1月1日



「おかえり、あけましておめでとう」

「あ、亜柚子? なんで、ここにいるんだ!?」

「暇だったから、来てみたんだけど」

「そうじゃなくて、どうやって俺のアパートに入った? 鍵はちゃんと掛けたはずだぞ?」

「うん、掛かってた。あんたにしては珍しいくらい、徹底した戸締りだった」

「じゃあ、どうやって!? まさか、これが噂の密室殺人?」

「誰が死ぬんだ、誰が。ここまでうろたえるということは、やっぱり忘れていたか」

「え?」

「合鍵。作ったのはいいけど、家の中に置きっぱなしで外出中に本鍵失くしたんじゃ意味ないから預かってくれって言ったの、そっちじゃん」

「あ……おお!」

「よし、思い出したな。それじゃ、この話題は終了ということで」

「いやいやいやいやいや! わかったのは手段であって、目的については」

「暇だし、他にすることもないから。さっき言ったじゃん」

「暇ってお前、どっか行かないのか? 俺でさえ、郁人と二年参りに行ってきたんだぞ?」

「知ってる。里菜からメールもらったから。新年早々、人の彼氏を奪って二年参りとは、命知らずにもほどがあるって愚痴ってたわよ」

「あいつ、フルコンタクト空手の世界ランカーだよな……」

「生命保険に入っておくことを勧めておくわ。受取人は私名義で」

「いや、イブは成功したらしいぜ。俺のアドバイスだったんだって言えば、差し引きゼロにならんかな?」

「それも聞いたわよ。イカ徳利なんて馬鹿なアイディア、あんたくらいしか思いつかないでしょ?」

「思いついた馬鹿より真に受けた馬鹿に責任があるだろ、この場合」

「……ま、結果オーライだったんだから、それでよしとしましょう。ところで、お腹空いてない?」

「空いた」

「ちょっと待ってて、ラーメン作ってあげる」

「元旦なんだが?」

「食材がラーメンくらいしか無かったのよ。嫌なら作らないけど?」

「ぜひ作ってください」

「素直でよろしい。それと、ラーメンだけじゃ足りないだろうから、ここに来る途中で買っておいたものも食べちゃっていいわよ。そこにあるでしょ?」

「この袋の中のやつか?」

「そう、それ。全部食べちゃっていいから」

「……クレープ?」

「中身はチョコホイップだから」

「そういう問題じゃねぇだろう。こっちは……お好み焼き?」

「割り箸に巻かれていたほうが食べやすいよね?」

「正統派の食べ方じゃないだろ。次は……タコ焼き?」

「タコ、体質的に駄目だったっけ?」

「いや、まあ……二年参りも済ませたし、一日くらいは腹痛に苦しんでもいいか……ちょっと、量が多いかな?」

「焼きそばや焼き鳥とのコンボもあったんだけど、そっちを買わなくて正解だったみたいだね」

「そんなものまで売るかね、新年早々」

「新年だから売るんじゃない。元旦なんて、どこのお店も閉まってるでしょ? 出かけたとしても、お昼を食べられるお店が無いのよ。だから屋台で何か買って食べるの。だから屋台の売り上げが伸びるの。わかった?」

「なるほど、そいつは気づかなかった」

「どうせまた、二年参りの最中も難癖ばっかりだったんでしょう。はい、みそラーメン、お待ちどうさま」

「やれやれ、助かった。どうやら、これで飢えをしのぐことだけはできそうだ」

「袋の中のもの全部食べておいて、それ? どんな胃袋してんの?」

「今日から三日分の食いだめだったからな。これでもまだ足りないくらいだ」

「また金欠?」

「いや、どうせどこにも行かない三が日になりそうだし。そうなると、わざわざ外に食いに行くのも億劫だし」

「……あたしん家、来ない? 夕食くらいなら出せるよ?」

「お前ん家って……親がいるだろう、親が」

「ふたりとも、どうも察しはついているみたいなんだよね……だったら、挨拶はこういう機会にしておいたほうがいいんじゃないかな」

「挨拶、ねぇ」

「うん……」

「その前に、やることがあるだろ」

「何?」

「婚約だ。いやいっそ結婚だ! こういうのは思い切りよく手早く進めたほうがいい! ついでに今日を結婚記念日にするんだ! 元旦が結婚記念日の夫婦なんて、そうそういないだろ!」

「そうそうどころか、絶対いないわ」

「なんで?」

「元旦に、婚姻届は受理されないもの。役所もお休みよ?」

「あ……」



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