一年の計は

木園 碧雄

現在の1月3日

「優、亮。あけましておめでとう」

「あけましておめでとう、お父さん。もう三日だけど」

「三日連続で同じこと言ってるけど、あけましておめでとう」

「なんだ、ふたりとも着物は着ないのか?」

「だから、もう三日なんだってば」

「そういうお父さんだって、着てないじゃないか」

「しょうがないじゃないか、お母さんがいないんだから。お父さんひとりで、あんな面倒くさくて肩が凝るもの、着られるわけがないだろう?」

「そんなものを、僕たち子どもだけで着られるわけがないじゃないか」

「お母さん、結局帰ってこなかったね……」

「こらこら。亮、まるでお母さんが家出したみたいに言うな。昨日、お母さんの実家に年始の挨拶に行って、お母さんだけ一泊したってだけなんだから」

「お父さんの言う通りだぞ、亮。ところでお父さん、お年玉なんだけど」

「何を言ってるんだ。ちゃんと元旦にあげただろう?」

「お父さん、最近のお年玉は分割払いがスタンダードなんだよ?」

「兄ちゃん、分割払いってなに?」

「早い話が、何度ももらえるってことだよ」

「そうなの? それなら分割でいいや」

「むちゃくちゃ言うんじゃありません。そういえばお前たち、新年の書初めはちゃんと書いたのか? 冬休みの宿題は年末までにきちんと終わらせるというのが、お年玉を値上げする条件だったよな? 最後に残ったのが書初めだったはずだぞ?」

「大丈夫だよ、お父さん。ちゃんとやりましたって。ほら」

「ご心配無用だよ」

「おお、それか。どれ、ちょっと見せてみなさい。優は……『お年玉』!?」

「ちゃんと書いたことになるよね。先生だって、好きな言葉を書きなさいって言っていたんだからさ」

「そりゃあそうだが……亮は、と……『お金』!」

「兄ちゃんがお年玉なら、僕はこうでしょ、やっぱり」

「直接的過ぎるだろ。というか、先生に何言われても知らんぞ。それに、こいつは教室に貼り出されるんじゃないのか? 後でクラス中の笑いものになっても知らんぞ?」

「去年の金賞は『現ナマ』だったけど?」

「マジか……学校側も、いよいよ手段を選ばなくなってきたな。それはそうと、朝飯は雑煮とおせちでいいよな? お母さんが下ごしらえしてくれたお陰で、電子レンジで温めるだけですぐ出来上がる」

「いいけど、僕のお雑煮にはニンジン入れないでね」

「僕のは餅抜きで」

「わがまま言うもんじゃないぞ、ふたりとも。特に亮、餅抜きじゃ雑煮にならんだろう」

「だって、お餅は苦手なんだもん。毎年、喉に詰まらせて死んじゃう人がいるみたいだし。お父さんだって、息子にそんな死に方はされたくはないでしょう?」

「いくつだ、お前は……じゃあ、おせちだ。おせちを食べよう」

「お煮しめと膾と松前漬と卵焼きは残しておけって、お母さんに言われたよ」

「そうなのか?」

「うん。晩御飯のおかずにするって。あ、僕はイクラとかまぼこは食べないからね」

「黒豆と栗きんとんは、お父さんかお兄ちゃんが食べてよ。僕、甘いものはちょっと……」

「お前ら、好き嫌いが多すぎだ。お父さんが若かった頃は、そんな贅沢はいえなかったんだぞ?」

「終戦直後の生まれだっけ?」

「そんなわけあるか。ただ単に貧乏だっただけだ」

「自慢できることじゃない気がするけど。そういや、お父さんとお母さんって、お正月は特に生き生きとしているよね。昔、何かあったの?」

「ん? まあ、なぁ……」



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