第12話 悪役皇子、理不尽には理不尽で対抗する
「お、おいおい、返す必要は無いだあ? 適当なこと言ってんじゃねーぞ、嬢ちゃん」
更に会話に割って入ってきたティテュアに、全員が注目する。
彼女の美貌も相まって、その場の誰もがティテュアから目を離すことが出来なかった。
ティテュアの赤い唇が動く。
「私は帝国法に基づいて話をしています」
「……え?」
「帝国法では、借金に関する法律が定められています。返済義務は借りた本人と、その保証人。保証人は誰ですか?」
「そ、それは、そっちのテレスが……」
「保証人は借りた本人の血縁者でなければなりません。テレスさん、失踪した前院長は貴女の親戚の方ですか?」
「い、いえ、違います!!」
ティテュアの問いに、テレスが首をふるふると横に振る。
「ではテレスさんは保証人ではありませんね。彼女に返済義務は無いかと」
「ご、ごちゃごちゃ屁理屈言ってんじゃねぇぞ!!」
「屁理屈? いえ、帝国法で定められていることですが」
へぇー、知らなかった。
俺、法律は殺人罪とか暴行罪とか、そういうものしか知らない。
まさか借金に関する法律まであったとは。
おっと。
『帝国の皇子ならそのくらいは知っておけ』とか言わないでね?
六法全書を暗記してる奴だって日本にはあまりいないでしょ。
……あれ?
「ティテュア様、どうして帝国法について知ってるんです?」
「……色々としていた恩恵です」
ということらしい。
つまり、まだ彼女が極悪王女として悪事を働いていた時の副産物みたいだ。
法の抜け道を探してるうちに、法律に詳しくなったのだろう。
「よって、テレスさんに返済義務はありません。それどころか、貴方たちは不正な取り立てを行っています。ただちにテレスさんから不正に奪ったお金を返す必要が――」
「う、うるせぇ!!」
と、そこで借金取りの一人がキレた。
「へへへ、嬢ちゃん良い顔してんじゃねーか。テレスの代わりにてめぇが稼いでもらって良いんだぜぇ?」
「っ」
ティテュアの顎を掴む借金取り。
まさかここで手を出してくるほど相手が馬鹿だとは思っていなかったのだろう。
俺も借金取りの言ってる意味が分からない。
どうしてティテュアが代わりに借金を払わねばならないのか。
借金取りの言っていることには正当性の欠片も無い。
と、そこでマジギレする男が一人。そう、他でもない俺である。
借金取りの腕を掴む。
「あん? なんだ、てめ――」
「その汚ぇ手、退けろ。ティテュア様に触れてんじゃねーぞ」
「っ、は、離せっ、いぎゃあッ!!!!」
借金取りの腕をそのまま握り潰す。
痛みに耐えかねた借金取りがティテュアから手を離すが、もう俺は止まらない。
「……フィオナ先輩。少し彼らと『O☆HA☆NA☆SI』してくるので、皆を中に」
「……分かりました。ティテュア様、テレス様、こちらに」
「え? えっと、は、はい」
「わ、分かりました」
全員がその場からいなくなったのを確認し、俺は外に出た。
借金取りたちは仲間の一人が腕を握り潰されたことでビビってるのか、俺を睨むだけで何もしてこない。
……ちょうど良い。
「このダボガスがあッ!!!!」
「へぶっ!?」
さっきティテュアに触れた借金取りを突き飛ばし、頭と胴体を交互に蹴りまくる。
先に理不尽なことをしてきたのは奴らだ。
いくら戦意を失っていたとしても、理不尽には理不尽で対抗する。
ここで容赦してはならない。
恐怖を植え付けるように、より強く烈しく何度も何度も痛みを与える。
「ふぅ、こんなもんか」
「……ぅあ……」
全身の骨が折れているのだろう、身体の至るところが赤黒く腫れ上がっている。
「おい、お前ら」
「ひっ」
「お前らのボスに伝えろ。今後、同じようなことをしたらてめぇら全員こうするってな」
普通なら俺は暴行罪で逮捕されるだろう。
しかし、帝位継承権を姉上に譲ったとは言え、こちとら皇子である。
権力者を舐めるなよ。
ティテュアの言っていた帝国法に則って考えるなら、連中のしてることは借金返済の義務が無い相手から金を不正に奪っているってことだ。
叩けばいくらでも埃が出てくるに違いない。
「こ、こいつ、オレたちが誰か知らねぇのか!?」
「……あ゛?」
「ひっ、お、オレたちはウェストポート最大の冒険者クラン、『銀猫』のメンバーだぞ!?」
冒険者クラン。
たしか複数の冒険者パーティーが集まって運営している組織だったか。
大手クランは管理組織である冒険者ギルド以上の権限があるとか、フィオナから教わったような気がする。
銀猫、銀猫……。
どこかで聞いたような気がしなくもないが、あまり思い出せない。まあ、何でもいい。
俺は借金取りに対し、一言。
「で?」
「……え?」
「だからなんだ? お前らがその、銀猫だとかいうクランの人間であることが、何か関係あるのか? ああ、あるんだったらそれで構わん。クランごと潰す。でもそれは戦争だ。やるなら相応の覚悟をしろ」
よろしいならば戦争だ、ってな。
俺の言葉が本気だと察したのか、借金取りたちがボロボロの仲間を引きずって逃げ出した。
「はぁ、白金貨の払い損だな」
もう少し帝国の法律について勉強しておくべきだった。
そうすれば払わなくて良い金を払って懐が寂しくなることも無かったし、ティテュアが前に出て怖い思いをすることもなかっただろう。
俺は孤児院の中に戻り、借金取りを追い返した旨を伝える。
すると、意外なことに子供たちが喜んだ。
「すげー!! 兄ちゃん、あの怖い奴ら追っ払ったの!?」
「お、おう、まあな」
よほど借金取りたちに怖い思いをさせられていたのだろうか。
まるで英雄を見るような目で俺を見つめてくる子供たち。
「フィオナ先輩、ちょっと相談が」
「何でしょう?」
フィオナを手招きして、小声で話し合う。
「孤児院にこっそり護衛を付けることってできるか? また連中が来ないとも限らないし」
「暗部に依頼しましょう。しかし、それでは根本的な解決になりませんよ?」
「分かってる。連中は銀猫とかいう冒険者クランらしい。冒険者が金貸しとか意味分からんが、取り敢えず――フィオナ?」
銀猫という言葉を聞いた途端、フィオナの様子が一変した。
無表情というか、いや、普段から表情豊かな方ではないが、殺気が滲み出ている。
「殿下。僭越ながら、私が銀猫を叩き潰しても?」
「え? あ、ああ、ええと、うん……。な、何かあったのか?」
「ええ、少々。手早く終わらせて参ります」
「え!? 今から行くの!? もう少し準備とかした方が……」
そう言うと、フィオナはどこからか二本の剣を取り出し、鞘から抜いた。
「準備など剣が二本あれば事足ります。では」
「あ、うん。いってらっしゃい」
フィオナが剣を二本抜いた。
アレはマジギレとか、ガチギレとか、そういう状態だ。
何をしようが、止まらないだろう。
俺はフィオナが帰って来るまで、孤児院でティテュアと一緒に子供たちの遊び相手に務めるのであった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
打ち切りです。
「ティテュアかっこいい」「フィオナ怖い」「あとがき情報助かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
悪役豚皇子に転生した俺は分からせ待ち極悪王女と結婚しますっ! ナガワ ヒイロ @igana0510
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