第13話 続・クリスマスプレゼント選び(奏翔→柚羽)
「はい、クリスマスプレゼント!」
会計終了後、クリスマス向けにラッピングされた欲しかったものを差し出す柚羽。
「ありがとな……」
セールで安くなっているとはいえ、一介の高校生にはそれなりの値段になっているものを買ってもらい恐縮してしまう。
「うわ……いつもと違う奏翔を見てキュンを超えた気分になってきちゃった。 今夜、夜這いしに行っていい?」
「……おまえ、人前でよくそんなこと言えるな」
学校では猫を被ったように清楚系美少女になりきっているのに、どうして学校外では清楚からかけ離れた言動をとるんだか。
「だって、昔からお父さんが言いたいことははっきり言いなさいって……」
「そろそろ、TPOをわきまえることを一緒に覚えようか」
俺は遠く離れた知り合いの人に向けて盛大にため息をついていた。
「さてと、俺のは終わったから次は柚羽だぞ……決まったか?」
柚羽が欲しいものは依然として決まっておらず、スマホで欲しいものを探すために一旦店内のカフェへと入っていった。
俺らが行った時に1組会計を済ませていたのですんなり入ることができたが、クリスマスが近いせいか入り口には長い行列ができていた。
「全然きまらなーい! 一番欲しいのは奏翔を1日自由に扱える権利なんだけどなあ……」
「何度も言うが却下だ!」
「いいじゃん、お金かからないよ?」
「……お金以上の何かがかかりそうだよな?」
「もう、お金で買えないものがあるってテレビのCMでも言ってるじゃん!」
柚羽はテーブルをドンドンと叩きながら力説していた。
その音に反応して周りがこっちをみてくるのでデコピンのポーズを作って止めさせた。
「それに俺を1日自由に扱うって何をさせる気だよ……」
「朝昼晩ご飯をつくってもらったり、一緒の布団に入ってゴロゴロしたり……」
「3食ご飯を作るっていつもやってることだろ……」
「あ、ちなみに布団に入った後のゴロゴロというのは隠語だからね!」
「そんなこと聞いてねーよ」
「そこは興味を持ってもらいたいんだけどなぁ、奏翔だって楽しめることだと思うし」
柚羽の話にツッコミどころか、反論する気力がなくなっていたので黙って放置することにした。
「とりあえず、俺を自由に使う権利は却下なので、他のを探してくれ……」
「わかったよぉ……」
柚羽は不貞腐れたのか唇を突き上げながら黙々とスマホの画面を見ていく。
「あ、いいのがあった!」
柚羽はそう叫んだ直後、俺の方へと画面を向ける。
画面には1冊のTシャツが映っていた。
「究極勇者ライガプリントTシャツ……」
「うん! ユメクロとコラボしているみたいだよ」
「……それにしても随分古い作品とコラボするんだな」
「でもね、来年辺りライガのアニメがリバイバルしてやるみたいだよ?」
さすが、自称『旦那』のこととなると詳しいな。
「たしか、この中にユメクロあるから行ってみようよ!」
「わかった」
俺を自由に使える権利から変わったことに一安心。
カフェを出てエスカレータを上がった真正面に目的の場所である男女問わずファッション商品を扱う店舗であるユメクロにやってきた。
他の店舗と同じようにここも大勢の客でごった返していた。
「あ、コラボ商品あっちだって!」
そう告げた直後、柚羽は俺の手を取ると引っ張るように奥へと進んでいった。
向かった先には『究極勇者ライガコラボ商品』とプレートが貼られたコーナーができていた。
「スウェットにパーカーにTシャツっていっぱいあるよ!」
自分の旦那が商品になったことがよほど嬉しいのか柚羽は興奮気味に話してきた。
「あ、ライガ意外にもフウヤとか当時の奏翔のガチ恋相手のカイリちゃんのもあるね」
「……いったい何年前のことを言っているんだ」
柚羽があげた名前は全て作品に出てくるキャラクターたちだ。
フウヤはライガのライバル的存在で、敵対していたが後に仲間になったというキャラクターで、当時はそんな展開に興奮していた覚えがある。
そしてカイリというのはこの作品のヒロインで、物語の途中でライガの恋人になっていた。少年向けアニメにありそうな純真無垢かつ清楚を全面にだしたキャラで、俺と同じぐらいの年齢の男にはいまだに人気にあるキャラだ。
ちなみに俺も当時はこんなキャラに好かれたいと思っていたし、それを柚羽にも話したことはあるが、今風でいうガチ恋とは違うと思う。
そんなことを考えているうちに柚羽の手には欲しい商品なのか、2枚のTシャツがが握られていた。
「見て! ライガのTシャツかっこよくない!? これを着て寝たらライガに抱かれてると思い込んじゃうよね!」
「そんなこと考えるのはおまえぐらいだ……」
「もしかして、ライガに嫉妬してる? まったく素直に言ってくれれば奏翔だっていつでも抱い——」
「買ってくるのはそれでいいな、買ってくるから入り口で待ってろ」
柚羽がこれ以上、卑猥な妄想を垂れ流す前に商品を取ってレジへと向かっていった。
「クリスマス期間になりますので、無料でラッピングできますがどうなさいますか?」
すぐ渡すものなのでいらないかと思ったが、俺のプレゼントがラッピングされていたことを思い出し、合わせるために店員さんにラッピングをお願いした。
店員さんは「承知しました」と告げると、手際よく商品をラッピングしていった。
「それではこちらになります。それとこちらキャンペーンチケットになりまして、1階の中央エリアで抽選会やっていますのでよろしかったらどうぞ」
そう言って商品と一緒に『クリスマス抽選会!』と大きな文字で書かれた長方形のチケットを受け取ると、柚羽のいる店の入り口へと向かっていった。
「はい、クリスマスプレゼント……」
柚羽と合流すると同時に、買ってきた商品を柚羽に渡す。
「ありがとう!! うへへ……奏翔からのプレゼントじゃあ」
受け取った柚羽は商品を抱きしめながら、下品な声をあげていた。
「そういえば一緒に抽選券もらったんだが……」
「あ、それ! さっき奏翔のプレゼントを買った時にももらったよ!」
柚羽はパーカーのポケットから先ほどもらった物と同じ券を取り出した。
「1枚につき1回だから2回できるね!」
「せっかくだし、やっていくか……」
「うん!」
柚羽は元気よく返事をすると、俺の腕にしがみついてきた。
エスカレーターで1階までおり、中央エリアへと向かうと大抽選会と書かれたコーナーがあった。
スタッフの目の前のテーブルにはこの手の抽選会ではお馴染みの手動で回していくタイプのガラポンが置かれていた。
俺らがいった時には誰もいなかったので、すぐにやることができた。
テーブルの横には景品一覧が書いてあり、1等には温泉旅館のチケットと書かれているが、こういうのはそう簡単に当たるものではないと思っているのであまり期待していない。
消耗品のティッシュ1パックが当たればラッキーぐらいの感覚だ。
「チケットは2枚になりますので2回挑戦できます! それではどうぞ!」
スタッフが勢いに任せた声で場を盛り上げていった。
「最初どっちがやる?」
「それじゃ最初に私がやるよ、目指せ温泉旅館チケット!」
柚羽は勢いよくガラポンを回していくが、出てきたのは青い玉。
「こちらティッシュ1パックとなります!」
予想通りの結果だった。
「奏翔、私の仇を討って! 狙うは温泉旅館のみ!」
「……むしろティッシュもう1パックのほうが嬉しいけどなよく使うものだし」
そう思いながらガラポンを回し、出てきたのは……!
「おめでとうございます! 1等! 年始の初日の出は2人だけの物! 老舗温泉旅館チケットです!」
スタッフは勢いに任せて小さなベルをカランカランと鳴らしていった。
「……嘘だろ?」
俺の隣で柚羽が今にも泣きそうな顔ではしゃいでいたが、突然のことすぎて脳が理解にするのに時間がかかっていた。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
本日18時頃に14話を投稿いたしますのでお楽しみに!
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