卯→逃げ→立つ
武江成緒
卯→逃げ→立つ
冬の月はまだ
その隙に、兎は月から逃げ出した。
べつに不満がある訳でもない。
訳ではないが、毎年々々、年の暮れにもかかわらず、
ほんの
夜に
そも己が月の世界の住人に加えられたも、その己に対する情を焼き捨てて肉と血すべてを
玄武岩の黒くたゆたう嵐の
堕ちた大晦日の地上は、玄武の
かつて己を
過ぎ行く年への悔恨と、来たる年への欲望とがぶつかり合い混ざりあい、貪瞋癡に七つの大罪、混沌たる妄念より咲き誇った百八の煩悩は鐘の音では祓われもせず、むしろ昨今は
その猛威は容赦なく兎を襲い、玉のごとき身を
かつて
――― 何たること。これではただの
慌てて兎は
奔れど奔れど果てはなし。神話伝説の時代は遠く、いまや地球は
背後に迫る煩悩の
それでも兎は奔り続ける。
恐怖、悲嘆、憤怒、欲望、そして希望。月世界では穢れでしかない激情を燃やし、かつて
そして遂に、腹の中にて
声なき兎の喉の奥から、咆哮となってほとばしったとき。
猛燎たる白き気は兎の身を隠し呑み込み、その
夜闇を切り裂く閃光を目から放ち口より吐き、
令和の
卯→逃げ→立つ 武江成緒 @kamorun2018
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