第12話 クリスマスプレゼント選び(柚羽→奏翔)
「ねぇねぇ奏翔、今年のクリスマスプレゼントは何がいい?」
誰もが待ち遠しかった冬休み初日。午前中に掃除と洗濯を済ませ、コンビニで買ってきたパンやおにぎりなどの軽食を昼に食べていると、何かを思い出したかのように柚羽が訪ねてきた。
「欲しいものねえ……」
毎年、藤野家と和田塚家合同でクリスマスパーティをやっていたのもあってか、柚羽とプレゼント交換会を行っていた。
やり始めたのはたしか小学校高学年の時だったか、小遣いの範囲内でお互いが喜びそうなものを買ってきて、交換し合うというものだ。
最初は互いに喜びそうなものを必死に探していたが、面倒になり最初から何が欲しいか聞くようになっていた。
「全く決めてない」
現状、これといって欲しいものはなかった。
正確にいうとはあるはするが、一介の高校生が手を出せる金額ではないものだ。
「ちなみに柚羽ちゃんが欲しいならすぐに用意できるよ?」
「安心しろ、その選択肢は絶対にないから」
「えー……どこでフラグ回収し忘れたんだろぉ」
柚羽は不機嫌そうにシャケおにぎりを食べていた。
「そういう柚羽は決まっているのか?」
「全然決まってないよ……あっ!」
「どうした?」
「奏翔を自由に使える権利とかあればそれが一番欲しいかも」
「却下」
返答に柚羽はガックリと肩を落としていた。
俺を自由に使える権利ってどんな風に使うつもりだコイツは……。
「それならご飯食べたらショッピングモールに行かない? 明日と明後日はLEOのクリスマスイベントやりたいからさ外出したくないし」
「たしか、2日限定でアイテムを集めるんだったか?」
「そうだよ、集めた収集アイテムで衣装とか手に入るんだって! その中にサンタコスもあるみたいだよ? ほら、セシリアちゃんのサンタコスがみたくなったでしょ?」
柚羽は身を乗り出しながら俺の顔をジッと見ていた。
早い話が2日間付き合えと遠回しに言っているのだろう。
クリスマスイベントはやるつもりでいたので、今日のうちに買い出しへ繰り出しておくはいいのかもしれない。
クリスマス用のケーキだったり食材も欲しかったし。
「サンタコスは別として、イベントには参加するから今日のうちに買い出ししとくぞ」
俺の答えに柚羽は両手をあげて喜んでいた。
「それじゃしゅっぱーつ!」
お互いにやることを済ませて、ショッピングモールへと向かって歩き出した。
柚羽は相変わらず、勝手に俺の赤いパーカーに紺のジーパン、キャップを被った姿で俺の腕にしがみついていた。
「……相変わらず俺のパーカー着てるのか」
「着やすいのが悪い!」
「何でそこで逆ギレなんだよ」
「こうしてると奏翔と一つになってみたいで、身も心も気持ちよくなれるんだよ〜」
そう話す柚羽の顔は愉悦に満ちた表情をしていた。
「普通にキモい」
その直後、柚羽に足を蹴られた。
ショッピングモールは駅と繋がっており、その手前にはよく買い物にいく商店街になっている。
次の日がクリスマスイヴということもあってか、商店街通りもクリスマスムードとなっていた。
「そういえばクリスマスは何を作るの?」
よく食材を買いに行くスーパーの前を通り過ぎようとしていた時に柚羽が聞いてきた。
「考えてないけど、柚羽は食べたいものはあるのか?」
「ハンバーグかな」
聞く相手を間違えたかもしれない。
食べ物に関しては相変わらず、小学生男子並みの趣向だ。
「……せめてケーキとか言ってくれれば納得したんだけどなあ」
「もちろん、夕飯はハンバーグでデザートはクリスマスケーキに決まってるじゃん」
「すごいボリュームだな」
考えただけで胃がもたれそうだ。
ハンバーグは柚羽だけにして自分用に鶏肉を使った料理でも作るとしよう。
他愛のないことを話しているうちに、商店街を抜けた先にあるショッピングモールへと辿り着いた。
「うわぁ……人がたくさんいるね、やっぱ休みでクリスマス直前だからかな」
「そうだろうな」
ショッピングモールへと繋がるコンコースから道路が見えるが、ほとんどがモールに行こうとしているのか大渋滞となっている。
その状況を尻目に俺たちはモールの中にある大きなショッピングセンターと入っていった。
センターの中はキラキラと輝くリースを模した装飾品や『Merry X'mas』と書かれたプレートが飾られるなどクリスマス一色になっている。
また、店内を流れるBGMもクリスマス定番の曲が流れ、俺の隣ではその曲を口ずさんでいた。
「さてと、どこに行くんだ?」
「せっかくなら店内を見て回ろうよ! 時間ならたっぷりあるんだし」
「……わかったよ」
夕飯を作る時間などを考えたらたっぷりはないのだが、満足しないと帰れそうもないので仕方なく付き合うことにした。
「あ、ちょっといいか?」
歩いているうちに気になる店を見つけて足を止める。
「いいよー! あ、この店って最近テレビでやってたアウトドアの店だよね」
「そうだな、ネットの広告で見つけて行こうと思っていたのを忘れてた」
店内に入っていくと、アウトドアで使うテントやキャンプを題材としたドラマで主人公が使っていたメイフライトチェアなど、数多くの商品が展示されていた。
「そういえば昔、いろんなキャンプ場に行ったよね」
「だな、親父とおじさんが好きだったしな」
俺たちが小学生の頃から中学生2年ぐらいまで、毎年夏休みに入るとキャンプに行っていた。
親父たち曰く、いつも喧騒な都会で仕事しているから静かな自然の中で過ごしたくなると話していたが。
その時はその言葉の意味がわからなかったが、最近になって少しだけ意味がわかったような気がしている。
「高校受験が終わったらまた行くのかなとおもったら海外転勤になって残念だね」
「まあな……」
2人の父親が好きだったのもあってか、自宅の庭にある収納棚にはキャンプ用品でごった返している。
この前使ったホットプレートもその1つだ。
「あったこれだ」
店内を歩いているうちに気になっていた商品を見つけた。
「何これ?」
俺が商品を手に取ると横から見ていた柚羽が興味津々な顔で見ていた。
「包丁とまな板のセットだよ」
見た目は折りたたみ式の木の板だが、開くと中に小さい包丁が入っている。
「ちなみに木の板を開いたままひっくり返すと……」
「まな板になった……」
持ち運びが簡単な一式となっている。
たまたま動画配信サイトでアウトドア系の配信を見た時に配信主が使っており、ずっと気になっていた。
「……にしても結構値段がするな」
商品の手間に置かれた値札を見ると、クリスマスセールで値引きされているものの、それなりの値段となっていた。
「それが欲しいの?」
「そうだけど、それなりの値段がするから悩んでいるんだよな」
商品を見ながら考え込んでいると、柚羽が俺から離れ商品を手にしていた。
「それじゃこれは私からのプレゼントにするね〜」
「ってさすがにこんな高いものは——」
「大丈夫だよ、お小遣い貯めてあるし! それにいつも私のわがままに付き合ってくれてるからそのお礼だよ」
そう言って柚羽は店のレジへと歩き出していった。
「……一応わがまま言ってる自覚はあるのか」
そんなことを思いながら俺は柚羽の後を追いかけていった。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
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引き続き面白い作品にしていきます!
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