私の乗った馬車、御者のお爺さんとてつもなく強かったんですけど?
ゆる弥
最強の御者
その馬車には沢山の荷物が積み込まれていた。積み込んでいるのは異様に宝石を身につけている商人らしき男。
「おい! じじい! 全部積めたのか?」
「そうですなぁ。積めましたがのぉ、こんなに積むと何かあった時に逃げられませんぞ?」
「そんなのどうでもいい! 一度に済ませたいからな! それになぁ、一応冒険者は雇ったんだ。コイツらが仕事をすれば大丈夫だろう」
唾を飛ばしながらそう言い放ち、馬車に乗り込む商人。冒険者達は外を走るようだ。だが、装備を見ると恐らくランクは低ランク。
「あのっ! すみません!」
出発しようとした時、スタイルのいい女性が声をかけてきた。
「どうしたんじゃ?」
「実はこの先の村に行きたいのですが、護衛が捕まらなくて……一緒にご同行させて頂けませんか?」
「一人くらいであれば構わないと思うんじゃが、確認してみるかのぉ」
後ろを振り向いて商人に確認すると隣の席に座るならいいとのこと。それには少し逡巡するも、女性は乗り込んだ。
商人の下心が見えたのだろう。綺麗な女性だったから。
「出発しますぞ?」
周りの冒険者にも確認すると頷いたので馬に指示を出して歩を進めた。軽快なリズムで歩き出した馬は順調に馬車を引いていく。
ゆっくり進まないとこの荷物の重さはすぐに疲れてしまう。そう考えてのスピードだった。
「おい! じじい! こんなに遅いと日が暮れるぞ!」
「そうかもしれませんな。しかしですな、荷物が多いからのぉ。ゆっくり行かんと馬がバテますぞ?」
「いいからスピードを上げろ!」
「分かりました」
馬にまた指示を出して走らせる。だんだんとスピードがのってきた。風が頬を撫でる。中にいる商人はなにやら隣の女性の脚に手を置き何やらニヤニヤしている。
冒険者達はもうついて来てはいない。このスピードには着いてくるのは無理だろう。
こういう男は、大抵の場合痛いしっぺ返しが来るものである。ワシの経験ではそういうもんじゃ。
街道をひた走っていると、大木が行く手を塞いでいる。馬車のスピードを落として止まった。
「じじい! なにやってる!?」
「街道が塞がれておるのですじゃ」
「あぁん!?」
街道横の茂みの中からみすぼらしい装備の者たちが現れた。武器もそれぞれが携帯している。
この辺ではあまり聞いていなかったが、盗賊が出るエリアだったようだ。
「動くなよ!?」
荷物を物色しているようだ。だが、それよりも商人の宝石に目を付けたんだろう。
「おっ!? 上玉も居るじゃねぇか!」
「やりやしたね! 頭ァ!」
「その宝石全部外せ」
剣の切っ先を商人に突き付けながらそう言い放った。それは有無を言わさない力が働いていた。
渋々宝石を外して渡す商人。
「い、命だけは……」
「あぁ? いいから全部外せ」
服も脱がされパンツ一枚にされて座らされる。なんとも情けない姿になった。
ワシは席に乗ったまま。
「じじい降りろ。この女は連れていくぞ」
「いや! やめてください!」
無理やり引っ張る盗賊に抵抗する女性。まさかこんなことになろうとは思っていなかっただろう。しかも、冒険者も置いてきている。まぁ、使い物になるかは定かではないが。
「ワシは老いぼれじゃ、どうなっても構わん。しかしのぉ、その女子は可哀想じゃ。離してやってくれんか?」
「ふんっ! ジジイは黙ってろ!」
そう怒鳴ると腹を蹴りつけてきた。蹴りを食らうがこの程度で倒れることはない。
丹田から力を巡らせていき、身体を活性化させる。ワシはこれを気功と呼んでいる。昔とある道場で学んだのだ。
「ん? ジジイ、硬ぇn──」
──ズゥゥゥゥンンンッッ
その音は事態を一変させた。盗賊の男は血を流して倒れた。白目をむいていて生死は分からない。
「おい! なにやってる! もういいからジジイを始末しろ!」
次々と襲い来る盗賊たち。
剣をいなして手を添える。
甲高い音を立てて粉々に砕け散る。
続いて盗賊共に掌底をくらわせていき、地面へと沈めていく。
それには血相を変えたお頭。自らが剣を振り回してきた。それも手を添えて粉砕し、腹に手を当てたかと思った瞬間口から、目から、鼻から血を吐き絶命した。
「ホッホッホッ。引退はしても身体は覚えているもんじゃのぉ」
痛む腰を叩きながら過呼吸ぎみの女性を抱え上げる。馬車の中に座らせて水袋から少しの水をコップに注ぎ差し出す。
「大丈夫じゃったか? 一口飲んで落ち着くんじゃ」
「はぁ。はぁ。はぁ。はぃ」
しばらくすると落ち着いたようだ。
女性は顔を青くしているが大丈夫そうだ。
「御者の方なのにお強いんですね?」
「なぁに。昔ちょっとのぉ。今は御者をしながら人助けじゃ」
「そうなんですか。それにしても凄いですねぇ。お名前伺っても?」
「名乗る程でもないがのぉ。ガルマというしがない武闘家じゃよ」
ワシは女子だけ乗せて出発の準備をする。
「おい! 爺さん、俺も連れてってくれ!」
「そんな態度で連れて行けると思っておるのか?」
「頼む! この通り!」
腕を後ろに縛られながら頭を地面に擦りつけている。
「仕方ないのぉ。それじゃあ、荷台に載せておくかのぉ」
男を持ち上げそのまま荷台に放り投げた。これでいいじゃろう。
道を塞いでいた大木は手を塞ぐと粉々になった。
再び、こんどはゆっくりと馬車を走らせて次の街へと向かうのであった。
私の乗った馬車、御者のお爺さんとてつもなく強かったんですけど? ゆる弥 @yuruya
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