至って普通のおじさんです
ロゼ
第1話
お腹がペコペコだった。
友達に誘われて、気軽な気持ちでやって来た登山。
「初心者でも気軽に登れるから、ハイキングのつもりで行こうよ!」
そんな言葉を信じていたのに、気付けば登山慣れしている友達は遥か先に行っていて、取り残された私はどういうわけか道を外れてしまったようで、道すらなくなった山の中を、もうかれこれ四時間以上さ迷っていた。
「二時間も掛からず下山出来るよ。ゴール地点にある喫茶店のカツカレーが絶品なの! 山と言えばカレー! そのために山に登るって言っても過言じゃない! 私はそのくらい登山後のカレーを愛してる!」
我が友ながら言ってる意味が分からなかったが、カレーは好きな食べ物ランキングの上位にいるため、私としても食べるのが楽しみだった。
カレーを食べると思っていたので、疲れた時の飴玉以外の食べ物は持参してきておらず、その飴玉も早々に食べてしまったために本当に何もなく、ずっと歩き続けているので極限に近いほどお腹が空いていた。
──グーギュルギュルギュル
さっきからお腹の音が盛大に鳴り響いている。
こんな音を誰にも聞かれずに済んで良かったと思うが、そもそもこんなことになるなんて想定しておらず、空腹と疲労から思考がおかしくなってしまいそうだった。
「やぁ、お嬢さん、お困りかい?」
そんな時に聞こえてきた少し太さのある、穏やかな男性の声。
声に反応して辺りを見渡すと、十メートルほど離れた木に寄りかかるようにして立っている男性の姿が見えた。
年齢は四、五十代といったところで、服装は山なのにカジュアルめなスーツ。
街中で見かけたら至って普通の格好だが、こんな山の中では浮きまくっている。
しかし、この男のおかしな点はそこではない!
少し格好をつけて立っているのだが、その頭には立派なキノコが!
生えているとしか思えないように、頭のてっぺんにキノコが立っているのだ。
そんな怪しさしかない男に、こんな山の中で声を掛けられたわけで、私は当然の行動として、目を逸らさずに静かに後退りをした。
「出会った時は目を逸らしちゃダメ! そして、黙ってゆっくり後退りしてね。背中は見せちゃダメよ! 襲ってくるから!」
友達が言っていたことが頭の中で反芻されている。
正確には熊に遭遇した時の対応なのだが、熊だろうが変質者だろうがこの場合大差ない気がして。
その間にも私のお腹からは盛大な音が鳴り響いているのだが、この際そんなことは気にしていられない。
素早く安全にこの場を離れる! 今はそれが一番大事なことなのだから。
「まぁまぁ、お嬢さん、そう警戒しなくても大丈夫だよ。ほら、私はこんなに、至って普通のおじさんなのだからね」
私の警戒心を悟ったようで、その男が両手を広げて安全アピールをしてきたのだが、自分で自分を「至って普通のおじさん」だなんて言うやつが絶対普通なわけがない! 現に頭にはキノコが生えているし! そんなやつが普通でたまるか!
「あぁ、また生えていたね。本当に忌々しいな、この体は!」
そう言うと、男は頭に生えていた、恐らくエリンギだと思われるキノコをもぎ取って、自分の口に放り込んだ。
モグモグと咀嚼して、あっという間に食べてしまった。
キノコって生食はダメだったのでは? と思ったけれど、なぜだろう、モグモグと動く口元を見ていたら口の中に唾液が溢れてきた。お腹が空きすぎてやっぱりおかしくなっているらしい。
「さぁ、これで正真正銘、至って普通のおじさんだ! お嬢さん、お困りのようだね」
頭からキノコがなくなると、本当に街中にいれば普通の人にしか見えないのだが、ここは山の中だ。しかもこいつはさっきまで頭にエリンギを生やしていた。危険この上ない! こいつを「至って普通のおじさん」とは認められない!!
後退りをやめず、ジリジリと距離を取っていく。
「そう警戒されると、おじさん傷付いちゃうよ? こんなに普通なのに」
これみよがしに泣き真似をしてショックを顕にしているが、そんなことをしようが不審者でしかない。
「おじさんは、普通の人間になりたいだけの、至って普通のキノコの妖精なのになぁ」
ちょっと待て! 今、「キノコの妖精」と言った?! やはり危険だ!! 普通の人間が自分のことを「妖精」だなんて言うはずがない!! やっぱり逃げる一択である!!
不審者から目を逸らさず、これまでよりも少し歩幅を広げて後退る。
「お嬢さん、危ないよ?」
何か言っているが無視である。
少し足早に後退ろうと足を後退させると、足に固いものが当たり、グラッと体が後ろに傾いた。
「おっと、間に合った」
気付けば私は不審者に抱きかかえられ、宙を舞っていた。
「えぇぇぇぇええ!!」
「賑やかなお嬢さんだ」
ニコッと笑った変質者の背中には、茶色くて薄い、トンボの羽に似たものが四枚、パタパタと動いていた。
「と、飛んでる?!」
「おや? 飛ぶのは初めてかい?」
どこの世界に、機械も使わずに空を飛べる人間がいようか? 普通、人間は空なんか自力で飛べない。
魔法なんて便利すぎるものが存在する、ファンタジーな世界ならば飛ぶことも可能だろうが、あいにくそんな世界に生まれてこなかった。
「え? え? えぇ?! ほ、本当に、妖精?! こんなおっさんが?!」
「おっさんとは失礼だな。至って普通のおじさんと言ってくれたまえ」
頭にキノコを生やし、背中には羽を生やし、空を飛べるものを「至って普通のおじさん」とは絶対に、絶対に言えない!! しつこいようだが、絶対に「至って普通のおじさん」なんかじゃない!!
「ふ、ふ、ふ、普通じゃなぁぁぁぁい!!」
「やれやれ、強情なお嬢さんだ。私はこんなに至って普通のおじさんなのに」
「ふつ、ふつ……」
「ふつ? フツフツと煮えたぎる想い、とでも言いたいのかな? 分かるよ、分かる。人間とはそういうものだよね」
「普通でたまるかぁぁぁあ!!」
「まだ言うのかい? 私のどこが普通じゃないのか、私にはさっぱり分からないよ。さては、お嬢さんは、人間としては普通ではない部族だね」
「誰が部族じゃ!!」
あまりの言われように、思わずおっさんの顔を引っぱたいたのだが、おっさんの頬はプニンとしており、手応えがあまりなかった。
その証拠に、叩かれたはずのおっさんは涼しい顔をしている。
「ば、ば、化け物っっ?!」
「化け物とはまた失礼だね。私は、至って普通のおじさんになりたいだけのキノコの妖精だよ」
そっと地面に下ろされた私は、脱力したような状態になり、その場に座り込んでしまったのだが、視線だけはおっさんから外さなかった。
視線は逸らしてはいけないと聞いていたから(あくまで熊の場合)。
なのに、そんな緊張感漂う中でも、遠慮なく鳴り響く、空気を全く読もうとしない私の腹の虫。
「おやおやおや、お腹が空いているのかい? これでも食べるかい? 人間はこれを『松茸』と呼んでいるそうだね。人間も食せるキノコだよ?」
いつの間にかおっさんの頭には、大変立派な松茸が生えており、それを差し出された私は、躊躇うことなく受け取っていた。
高級キノコ、キノコの王様、それが『松茸』様!
テレビで見かけたり、旬の時期にスーパーの陳列棚の一角で、木箱に入っている堂々たる姿を目にすることはあっても、実物を手にしたことも、ましてや口にしたこともなかった、いわば憧れの存在、それが松茸!
受け取った松茸は、スーパーで木箱に鎮座していたそれよりも数段太く、大きく、重く……大変ご立派な風貌をされており、並のキノコではないオーラが漂っていた。
「そんなに見つめないでくれないか?」
なぜかおっさんが照れくさそうにしているが、そんなことはどうでもいい。
初めての松茸が、迷子の山の中というのは悲しいが、お腹も空いているのだ、食べないという選択肢は、ない!
大きく口を開いて、松茸にかぶりつこうとすると、おっさんが
「やめておいた方がいい。生では食べられないのだろう? 人間は、キノコを」
と言ったので、生食を踏みとどまった。
「うぅぅぅ……松茸ぇぇぇ……」
「ここは山の中だ、火気厳禁だからねぇ……あぁ、そうだ! 昔、人間が『きやんぷ』とやらをやった場所がある。そこなら火がおこせるはずだが、行ってみるかい?」
「行く! 行きます! 連れてってください!」
空腹と松茸に魅了された私の思考は、もはやおっさんを危険視することを忘れ去っていた。
再びおっさんに抱きかかえられ舞った宙。
一気に高度を上げたおっさんに、私は恐怖のあまり、絶叫しながらしがみついていた。
「おやおや、情熱的なお嬢さんだ」
おっさんが何か言っているがそんなことはどうでもいい。怖い、怖すぎる!
浮き上がる気持ち悪さと高さの恐怖、不安定さ、体に感じる風や圧力。それらが総じてチビりそうなほどの恐怖を与えてくる。
もう、絶叫マシンなんて可愛いと思えるくらい怖い!!
「はい、着いたよ」
降ろされた所は、山の中に不自然に広がる、半径五メートルほどの、木が生えていない平地だった。
短い草は生えているけど、それ以外何もない。
「あそこでなら火を使って構わないよ」
指し示されたのは石で丸く囲まれた、地面に焦げ跡のある場所。
「火を使うとあんなふうになってしまうから嫌なんだよ。環境破壊というものを知らないのかな、人間は。きやんぷをするためにわざわざ木まで切り倒してしまうしね。お嬢さんは知ってるかい? ほら、そこの木を見て。あのくらいまで木が成長するのに、どれだけ時間を有するのか、知らないわけではないだろう?」
おっさんが指差している木は、私の体よりも太い幹の木だった。
細い木でも十年ほど時間がかかると聞いているので、あれだけの太さに育つには何十年と必要だろう。
「まぁ、お嬢さんに言っても仕方がないことだけどね。ほら、お腹が空いているのだろ? あそこで火を使って、その松茸を食べるといい」
食べろと言われてもマッチもライターも持参していない。その状態で火なんか使えるわけがない。
とりあえず石のところまで来たものの、私はどうしたらいいのか途方に暮れていた。
「おや? もしかして、お嬢さんは火をおこせないのかい?」
何の道具もなく火をおこせる人間がどこにいるというのだろうか? いたら見てみたいもんだ。
詠唱を唱えたり、無詠唱だったりで火を出せる人間なんて私の知る限りどこにもいない。いるとしたら異世界だけだ。
まぁ、このおっさんがいるのだからここは異世界なのかもしれないけど、少なくとも現状私に魔法の力は備わっていない。
「困ったねぇ、私も火は出せないからねぇ。出せるとしたらこの忌々しいキノコだけだからねぇ」
見ると、おっさんの頭にはとっても立派な舞茸が生えていた。
大きさ的にどちらが頭なのか分からないくらい大きな舞茸である。
「これも欲しいかい? 時間で言うと十分程度で勝手に生えてくるからね、普段は自分で食べているんだけど、欲しいならあげるよ?」
「くださいっ!」
食い気味に答えていた。
こんもりした舞茸は、見たこともないほど大きく、これを天ぷらにしたらどんなに美味しいだろうかと想像してヨダレが出そうになった。
「この山には生えないようなキノコばかりが生えてくるからねぇ。環境破壊や生態系を崩しかねないだろう? こう見えて私は、そういうことを考えられる、至って普通のおじさんだからねぇ。仕方なしに自己処理しているんだよ」
聞いてもないのに勝手に喋るおっさん。でも言っていることは間違っていないだろう。
妖精なのか妖怪なのか化け物なのか変質者なのか、いまいちピンと来ないおっさんだが、ちゃんとした考えはあるようだ。
「はぁ……呼びたくないのだけれど、この際仕方がないねぇ……少し耳を塞いでいてくれるかい? 人間には耳障りだと思うからねぇ」
言われるままに耳を塞ぐと、おっさんは空に向かって何語なのか分からない、言葉なのか音なのかも分からないことを叫んだ。
すると、空で小さな赤いものがチカッと光ったと思ったら、それが急速落下してきた。
「めっずらしい! あなたがあたしを呼ぶなんて、何十年ぶりかしら?」
水ヨーヨーほどの大きさの赤やオレンジに揺らめく火の玉は、よく見ると人型をしていた。
「何で人間がいるのよ? あなた、また人間と関わってるの? ほんと、妖精なのに変なやつ!」
「失礼な! 私ほど至って普通のおじさんはいないと思うがね」
「あなたのどこが至って普通なのよ! どっからどう見ても変じゃない!」
それには激しく同意である。
「で? 何の用? あなたがあたしを呼ぶなんて、余程のことかしら?」
「いやね、ここに火を出してくれないかい? あのお嬢さんがお腹を空かせていてね。火がないと松茸が食べられないんだよ」
「え? ここで火を? 正気?」
「ほら、この石の円の中になら大丈夫だから。君になら造作もないことだろう?」
「まぁ、あたしなら朝飯前だけど! でも、燃やすものがないとさすがに無理よ?」
「枯葉や枯れ枝でいいかい?」
「乾燥したものならなんでもいいわ。湿気っていたら煙ばかり出るから」
「分かったよ。……ということだけど、お嬢さん? 枯葉と枯れ枝を集めてくれるかな?」
というわけでせっせと枯葉と枯れ枝を集めた私。
その間おっさんと火の玉はというと、何か私には分からない言葉? で楽しそうに会話をしていた。
「これでいいでしょうか?」
「いいわ! そこに置いてちょうだい!」
小さいくせに少し偉そうな火の玉である。
円の中央に集めてきたものを置くと、火の玉はあっという間に火を着けてくれた。
「あたしにかかればこんなもんよ!」
確実にドヤ顔をしてるのだろうが、光っていて表情が分からない。
「ありがとう、感謝するよ。でも、あまり長居されるとあちこち火事になってしまうからね。もう行ってくれるかい?」
「ほんとに勝手なやつね! でも、まぁ、仕方ないわね、本当のことだから。また何かあったらいつでも呼びなさいよね! あなたと話せる機会なんて、こんな時くらいしかないんだから!」
「あぁ、また何かあったら呼ぶよ」
「絶対に絶対よ!」
火の玉は去っていった。
そして、おっさんの頭には新たなキノコが生えていた。
「ポルチーニ茸だね。これも欲しいかい?」
「ポ、ポルチーニ?! それって、あのポルチーニ茸?!」
「他にどのポルチーニ茸があるのか知らないが、恐らくそれだと思うよ?」
「くださいっ!!」
ポルチーニ茸をゲットした。
網などがないため、松茸に木の枝を刺して火にかざしながら焼いていく。
椎茸などとは違った、何ともいい香りが漂っている。
それに伴い、私のお腹の虫はこれまでにないほど盛大に鳴り響いている。
「あぅ……はっ……ふぅっ……あふんっ……はぅっ……」
その横で、様子のおかしいおっさんのことは無視している。
もう無視出来ないレベルで気持ち悪いのだが、触れたくない! 触れるのが怖い!
「あふんっ……そろそろっ、いい頃合いっ、あんっ、なのではないかな、んんっ」
「……」
「聞こえて、んぁっ、ないのかなんっ」
「……キモっ!」
「あ、あぁ、すまないね。私自身が火にあぶられているわけではないのは分かっているのだけどね、見ているとどうしても、ねぇ」
頬を染めるおっさんほど不気味なものはないのだと初めて知った。
「さぁ、食べなさい」
おっさんに見つめられながら食べるというのも嫌だったのだが、空腹には耐えきれず、松茸にかぶりついた。
弾力のある歯ごたえ、鼻から抜ける松茸の芳醇な香り。
「んんん、美味しい!」
「あぅんっ!!」
松茸を食べる私の横で身悶えるおっさん。何ともカオスである。
しかし、さすがに塩気が欲しい。醤油を所望したい! あるはずないのは分かっているが、何の味付けもないキノコは、松茸といえど些かキツイ。
「醤油が欲しい……せめて塩……」
「岩塩ならあるが、それでいいかい?」
「え? あるの?」
「天然物で良ければ、だがね?」
「くださいっ! そして、今頭に生えてるそれもくださいっ!」
おっさんの頭には新たなキノコ(見た目からして間違いなく黒トリュフ)が生えていた。
岩塩と黒トリュフをゲットした私だが、今度は「岩塩……まさか塊だったとは……」と途方に暮れることになった。
全く満たされないお腹は「早く食い物を寄越せ!」と唸り声を上げている。
仕方なく、無駄だと思いつつも、柔らかそうな箇所を選んで爪で擦り続けた結果、ポロリと欠片が落ちた。
「やったぁぁぁぁ!!」
この喜びは合格発表で自分の番号を見付けた時以上だったかもしれない。
欠片を、齧って歪になった松茸に乗せて火にかざし、少し塩が溶けたところで豪快にかぶりついた。
「ふぁぁぁぁ! 美味しっっ!」
塩気をまとった松茸は、この世のものとは思えない極上の味わいへと昇華していた。
まぁ、極限に空腹だったら何を食べても美味しいだろう! なんて野暮なことは言わないで欲しい。
「あふんっ……はうんっ……ひゅっ……あはんっ……」
隣で相変わらず頬を染めて、おかしな声を上げながら身悶えるおっさんは無視だ。気にするだけ精神的によろしくない。
しっかりと噛み締めながらも、松茸をお腹に納めた私は、まだ物足りなさを抑えきれず、ポルチーニ茸を枝に刺して火にかざした。
おっさんはやはり、隣で見悶えていた。
「ねぇ? 今生えてるキノコは食べられるの?」
「これかい? 食べられるよ?」
「じゃあちょうだい!」
この頃になると、私の中から「遠慮する」という概念もなくなっていて、おっさんの頭に新たに生えていた蜂の巣にも似たキノコを遠慮なくもらった。
「アミガサタケだねぇ。たまに人間が血眼になって探しているキノコだよ」
「へぇ、そうなんだ。美味しいの?」
「私に味を聞くのかい? 私にとっては松茸も椎茸もアミガサタケも、単なるキノコでしかないからねぇ」
「味の違いが分からないの?」
「キノコは私自身といっても過言ではないからねぇ。違いはあるのだろうが、所詮はキノコだよ」
そんな話をしていたら、急激な睡魔が襲ってきた。目を開けていることすら辛いほどの睡魔だ。
「おや? 眠くなったのかい? ゆっくりとお休み、お嬢さん」
眠りに落ちる直前、おっさんの声が聞こえた。
「…か? 大丈夫か?! おい!」
見知らぬ男性の声で目が覚めると、私は救助隊らしき人達に囲まれていた。
ふと見ると、手にはアミガサタケ。
それだけではなく、私の周りやポケットには沢山のキノコ。
「あれ? え? え?」
「遭難者、無事発見!」
トランシーバーに向かって男性が話している。
「あれ? おっさんは? キノコの」
「尚、意識は多少混濁している様子!」
あれよあれよという間にタンカーに乗せられ、その後救急車に乗せられ、病院へと運ばれた私だったが、心身共に異常はなく、念のために一晩入院させられたものの、翌日には帰宅を許された。
病院から帰ってリュックを開けると、中には立派な舞茸や松茸、ポルチーニ茸、黒トリュフ、白トリュフ、アミガサタケ、シロカノシタ(調べて知った)などのキノコがこれでもかと詰まっていた。
「おっさん、ありがとう……」
冷蔵庫にそれらのキノコをしまいつつ、私はおっさんにお礼を呟いていたが、こんな話、誰に話しても信じてくれないだろうと、誰にも言わないことを決意した。
◇ ◇ ◇ ◇
とある山には不思議な言い伝えがある。
本来ならば迷うことなど有り得ないその山では、時折、神隠しのように人が迷うことがあり、その迷い人は「キノコの神様」に出会うのだという。
その神様に出会ったものは、その国では手に入れることが出来ないキノコを手に入れたり、滅多に手に入れることの出来ない珍しいキノコを抱えて戻ってくるのだそうだ。
その話が夢か真かは定かではない。
至って普通のおじさんです ロゼ @manmaruman
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