エピローグ
夜空に流れる星を見上げて、豪奢なドレスを纏った“女帝”は目を細める。玉座のひじ掛けに設置された天球儀に触れれば、それは淡く光りを帯びて“女帝”にメッセージを伝えてくるのだ。彼女は嘆息した。
「失敗したのか、我が黒翼たちよ」
天球儀から手を離し、嘆息する。貴重な人材が大勢死んだ。それ自体はまあいいだろう。彼らがもう二度と、己の魔術を使えなくなるのが心残りだ。ペルジェスに送り込んだ
何より、彼らに持ち帰るよう命じられたものが、手元にない。得られるはずのものを得られず、挙句人材を失いもした。女は無言で手を握る。
「許しがたい、許しがたいことだ。お前たちもそうであろう?」
玉座の間に集い、
頭を垂れるひとりである
「我らが女帝、夜を統べるアストレイ様。
「
“女帝”アストレイは、天球儀に横目を向けた。ぼんやりとすすり泣く少女のシルエットが浮かび、消える。アストレイは内心、その少女を惜しんだ。空間転移の魔術など、そう何人も使い手がいるものではない。それに、シンパシーも感じていた。
(求むるもの、手にしたものを失う悲哀。それは我のものである)
(愛する者との平穏は、二度と叶わなくなった)
(哀れなジーナ、我が翼。我が天球にて眠るがよい)
天球儀を撫でて少女のシルエットをかき消す。宰相は無言の間をいぶかしむことなく、女帝の言葉を待っていた。
「引き続き、“城主”アルバートの魂と、その作である
「お言葉を返す無礼をお許しください、アストレイ様。ペルジェスに送り込んだ“
「否、我が手にあるべきものである。ゆえに我が手へと堕とす。それが
「……失礼いたしました」
「良い。汝が懸念は我が懸念。忠言、大義である」
宰相は深く深く頭を下げた。額がくるぶしより下がるのではないかと思うほどに。
天球儀から声がする。微かな少女の泣き声が。それは女帝にしか聞こえない、死した者の
「ピネロ、ピネロ……どこにいるの……? さびしいよ……」
「気に病むことはない。今に汝が死に捧げてくれる。我が蒐集物全てが汝の墓標となろう。汝の想い人、かの
アストレイはそう言って、玉座の間を発つ。寝所に戻った彼女は、テーブルの上に置かれたチェス盤の駒をいくつか取り除き、動かした。
「“
カッ。チェス駒が置かれる音が、静かな寝所に力強く響き渡った。
Two took Ones:少女人形にされた僕の数奇な死に様 よるめく @Yorumeku
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