学校ナンバーワン清楚系美少女と呼ばれている俺の幼馴染。彼女のプライベートでの姿を俺だけが知っている

綾瀬桂樹

第1話 学校一の美少女

 「かーなーとくぅーん!」


 あっという間どころか、本当に秋なんてあったのかと思えるぐらい涼しい日々が過ぎ去り、季節はすっかり冬真っ只中。

 場所によっては雪が積もっていると朝のニュース番組で話していたな。


 そんな寒さを感じながら気怠く授業を受け、誰もが待ち遠しいと思える昼休み。

 俺、藤野奏翔ふじのかなとは登校前に買ってきたコンビニのパンをカバンから取り出していると、寒さを吹き飛ばすような暑苦しい見た目と声の男が目の前に立っていた。

 手には大きめの弁当箱。


 「……なんだ虎太郎か」


 コイツは恩田虎太郎おんだこたろうといって、本人の性格を表したような短めの髪のウルフカットに、何もかも突き刺しそうな鋭い目つきが特徴的の男だ。

 見た目から、クラスメイトの大半から恐れられており話しかけてくるのは少ない。

 本人曰く、とても穏やかな心優しき男だと言っているが……。


 「何だとは失礼なヤツだな、一人寂しそうにしてる親友のためを思って一緒に飯を食おうとしてるのによ」


 そう言いながら、虎太郎は俺の目の前の席に座る。

 この席の主、今日は体調を崩して休みだったはず。

 ちなみにいつもは昼休みになると虎太郎が来るので恐れてすぐに教室から出て行ってしまっている。


 「恩着せがましいやつだな、別に俺は一緒に食べようだなんて言ってないぞ」

 「そんな寂しいこと言わないで、楽しく飯でも食おうぜ!」


 虎太郎は持ってきた弁当箱を開ける。

 二段式の弁当箱で下の段には溢れんばかりの白米。上の段には唐揚げやハンバーグなどボリュームたっぷりな献立となっていた。

 見てるだけで軽く胸焼けがしてきそうなほどだ……。


 「お袋のやつ昨日の晩飯のあまりを全部ツッコミやがったな……!」


 大声で文句を言いつつもがっつくように食べていった。

 俺よりも背が高いし、これぐらい食わないと持たないのだろう。


 食べながらも話しかけてくる虎太郎の相手をしながら、買ってきたおにぎりを頬張っていく。



 「ごちそうさま、ふぅ……食った食った」


 スマホでゲームをしながら食べているうちに、虎太郎は食べ終わっていた。

 ふと弁当箱に目を向けると、大量にあった料理が綺麗さっぱりとなくなっていた。


 「……相変わらず食べるの早いな、よく噛んで食べないと胃が悪くなるぞ」

 「だってよ早く食わないとゲームやる時間なくなるだろ?」


 虎太郎は弁当箱をしまうとブレザーのポケットから小型のゲーム機を取り出す。

 

 「何でそんな旧式のゲーム機で遊んでいるんだよ……」

 「別にいいだろ、ソフトも安いし、古いといっても面白いゲームが盛りだくさんなんだぜ」


 虎太郎は自慢げに語りながら、ゲーム機のスイッチをスライドして起動させていた。

 俺はスマホの画面へと視線を移した。


 「なぁ奏翔……」

 「……どうした?」

 

 目線はゲームに向けたまま、虎太郎が俺の名前を呼んだ。

 俺も反応してはいるが、視線はスマホの画面のままだ。


 「どうしたら彼女ってできるんだ?」

 「……どうした突然?」

 「今、女の子とデートイベントやってんだけどさ……見てたらキュンとなってきたからつい」

 「……その顔でキュンとかいうな、気持ち悪いにもほどがあるぞ」

 「いくら俺でも傷つくぞ……」


 虎太郎はガックリと肩を落としていた。


 「ちくしょう、こんな清楚100%清楚な子とつきあいてーよぉぉぉ!」


 虎太郎が大声をあげながら、机をドンドンと叩き始める。

 突然のことだったため、教室にいたクラスメイトたちがこちらを見ていた。


 「静かにしろよ、みんな驚いてるぞ」

 「奏翔も見ればわかるはずだ!」


 虎太郎はゲーム機を俺の方へと向けてきた。

 画面には異世界ファンタジーに登場するような教会で銀髪のヒロインが目を閉じて祈りを捧げていた。

 

 「……言いたいことはわかるが、現実にこんな女はいないだろ」


 ため息混じりに答えると、虎太郎は「いるだろ!」と声高らかに叫ぶ。

 誰だよと聞くと虎太郎は自身たっぷりの表情を浮かべていた。


 「そりゃ和田塚さんに決まっているだろ!」


 虎太郎は教室の片隅の席で、分厚い本を読んでいる女子生徒『和田塚柚羽わだづかゆずは』の方を指さしていた。


 「さらっと腰まで伸びた綺麗な黒髪、聡明で透明感のある声、これぞ清楚といったら彼女しかいないだろう!」

 

 虎太郎がここまで話すにはそれなりの理由がある。

 件の和田塚柚羽は俺たちの高校では『清楚系美少女』と言われるほどの有名人だ。


 その人気ぶりは非公式のファンクラブが設立されるほど。

 会員は一年から三年の生徒だけではなく、一部の教師にもいるようだ。

 最近では学校外にも会員がいるとの噂もあるとか……。


 ちなみに、目の前で興奮気味に彼女のことを語る虎太郎もファンクラブの会員の一人だ。


 「お、その感じだと和田塚さんに興味を持ち始めたな、どうだ?ファンクラブに入って一緒に応援を——」

 「結構だ」


 おにぎりを包んでいたビニールを袋に入れながら淡々と断る。

 それからは虎太郎から和田塚柚羽について熱弁が始まったが、始業を告げるチャイムによって終わりを告げた。


 「次は体育だから準備しないとタナセンに怒鳴られるぞ」

 「マジか……またグラウンド1周は勘弁だぜ」


 虎太郎は慌ただしく自分の席へと戻っていった。

 ロッカーから体操服を取り出しながら、ふと……話題に上がった和田塚柚羽の席へと目を向けると、偶然にも彼女と目があってしまい、すぐに視線を逸らす。


 「……清楚系美少女か」


 思ったことを口にしながらロッカーの扉を閉めていった。



 「おーい、奏翔腹減ったから飯食って行かね?」


 本日の授業も終わり、クラスメイトが次々と教室を出ていく。

 週末ということもあってか、いなくなるスピードがいつもより早く感じる。

 そんな中、虎太郎が俺の席へとやってきていた。


 「……あんなに昼飯食べたのに腹減るってどんだけ燃費悪いんだよ」

 「タナセンのせいだって、少し遅れたぐらいでグラウンド2周も走らせやがって!」


 虎太郎はすぐに着替え終えると、グラウンドに行ったかと思っていたが時間があるからと言って女子更衣室を覗きにいったそうだ、目当ては和田塚柚羽。

 だが、残念ながら彼女は体調不良で体育の授業は欠席していたため、目当ての物を見ることもできず、遅れた罰としてグラウンドを2周走る羽目になってしまった。


 「自業自得だな」

 「この悔しさはプラ〜ザラーメンを食って忘れるしかない!」


 こいつの言うプラ〜ザラーメンというのは学校がある最寄駅にある立ち食いラーメン店のことだ。

 塩とんこつがベースとなったラーメンで、味もさながら他の店では大盛りが並盛りのため、虎太郎のように常に腹を減らしている学生たち行きつけの店となっている。


 「……わかったよ俺も付き合うよ」

 「珍しいな、いつもならすぐに帰るのに!」


 虎太郎はにこやかな顔になると意気揚々と教室を出ていく。

 俺も追うように教室を出ていく前に、誰もいない席に目を向ける。


 「……どうせ、今日は飯遅くなっても平気そうだしな」

 「おっ、何か言ったか?」


 小声で呟いたつもりが、前を歩く虎太郎の耳に入ったようだ。


 「いや、何にも」


 俺の返答に虎太郎は不思議そうな顔をしていた。



 「さすがに遅くなりすぎたか……」


 週末ということもあってか、ラーメン屋は学生たちでごった返していた。

 そのため、注文から料理が来るまで時間がかかってしまっていた。

 食べ終えてからすぐに電車に乗って、先ほど自宅のある最寄駅へと到着し、いまさっき家の前へとたどり着いた。


 「ただいまー」


 玄関を開けて中に入ると、ドタドタと音を立てて何かが降りてきていた。


 「おかえり! もう、遅すぎ! 奏翔が帰ってくるまで我慢してたんだよ!」


 階段から降りてきたのは『推し命』と書かれたTシャツの上に羽織った薄いピンクのパーカーにデニムのハーフパンツ姿の女。


 「週末だからそこまで慌てなくてもいいだろ、それよりも柚羽も夕飯つくるの手伝え」

 「わかったよお皿用意しておくね! 言っとくけど今日は寝かせないからね〜!」


 俺の目の前の女、和田塚柚羽は満面な笑顔で俺を見ていた。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。

本日18時頃にも投稿いたしますので是非、お楽しみください!

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