第7話 休日の暑い夜

 「ごちそうさまでしたー!」

 「……ごちそうさまでした」


 2人揃って両手を合わせる。


 「奏翔どうしたの、苦しそうだけど?」

 「……おまえ、よくあれだけ食べて平気な顔していられるな」


 夕飯の買い出しの時にハンバーグを買うことを了承はした。

 目の前の女が溢れんばかりの笑顔で2個セットのハンバーグを持ってきて、それをカゴに入れたのは俺だ。

 そこまではよかった。


 「こちらの商品は本日限定でもう1セットでも同じ値段ですよ」


 レジの店員さんの言葉を聞いた柚羽は一目散に同じ商品を取りに行った。

 値段が変わらないなら日をわければいいかと思ったが、そこには罠が仕掛けられていた。

 

 ——消費期限が今日だった。

 どうりで安いと思ったよ!


 そんなこともあり、今日のうちに2個分のハンバーグを食べなければいけなくなる羽目に。

 大好物が2個も食べれるということもあって柚羽は食べ盛りの少年のように食べていったのだが、それに付き合わされる俺はなんとか平らげることはできたが、当分ハンバーグは遠慮したいと思うほどになっていた。


 「ほら、大好物は別腹っていうでしょ?」

 「……それをいうなら甘いものだろ」


 甘いものは別腹というのは女性特有のものらしいが……。


 「さてと、お腹もいっぱいになったことだしあとは、お楽しみのお時間だよね」


 なぜか柚羽はニヤニヤとした表情で俺を見る。


 「その前に片付けと風呂を済ませてからだ」

 「はーい!」


 元気よく返事をした柚羽は食器をシンクに置くとすぐにダイニングから出ていった。

 どうやら食器を洗うという選択肢は彼女の中にはないようだ。

 前にやらせた際、立て続けに食器を割ったことがあるので、それを考えたらいい選択だと思う自分が少し悲しくなる。


 「とりあえず、さっさと済ませるか……」


 自分の使った食器をシンクにいれ、蛇口から水を出していく。

 昼間はそれなりに暖かったが、夜になると気温がここまで下がるのかと冬の温暖差を思い知らされる。



 「いらっしゃーい! 準備万端いつでもいけるよ!」


 食器を片付けてから風呂を済ませてから2階にある自分の部屋に行くと、お腹の辺りまでファスナーを開けた緑のパーカー姿の柚羽がベッドの上に腰掛けていた。

 ちなみに中のTシャツには太い文字で『ガチ恋』と書かれている。


 「おまえ、そのTシャツどれくらいもっているんだ?」

 「前にネットでセールやった時に大量に買ったからまだまだあるよ。もしかして奏翔も着たくなった?」

 「……なんでそうなるんだよ」

 「えー、似合うと思うけどなぁ……『幼馴染LOVE』ってのがあるけど?」

 「却下だ」

 

 俺が力強く断ると、柚羽は口を尖らせながら俺のベッドの上に横たわっていた。


 「横にあるのはいいけどそのまま寝るなよ、俺の寝る場所がなくなるだろ」

 「そうなったときは奏翔も一緒に寝ちゃえば万事解決!」

 「解決しねーよ……狭くて熟睡できないだろ」

 「ここだけの話、私の体って抱き枕代わりになるって話ですぜ」

 

 突如、柚羽は右手を口元に添えて小声で話し出してた。


 「……あえて聞くがどこ情報だそれ?」

 「ソースは私! 嘘偽りない正確な情報ですぜ」


 一番信用できない情報元だった。


 「……頭痛がしてきたからこの話はヤメだ! さっさと次のクエスト進めるぞ」


 強制的に会話をぶった切る。

 ベッドの上は柚羽に占領されているため、デスク用の椅子に座ってからウイッチの電源を入れた。


 「でも、次のクエストに行くにはレベル上げなきゃいけないみたいだよ」

 

 そう言って柚羽は俺にウイッチの画面を見せる。

 クエストの詳細画面が映っており、必要項目として必要レベルが表示されていた。


 「だいぶあげないとダメか、装備用のお金のついでにフリーエリアうろつくか」

 「そうだねー」


 マップから雑魚敵がずっと湧いてくるフリーエリアを選択する。


 ネットワーク対応非対応に限らず、RPGにおいてレベル上げとゲーム内のお金稼ぎは単純作業であることは誰しもが感じることだ。敵を探す、敵を倒す、戦利品を拾う……といった繰り返し行う、俗にいうルーティーンワークをずっと続けていかなければならない。稀にこの作業が楽しいと感じる人もいるようだが、俺や柚羽はそれには該当しない部類だ。


 で、ここまで長々と言ってきたが、結論として何が言いたいかというと……。

 2人とも同じ作業の繰り返しに飽きが来ていた。それに伴い睡魔との戦いも始まろうとしていた。


 「……柚羽、寝るな」

 「ふにゃあ……」


 俺も危険な状態ではあるが、柚羽は瀕死の状態だった。

 定期的に声をかけなければ夢の世界へと旅立ってしまう。


 柚羽は休日になるとほぼ家に引きこもっているが、今日に限っては朝から洗濯物運びや買い物をするなど、珍しく脱ひき引きこもりとなっていたこともあり、いつもより体力が消耗していたのだろう。


 なんとか2人のキャラクターが規定レベルに達することができたが、時既に遅し。


 「……ここまでか」


 柚羽はベットの上で完全に沈黙していた。

 満足そうに心地良さそうな寝息を立てている。

 

 ——ってかいつの間にか、布団を被ってるし!?


 昨日と同じように2人のウイッチの電源を切り、柚羽を部屋に運ぼうと思ったのだが……

 思っていた以上に自分も体力を消耗していた。

 運び慣れているとはいえ、今の状態で持ち上げるのは厳しいと体が訴えている。


 「……仕方ない」

 床で寝るという選択肢もあるが、今日は朝からこいつの相手やら物を運んだりとそれなりに動いていたため、体がふかふかの布団を欲していた。

 盛大なため息をつきながらふとんをめくり、中へと入っていく。

 もちろん、柚羽の反対側の方を向く。


 「明日掃除が終わったら昼寝しよう……」


 そう思いながら俺は目を閉じていく。

 ちなみにこの状態でも柚羽はぐっすり眠れたのか、心地よい顔で朝を迎えることができたようだ。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。

本日18時頃に8話を投稿いたしますのでお楽しみに!

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