戻って、1月3日
「とまあ、そんなわけで、お父さんとお母さんが結婚したのは一月の四日でなぁ」
「あれ、昔は貧乏だったって話じゃなかったっけ?」
「違うよ、兄ちゃん。お父さんとお母さんにとって、正月は特別な日だってことじゃないか。そんな調子だから、国語のテストで十八点とか取っちゃうんだよ」
「うるさいな。そういうお前だって、理科のテストで二十点があったじゃないか」
「お父さん、そんな点数の答案用紙は一度も見ていないはずなんだがな?」
「……あ」
「しまった」
「ふたりとも、来月の小遣いは半分な。それはそれとして、お父さんは餅も食えない正月を過ごしたんだって話なんだが」
「でも、結構食べてたみたいじゃん」
「そういえば、どうして郁人って人に奢ってもらわなかったの?」
「いや、二年参りだからな。神様に詣でる前に何か食べるってのが、どうにも気に入らなかったというか」
「そこまで真面目なのに、願い事が、あれ?」
「いや、金は大事だぞ? 家族の次に大事で、健康と同じくらい大事なんだ。うん、お前たちも大人になればわかる日が来るから」
「新年早々、夢とか未来とか、そんなものが瓦解するようなことを父に言われました。僕はこれからどうすれば良いのでしょうか?」
「M県のR君、心を強く持ちなさい。あなたにそんなことを吹き込んだ男は、実は本当の父親ではないのです」
「わけのわからん電話相談ごっこをするな。第一、お父さんはちゃんとお前らの本当の父親だぞ?」
「証拠は?」
「小遣い半額の話は無かったことにしてやろう。だからテストの答案用紙はちゃんと提出するように。どこがどう間違っていたのかチェックして、後でお父さんが教えてやるから」
「まあ、好きな食べ物とか嫌いな食べ物が一緒だったりするからね」
「そういや、お父さんがみそラーメン大好きなのも、その話が原因なの?」
「いや、小さい頃から大好きだったぞ、みそラーメン。しょうゆや塩やトンコツよりも好きだな」
「お母さんは、それを知っていたんだね」
「あ、そういや、おととい来たお父さん宛ての年賀状に『青井 郁人』ってあったけど、ひょっとして?」
「そうだよ。お母さんには『青井 里菜』って人からの年賀状が届いていただろう? それと、お歳暮にお酒が届いていたはずだし」
「じゃあ、その人たちも結婚したんだね?」
「もちろん。お父さんたちが結婚した三ヵ月後だよ。お父さんたちの結婚を知って、自分たちもって思ったらしい」
「お父さんとお母さんの結婚が、友達にも影響したんだ」
「それくらい大事なことだから、お父さんとお母さんは毎年お正月になると嬉しくなるんだね」
「それもあるが……やっぱりお父さんたちにとって、元旦はとても大切な日なんだよ」
「他にも理由があるの?」
「優、亮。お前たちの誕生日は、いつだ?」
「十月十日」
「一日早い十月九日だけど、それがどうかしたの?」
「つまりは、そういうことだ」
「だから、どういうことなのさ?」
「大人になればわかる日が来るから」
(了)
一年の計は 木園 碧雄 @h-kisono
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