オチャメな妹分と白い蛇

フィステリアタナカ

オチャメな妹分と白い蛇

「兄者! 兄者! 起きるのじゃ!」

「うーん」


 僕は寝ぼけ眼のまま、同じ魔族のタンヤオに起こされた。まあ、彼女が起こしにきた理由は何となくわかるけど。


「タンヤオさぁ、今、何時なんだよ」

「そんなことはどうでもいいのじゃ! 祭りに行って、わらわに綿あめを奢るのじゃ!!」

(だろうね。ゲームに負けて、いじけていたから奢るって言っちゃったし)


 僕は時計を確認する。

(おーい。明け方4時って、何時間お祭りに参加するのよ?)


「まだ、綿あめ売っていないよ。もう一度寝かせてくれ」

「ん? まだなのか? わかったのじゃ。兄者、冷蔵庫にあるトロピカルオーロラ南国北極プリンを食べてもいいか?」

(そんなものはない。南国でトロピカルなのか北極でオーロラなのか、どっちかだろう普通)


「冷蔵庫の中の物、好きにしていいよ」

「兄者、ありがとなのじゃ!」


 僕はベッドの上でまた横になる。向こうで「トロピカルオーロラ南国北極プリンが無いのじゃぁぁ! 誰が食べたのじゃぁぁ!」と声が聞こえたが気にせず寝ることにした。


 ◆


 朝


「兄者。早く朝食食べて、祭りに行くのじゃ」

「そうだね。そういえばタンヤオ、夏休みの宿題は終わったの?」

「ふぉふぉふぉ。兄者、わらわをバカにするな。1つも手をつけていないのじゃ!」

(えーっと、あと3日でやるのか。すごいな)


「時間あるから少し夏休みの宿題やったら?」

「兄者、タイムイズお菓子じゃ。早く行かないと綿あめが無くなってしまうのじゃ!」

「はぁ。はいはい、今食べているからちょっと待ってて」

「わかったのじゃ。ちょっと待ったのじゃ」

(1秒も待っていないよね?)


 こうして僕はガヤガヤ言っているタンヤオを無視して、朝食をゆっくり食べた。


 ◆


「兄者! あそこじゃ!」


 僕はタンヤオと共にお祭りのやっている広場に着くと、彼女は速攻綿あめ屋さんの所へ行った。僕も後から綿あめ屋さんの所に行く。どうやら彼女はどの綿あめにするかキョロキョロと見ていた。


「タンヤオ。決まった?」

「白も赤も黄色も選べないから全部欲しいのじゃ」


 僕はタンヤオの希望に応え、3種類の綿あめを買った。


「毎度! あっ、そうだお嬢ちゃん。あっちのカラオケ大会でいい点数をとってMVPになると抹茶バニラプリン(Matcha Vanilla Pudding)がもらえるぞ」

「兄者! 兄者! すぐ行くのじゃ!」

「はいはい。わかったよタンヤオ」


 ◆


 僕らは綿あめ屋さんから移動してカラオケ大会の会場へ行く。そこに着くと何やら盛り上がっている様子だった。


『おーっと、これはすごい。35点だ! 暫定トップ! さすが優勝候補は違いますね』


(帰ろうかな)


「兄者。わらわは行ってくるぞよ」

「うん。頑張ってね。タンヤオ」

「ふぉふぉふぉ。わらわがMVPで間違いないのじゃ!」


 タンヤオはステージの所に行き、係員に声をかけている。


『おっ、次のチャレンジャーは10歳の女の子、タンヤオ。いや、タンちゃんだ!!』


 タンヤオはステージの上に立ち、マイクをもらう。


『ふぉふぉふぉ。わらわは歌うぞよ。わらわはMVPになるのじゃ!』

(何を歌うんだろ)


『ハッピーバースデートゥユー♪ハッピーバースデートゥミー♪ショートケーキにモンブラン♪』

(ん? なんだ? 聞いたこと無い歌だな)


 タンヤオが歌い終わり、得点が出る。


【10点】


『ふぉふぉふぉ。テストでこんな点数取ったことないのじゃ。自己最高点数なのじゃ!』

(うん。帰ろう)


 僕はカラオケ会場をあとにして、屋台の並ぶ通りへ行く。


「おう! 兄ちゃん! 蛇すくい、やんねぇか?」

(懐かしいな。いつも紙すぐ破れるんだよね)


「おじさん。1回いくら?」

「そうだなぁ。あの白いのを取れたら、タダにしてやるよ」


 僕は店主の指差した水槽の隅を見ると、小さな白い蛇がいた。

(あれ? アイツかなり弱ってる)


「おじさん。この子にヒールかけていい?」

「ん? 別にいいが、元気が出て暴れるぞ」

「大丈夫です。それよりも可哀想なんで」


 僕は白い蛇に手をかざし、ヒールをかける。すると、目を開けて僕の方を見た。


「よし!」


 僕は慎重に白い蛇に紙を近づける。すると逃げるどころか紙に乗ったので、すぐに引き揚げた。


「よーし! おじさん、これお願い。もう他の蛇は捕らないから」

「おう、いいぞ。貸しな」


 店主は水の袋に白い蛇を入れる。


「ほい。また来てくれな」

「ありがとう。おじさん」


「兄者! 兄者! どこに行っていたのじゃ」

「タンヤオ」

「見てぞよ。参加賞のいちごバニラプリンなのじゃ!」

(よかったね。MVPと変わらないじゃん)


「よかったね。そろそろあっちでファイヤーフラワーが始まるから見に行こう」

「兄者、わらわはもっと食べたのじゃ」

(花より団子)


「甘い物はいつでも食べられるよ。ファイヤーフラワーは年に数回しか見れないよ」

「わかったぞよ。ん?」

「タンヤオどうしたのよ?」

「兄者、その白いのは何ぞや?」

「ああ、蛇すくいで捕ったんだ」

「なんじゃ。バニラ棒と思ったぞよ」

(どう見たら、バニラ棒に見えるんだ?)


 僕らはファイヤーフラワーが良く見える泉へ行く。途中タンヤオがふざけてぶつかってきて、手に持っていた白い蛇を泉に落としてしまった。


「もう! 何してんだよ!」

「兄者、ごめんなのじゃ。許してなのじゃ」

「まったくぅ。次から気を付けて」


 僕がタンヤオに注意していると、後ろから物音が聞こえた。振り向いたとたんに泉が光だし、僕の目の前には精霊が現れた。


『あなたが落としたのはこの「白い蛇」ですか? それとも「夏休みの宿題代行サービス」ですか?』


「ふぉふぉふぉ。わらわが落としたのは――ふぐふふぐふ」


 僕は慌ててタンヤオの口を塞ぎ、


「落としたのは、白い蛇の方です」


『わかりました。正直者のあなたには――』


 精霊がそう言うと、泉が輝きだし、白い蛇は大きな龍へと変化した。


『礼を言う』


 僕はビックリしたが、龍を助けていたことに気がつき、龍に伝えた。


「龍神様ですか?」


『違う、爺さんではない。龍神の孫にあたる』


「そうなんですね。何で蛇の姿に」


『地上に降りたら、瘴気の凄い所でな。弱ってしまいあの姿になってしまったのだ』


「そうなんですね。なぜ地上に」


『昔食べた、綿あめが食べたくなってな』


(アイツと変わらないじゃん)


『助けてもらったお礼に、この箱をやろう』


 泉から木箱が現れ、僕のところにきた。


『開けてみろ』


(おっかねぇ。白い煙が出て爺さんになるの? それともこれはパンドラの箱?)


 おっかなびっくり木箱を開けると、輝く玉があった。


「これは何ですか?」


『龍の玉だ。飲み込めば我が力の一部を得ることができる』


 驚いた。まさか、龍の力を手に入れることができるなんて、思ってもみなかったからだ。


「いいんですか?」


『飲んで欲しいが、飲まなくてもいい』


「わかりました」


 僕は龍の玉を飲み込んだ。力がみなぎってくる。

(すごい)


「ありがとうございます。龍神様のお孫さん」


『礼を言うのはこっちの方だ。では、さらばだ』


 龍は天へと帰っていく。空にはファイヤーフラワーが花開いた。


「兄者、ファイヤーフラワーを見たのじゃ。戻ってチョコバナナを食べるのじゃ!」


 僕はタンヤオを捕まえ、泉に放り投げる。泉にはファイヤーフラワーの光が揺らいでいた。


「はぁ」

(もう、面倒見きれないよ。でも、見るしかないか)


 こうして、無事にタンヤオは宿題をやらず、先生に怒られたのだ。

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