第4話 商会の総力をあげて奴らに復讐を遂げますわ……!

「おいおい、こりゃ大変なことになったぞ」

「よりによってあそこがね……」

「いつこっちも同じ目に遭うかわからないな」


 それは翌日のことだ。

 ギルドの前を通りかかると気になる会話が聞こえてくる。

 なにか事件でもあったかのような口ぶりにふらっと足が向いてしまった。


「あら、クレハさん。今日もご依頼ですか? それとも……」


 不安げに眉をひそめるリンスさんの振る舞いは、明らかにいつもとは違い異変を思わせるものだ。


「何か大変なことが起こってるんだろ? 俺はそれを聞きにきたんだ」


「それがですね――」


 魔族と名乗るもの達が隣街の商業区を襲ったのだという。

 あの時グレイスの言っていたことは間違っていなかった。

 ギルドを出ると状況を確認するべくすぐに向かった。


 酷い有様だ。

 いくつかの店は半壊もしくは全壊にまで追い込まれ、周囲には野次馬だろう人だかりができている。

 俺はふと鍛冶屋のことを思い出しそちらに足を向けた。


「儂の工房はそうそうやられはせん。なにしろ特殊な金属を用いておるからな。槍の雨でもびくともせんわ!」


 がははと豪語するグレディアンの言うとおり、ここには何の損害も見当たらない。

 相当金が掛かってるのは間違いないな。


「まるで要塞のようだな」


「だがあの酒場はただでは済まんかったようでな。気になるなら行ってみるがよい」


 この街にある酒場は一軒だけだ。

 嫌な予感とともにフラールへ向かうと、外壁は崩れ内装も荒らされていてまるで店の体をなしていない。

 これが俺の店だったら立ち直れないだろう。


「クレハ様」


 シアがひどく沈んだ表情で俺に声を掛けてきた。

 そう気を落とすな?

 頑張っていればいいことがあるさ?

 そんな無責任な言葉おいそれと掛けられるものか。

 それでもなんとか振り絞ろうと考えこんでいると、


「わたくし達はこの蛮行に屈しません。商会の総力をあげて奴らに復讐を遂げますわ……!」


 力強い言葉とは裏腹に、彼女は体を震わせ膝から崩れ落ちた。


「俺達冒険者が必ずこの件を追及する。だから今はフラールの再建のことだけを考えてくれ。もちろん、俺の店でできることならなんだって協力を惜しまないつもりだ」


 シアの肩にそっと触れる。

 彼女はすがるように俺の手を硬く握り、人目も憚らず声を上げて泣き始めた。

 強がってても辛いものは辛いよな。

 俺はその様子にいてもたってもいられずギルドへと舞い戻った。


「クレハも来ていたのね」


 ギルドへ入るとすぐにアリスフィアとアインズ達に遭遇した。

 話を聞くと急遽呼び出しがあったのだそうだ。


「ランクAとBの冒険者が各地の守りにつくことに決まったの。私と昇格したばかりのアインズ君達でこのルーグロエに詰めるわ」


「それなら安心だ。俺は奴らの居場所を探るとするか。前に話したはぐれ魔族なら何か知ってるかもしれないしな」


「クレハ一人で向かうの?」


 アリスフィアは大丈夫? とは聞かない。

 表情をあまり動かさず、それを気取られないようにしているあたりがらしいと言えばらしい。


「密偵と考えれば単独の方が動きやすいからな。それに心配されるような動きを取るつもりはないよ」


「本当頼もしくなったわね。どうか気をつけて行ってらっしゃい」


 そうして四人と別行動になった。

 ひとまずは以前グレイスと剣を交えた、カンバスの荒地と薬草の裏山から捜索を開始。

 だがしらみつぶしに当たっても奴の影を見つけるには至らない。

 追われる身ということは目立たないとこに潜んでるのか?

 考えを巡らせそれに合致する場所を思い出した。


 ギィと重々しく扉が開く。

 同族の追撃から身を隠すならここが最適だろう。

 俺は不死のわんさかいるレイズナーの館へ足を運ぶ。

 道中はすでに俺の敵ではなく、以前巨大ベアルと戦った大広間まで一直線に突き進んだ。


「そこにいるのはクレハなのだろう?」


 声が聞こえると剣を構えるが、グレイスの姿はどこにも見当たらない。


「おい、また襲い掛かってくるつもりか?」


「そうしたいのは山々だが、今はそれどころではない」


 その様子からして、やつはすでに同族に嗅ぎつかれているのかもしれない。

 長居は無用と見るべきだ。


「単刀直入に一つ聞いておきたいことがある。お前の言ったとおり、元お仲間さんが攻め込んできてな。そいつらの居場所を知らないか?」


 ひとまず刀身を鞘に戻す。


「ふ、人間ごときが魔族と遣り合おうというのか?」


「ああ、許しておけない理由ができちまったからな」


「そうか。すでにもぬけの殻になっているかもしれないが、三箇所ほどねぐらにしていた場所がある。まずはそこを足掛かりにするといい」


 どこかからか巻物状に包まれた地図が転がってきた。


「ずいぶんとすんなり教えてくれるんだな。もっと渋るものかと思ってたんだが……」


「もはや仲間ではない奴らに義理立てする必要などないわ。おれはただ、お前達人間が打ち破るのかはたまた全滅するのか。その行く末に興味を持っただけのこと」


「だったら人の代表としてこっちからも一つ言っておく。なにか困ったことがあったらいつでも頼ってくれ!」


「義理堅いことだ。せいぜい期待せずに待つとしよう」


 これは重要な手掛かりになるだろう。

 俺はグレイスと別れルーグロエへと戻った。

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手から延々と酒が出せる能力を掴まされたから、なりゆきで女神と酒場をオープンしてみた件 ななみん。 @nanamin3

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