12月31日
「うう……寒い。なぜ俺は、こんなところにいるんだ?」
「二年参りをやっておきたいと言ったのは、お前だろうが!」
「そうだ。俺が悪い! 俺のせいだ! これでいいか?」
「反省する気は?」
「微塵も無い」
「だよな」
「そう言いつつも付き合っているお前も、大概だと思うんだがなぁ。彼女をほっぽっといて男ふたりで二年参りとか、ありえんだろう、普通」
「その彼女に口外できないような俺の過去の秘密をばらしてやると脅しておいて、良くそんなことが言えたもんだな」
「あれ? 僕、そんなこと言ったっけ? おかしいなあ。僕はただ、君が今までに付き合っていた彼女のこととか、別れる原因になった事件とか、日常のちょっとした話題のネタを提供してあげようかなと言っただけなのに」
「白々しいこと言いやがって。まあいい、お前のアドバイスのお陰で、イブは大成功だったからな。その礼という意味でも……」
「ちょっと待て! 俺のアドバイスって、あれ本気にしたのか!?」
「もちろん」
「あえて訊こう。何をプレゼントした?」
「イカ徳利」
「ありえねぇ! イブにイカ徳利もらって喜ぶ女なんて、ありえねぇ!」
「いやいや、一度はイカ徳利で飲んでみたかったって言っていたし。ほれ、あいつの実家って杜氏だろう? やっぱり日本酒が大好きなんだよ。イブの夜もシャンペンじゃなくて清酒飲んでいたし、ケーキ食べずに寿司食っていたし」
「喜ぶほうも喜ぶほうだけどさ、そもそも贈るなよ」
「アドバイスしてくれたのは、お前だろう。そうだ。せっかくだから、感謝の意味も込めて、何かおごってやろう。あの屋台のタコ焼きなんて、どうだ?」
「いらねぇ。タコは消化に悪い」
「じゃあ、あっちのお好み焼きはどうだ?」
「薄っぺらで、とても食った気がしねぇ」
「クレープは?」
「さらに薄っぺらいじゃねぇか」
「焼きそばは?」
「二年参りで並んでいる最中だぜ? 立ちながらじゃ食い辛いだろう」
「りんご飴も売っているぞ」
「もう、二年参りの風景じゃないな。タコ焼きにお好み焼き、焼きソバにりんご飴、これでワタアメと金魚すくいがありゃ、どう見ても祭りか縁日だ」
「おい、冬らしい屋台もちゃんとあったぞ。見ろよ、夜鳴きそばだ」
「なんで年越しに屋台ラーメンを食わなきゃならんのだ! 麺類なら、出かける前に年越し蕎麦を食ってきたわい! そもそも神社の境内に、どうしてラーメンの屋台があるんだよ!」
「稼ぎたいからだろ?」
「それ言っちゃお終いって気もするが」
「そんなに食うのが嫌なら、甘酒はどうだ? あったまるぞ」
「いいから黙って並んでいろよ。もうすぐ俺たちの番だから」
「とか言っている間に、俺たちの番だな。賽銭、いくら入れる?」
「大奮発して、五円」
「どこが大奮発だよ!」
「さっきまでは一円のつもりだったんだよ。五倍だぞ、五倍! 見ろ、大金を握ったもんだから、賽銭箱に入れようとするだけで手がこんなに震えてやがる」
「寒いだけじゃねぇか。よし、鈴鳴らすぞ、柏手打ったぞ。願え」
「金金かねぇっ!」
「早いよ! しかも、それだけかい!」
「こんな願いでもなきゃ、消える前に短く三回なんて言えやしないさ」
「そりゃ流れ星だ」
「そうだったっけ? まあ、他に願うことも無いからいいや」
「あっちゃんは、いいのか?」
「……お前さんは、何を願ったんだ?」
「恋愛成就に決まっているだろう。今日はこれから寝正月で、明日から泊りがけでデートだぜ」
「そうか。まあ、せいぜい頑張れ」
「今の俺に、皮肉や当てこすりは通用しないぜ」
「まあ、これで二年参りも無事に終了したわけだ」
「だな。俺は、帰って寝る」
「そうか……今年もよろしく」
「ああ。よろしく」
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