コンビニ

「あら、久しぶり。サンタさん」


 満足そうに閑古鳥が微睡む。

 満足そうに去っていった酔っぱらいの背中を夢見て。

 そんな金曜の夜に、サンタさんはやってきた。


「せっかく寄ってくれたのなら、1杯いかが?」

「いや、今日は百合子ちゃんと行きたいところがあってね。今から、空いてるかい?」

「ええ、もちろんよ。でも、少し待って」


 みだれ髪と火照った肌を恥じらい、そう言うと、サンタさんは悪戯っ子のような笑みを浮かべて私の手を取る。


「頑張った姿の百合子ちゃんとデートしてみたいんだが、俺の為に張り切ってくれるって言うんなら仕方ねぇなあ」

「もうっ、やだ。サンタさんったら」


 真っ赤な着流しから覗く肌は、今日も逞しい。

 軽く叩くように振り払って、急いで奥の居室へ向かい、身なりを整えると、サンタさんはカウンターで待っていた。


「お手を拝借、レディ」

「ありがとう」


 店仕舞いをしてエスコートされた先は、近所のコンビニだった。この時間帯は、コンビニの光に誘われた若者しか居ない。どことなく漂う若々しい雰囲気に、彼と繋いだ手を見つめる。

 私たちは、あの光からどう映るのだろうか。


「おでんの季節だ」

「……おでん?」

「熱燗で食べる百合子ちゃんのおでんもいいが、ここのおでんは冷えた酒によく合うんだ。一杯、どうだ?」

「もちろん。サンタさんのオススメを教えてくれる?」


 食べ物の美味しさを最終的に決めるのは、食卓の雰囲気だ。小料理屋のような大人向けのお店で食べるおでんと、コンビニのような老若男女隔てなく賑わう場所で食べるおでんは、違うものだろう。

 おでんは、好きだ。サンタさんと食べるなら、尚更。だから、私に断る選択肢は無かった。


「わかった。ここでは冷えるし、せっかくだから、コンビニの中で待っててくれ」

「ありがとう」

 

 

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常連のサンタさん 椿豆腐 @toufu_love

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