
ん~? だけど僕は、みんなのプレゼントにみんなの助けを求める声がトリガーとなって、僕がみんなの所に転移する仕様にしているはずなんだけど……逆になってる……僕が助けてを求めて、みんなが助けてに来たってことになってる……。
「あっ……もしかして……」
僕ってば間違えた? それなら、この状況の説明がつくね。
いや~、うっかりうっかり……。
「―――っじゃないよぉおおお!! 思いっきしみんなを巻きこんじゃったじゃん!! どうするの僕!!」
うわぁぁぁ……、と頭を抱えていると、みんなが僕の名前を呼んで近づいてくる。
しかし―――。
「「「!!」」」
「それ以上、私たちに近づかないで」
ユキナさんが床から氷の槍を発現させ、みんなの足を止める。
「ユキナさんやめて!!」
僕はユキナさんの腕に抱きついて止めようとすると、ユキナさんは「……お姉ちゃんに逆らうな!!」と腕を振り払った。
「かはっ……!!」
壁にぶつかり、その衝撃で息が一瞬止まる。
すると、それを見たエルザとエルメダが―――。
「くっ……!!」
「それ以上ユーリを傷つけてみろ……ただでは済まさんぞ……」
「ユーリ様を傷つけるなんて……死んでください」
エルメダは氷を突き破って、ユキナさんの胸倉を掴み、それに続いてエルザが剣を首元に当てた。
や、やっぱり二人は……戦闘能力が異次元すぎるな……。あのユキナさんを一蹴……あは、あははは……。
にしても僕……弱すぎる……。
僕はガックリと肩を落とすけど、急いで立ち上がって二人の手を掴む。
「もう止めて。僕は大丈夫だから」
「ユーリ……」
「ですが、この女は!!」
「お願い二人とも……」
僕がそう呟くと、二人は不満気がありながらもゆっくりとユキナさんを解放する。
「今からユキナさんと二人っきりで話したいから、部屋の外で待っててもらえるよう他のみんなにも伝えてくれるかな?」
「……わかりました。行きますよ、エルメダ」
「何かあったら、すぐに我の名を呼ぶのじゃぞ」
僕はそれに「うん……」と言うと、二人はみんなの所に向かって、僕の言った通りにすると、みんなは部屋を出た。
「ふぅ~、これでお話しできるね。ユキナさん、早速全ての訳を話してもらうよ!」
「どうして……」
「えっ?」
「どうして君は止めたの? 私は君を殺そうとして、止める必要なんか無いのに……そうすれば……」
ユキナさんはそう言って俯いた。
「ん~確かに殺されるって思ったけど……結果的に生きてるし……まぁ、一番の理由は、ユキナさんだけじゃなく、二人に人を殺して欲しくないからかな?」
「人を……殺して欲しくないから……?」
「うん! だって絶対苦しそうだもん! 一生罪悪感に苛まれて生きていくことになるから……それにユキナさんだってそうでしょ? 僕の首を絞めてた時、一瞬だけ力が緩めたもんね。つまり、ユキナさんは分かってたんだ。自分が『人殺し』という一生消えない十字架を背負って生きることを……」
「そ、それは……」
ユキナさんは僕の言ったことに否定もできないが、肯定もできずに言葉を詰まらせた。
僕はそんなユキナさんに、ふふっ、と微笑んで手を掴んで一緒にベッドへ腰掛けた。
「まぁ、そんなことは置いといて。本題を聞かせてもらうよ。どうしてなの……? 大丈夫……どんな理由だとしても僕はユキナさんを否定しない……絶対だ」
「ほん、とう……きらいにならない……?」
涙を流すユキナさんに頭をなでなでしながら、僕は「嫌わないよ……」と頷いた。
そしてついに、ユキナさんは真相を語る。
「実は……私は―――」
「そう、だったんだ……」
話を最後まで聞いたんだけど……重たかった。
ユキナさんはとある村に住んでいて、両親に愛されて生活してたそうだ。だが、小さい頃に両親が流行り病で二人一緒に亡くなってしまった。
そこから、ユキナさんの悲劇は始まった。実はユキナさんは、生まれた時から巨大な力を持っていたため、村の人たちから危険視されていたんだ。
だから、両親が亡くなったことで誰もユキナさんを守ってくれる人がいなくなった。
村の人たちからの憎悪から逃げるようにユキナさんは村を出て冒険者として活動を始め、現在のようなSSランクという英雄中の英雄に至った。
だけどやはり、孤独という痛みはユキナさんの心を知らず知らずのうちに蝕んでいったそうだ。
ユキナさんはその孤独を埋めるために、僕を弟にして孤独の傷を癒そうと考えた。
その引き金となったのは……。
『―――お姉ちゃぁああああああん!!!』
僕の……叫び声だった……。
うん! これはもう……!
「僕のせいじゃないかぁああああ!!」
「えっ……? だ、大丈夫……?」
自分自身への怒りで自分の膝に拳を振り下ろすと、突然の奇行を目の当たりにしてユキナさんはそう言った。
「ごめんね……! ユキナさん……! そうだよね? 一人ぼっちは寂しいよね? 孤独は耐えられないよね……? でも大丈夫だよ……僕はユキナさんの弟にはなれないけど……友達だから……!!」
「友達になってくれるのは嬉しい……。だけど……そんなに泣かれるのは困る」
ユキナさんのこれまでの人生を想像したら、僕の瞳から滝のように涙が流れると、ユキナさんが非常に困っていた。
そして僕は、ゴシゴシと腕で涙を拭く。
「そうだよね……僕よりもユキナさんの方が辛いんだから……僕が泣くのは違うよね……? ごめん……」
「ううん。それだけ、私のこと思ってくれてるって伝わった……だから、謝らないで。それより、君に訊きたいことがある……いい?」
「訊きたいこと? 何かな……」
「君の名前のことなんだけど……『リーユ』と『ユーリ』……どっちが本当の名前?」
「あー……」
どうしよっか? 別にユキナさんに「元守銭奴貴族クラリスタ家の末っ子ユーリです! キャピ~ン」って言っても、たぶん嫌われないと思うから言っても大丈夫な気がする……。
「実はね僕、クラリスタ家っていう公爵家のユーリ・クラリ―――」
その瞬間、バタンッ!と扉が開かれ、みんなが部屋の中に入ってきた。
「もうみんなどうしたの? まだお話の途中なんだけど」
「そんなことはどうでもいいのです。ユーリ様……なぜ、女性の方と一緒にパーティーなんか組んで冒険しているのですか? 言ってませんよね……そんなこと」
「ん……?」
「リーユ君? いいえ、ユーリ・クラリスタ君……。どうして、私たちに嘘をついていたのですか……?」
「んん~……?」
グググッとエルメダ以外のみんなが僕に怖い笑みを向けながら顔を近づけてくる。
あれ? 何だか……スゴく不穏な空気がプンプンするぞ~……。
こんな時は……。
「エルメダ! 助けて!」
「無理じゃ」
「まさかの即答!!」
くっ……エルザがいるからか……むむむ……そうなると残るは……。
「あ、あの……ユキナお姉ちゃん助けて……」
ゆっくりとユキナさんへ振り返ると……静かな笑みで首を横に振った。
つまり、断られた。
「ユキナお姉ちゃ~~~~ん!!」
「「「「さぁ、ユーリ(様、君)!!!」」」
「うぅ~~~!!」
「「「「洗いざらい全て吐きなさ―――い!!!」」」」
「うぐ~~~~~~っ!!!」
別にそこまで怒ることないじゃん!……って思いながら、僕は土下座させなられ、みんなに全てを話すのだった。
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