第2話 2人の生活、そして夜には……
「ご馳走様でした!」
自宅のダイニングにて夕飯を食べ終わった柚羽は勢いよく、手を合わせて食後の挨拶をしていた。
俺も彼女に合わせるように手を合わせる。
「それじゃ、先に部屋に戻って準備してるから!」
俺はダイニングから出ようとする柚羽を呼び止める。
「その前に先、風呂入れ」
「えー、後でいいよ」
「前にもそう言って寝ただろ……」
ため息混じりに返すと、柚羽は何かに気付いたのか、勢いよく両手を合わせた。
「あ、もしかして遠回しに奏翔も一緒に入るって言ってるの? それならしょうがないなぁ」
柚羽はニヤニヤとした顔で俺を見ていた。
「くだらないこと言ってると……」
俺は右手の薬指を弾くような動きを柚羽に見せる。
「わかったから、デコピンはやめてー!」
柚羽は怯えた表情で自分のおでこを両手で抑えながらダイニングから出ていった。
小学校の頃、詳しくは覚えていないが彼女にデコピンをしたところ、相当痛かったらしくその時は泣き出してしまい、それ以来デコピンの仕草を見せるたびに怯えた表情をするようになった。
その間に、夕飯で使用した食器を洗うことにした。
「……それにしてもまさか、2人で暮らす羽目になるとは思わなかったな」
事の発端は俺の両親と柚羽の両親の海外出張の知らせだった。
元々、俺と柚羽は親が親友同士ということもあって、物心ついた時からの付き合い。俗にいう幼馴染というやつだ。
苦しかった高校受験も終わり、中学卒業して少ない春休みを謳歌していた時に、俺と柚羽はそれぞれの両親に呼び出された。
俺の父親と柚羽の父親は同じ会社で働いているのだが、2人揃って海外支部へ転勤となったと話していた。
長い期間海外で暮らすことになり、それぞれの母親もついていくことになったのだが、問題となったのは俺と柚羽。
急なことで、連れていくにも学校の手続きが間に合わなかったようで、俺たち2人はこちらに残ることになった。
普通なら、それぞれ祖父母に任せると思うのだが、何を考えたか俺たちの両親が出した答えは……。
「「ちょっと早いが、将来のための練習になるからいいか!」」
と言って、柚羽を藤野家に住まわせたわけである。
藤野家は持ち家だが、柚羽の家は借家だったため、柚羽の父親がちょうどいいとか言ってた気もする。
だが、いくらなんでも高校生が2人で暮らすというのは無謀すぎるだろうと思い、両親を説得しようとした。
「奏翔はこう言ってるが、柚羽ちゃんはどうだい?」
「私は奏翔と一緒に暮らせるならそっちがいい!」
予想外にも柚羽が乗り気だったため、俺の意見は満場一致で却下され今に至る。
一応、何かあればそれぞれの祖父母に相談してくれと言っていた。
2人で生活してそろそろ1年になり、少しは慣れてきてはいるが……。
「これがファンクラブの連中にバレたらどうなるんだろうな……」
真っ先に俺がファンクラブの連中に抹殺されるだろう。
考えただけでも体が震えてきそうだ。
食器を洗い終わり、使った食器を棚にしまっていると、ダイニングの扉が開く音が聞こえた。
「さっぱりしたぁ〜!」
気持ち良さそうな声と共に柚羽がダイニングに入ってきた。
先ほどと同じ薄いピンクパーカーだが、中のTシャツは『二次元最高!』に変わっていた。
ズボンはいつも愛用の寝巻き用のジャージ。
「こっちも終わったから、風呂に入ってくる。でたら部屋に行くから待っててくれ」
「うん、わかった!」
柚羽は嬉しそうな表情で大きな声で返事をしていた。
「ってかさ……」
ダイニングから出ようとすると、柚羽が話出す。
「どうした?」
「今のやりとり、他の人が聞いたらえっちぃ感じに聞こえるかな?」
「……はい?」
「ドラマとか、夜中のアニメでもあるじゃん、女性が先にシャワー浴びてバスタオル一枚で出てくるシーン」
柚羽は顔を赤くしながら若干、顔がニヤけながら説明を始めた。
「そのあとはもちろん——」
「わかったからそれ以上言わなくていい……」
俺は大きなため息をつきながらダイニングを出ていった。
学校では『学校一の清楚系美少女』などと言われているが、家の中では男の俺が平然とドン引きするようなことを平気で口にするのである。
「やっぱりバスタオル1枚で行けばよかったかな……でも前にそれやったら怒られたしなあ」
ドアの向こう側から柚羽のぼやく声が聞こえたが、何を話しているのかまではわからなかった。
まあ、十中八九俺が呆れる内容だろう。
「ついにこの時がやってきました!」
風呂から上がり、彼女の待つ部屋に行くと待ち遠しかったと言わんばかりに大声を上げる柚羽。
その手には新作のゲームソフトが握られていた。
「発売日までどれほど待ち遠しかったか……!」
柚羽はゲームソフトを抱きしめる。
「わかったから早くよこせ……」
「もうちょっと喜びを感じさせてよ! なんでも早く終わらせようとすると女の子に嫌がられるよ」
「早くやりたいんじゃないのかよ……」
柚羽からゲームソフトを受けとり、自分のゲーム機であるウイッチにソフトを差し込んでいく。
「ヒャッハー! 夜はまだまだこれからだぜぇ! 今日は寝ようだなんて思うないでよ!」
嬉しさからか、柚羽のテンションがいつもより違っていた。
「……って言いつつ大体おまえが先に落ちるんだけどな」
そう返すが、興奮状態の彼女の耳に俺の言葉が届くことはなかった。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
今年も宜しくお願いいたします!
久々にラブコメ書きましたので、楽しんでいただけると幸いです!
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