第8話

 吾輩はWEB小説家である。

 代表作『寝取られゴブリンの一生』は1年前に完結した作品だった。


 完結後に、たまにPVが1だけつくこともあったが、1日に2PVつくことなどは一度たりともなかった。


 最初、画面を見た時は何が起きているのかわからなかった。

 まさか、夢なのではないかと自分の頬を強く引っ張ってみたが、かなり痛かった。

 それでも信じられず、おれは隣の部屋にいるであろうミズキに声を掛けた。


「おれの頬を叩いてくれないか」


 突然の申し出に、ミズキは気持ち悪いものでも見るような目でおれのことを見た。

 そして「いいんだな」と念を押すように尋ねた。


 おれは無言で頷いた。


 次の瞬間、星が飛んだ。

 本当であれば、星は作品に欲しかった。

 そんなうまいことが思い浮かぶことが無いくらいの衝撃だった。


 フルスイング。

 ミズキは手加減せずにおれの左頬を叩いていた。


 あまりの衝撃におれは膝から崩れ落ちそうになる。

 そして、一瞬、意識が飛び、遅れてやってきた強烈な痛みで我に返った。

 夢ではないのだ。

 おれは嬉しくなり、小躍りをしながら部屋へと駆け戻った。


「お母さーん、ソウタがおかしくなった」


 おれはそのミズキの声を背に受けながら、パソコンの画面をじっと見つめていた。

 頬は熱を持ったかのように熱く、耳鳴りがしていたが気にはならなかった。


『寝取られゴブリンの一生』。本日のPV数2。

 総PV数55。

 新記録達成!

 夢じゃなかったのだ。



 吾輩はWEB小説家である。

 作品に星をもらったことは、まだない――――。




 おしまい

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あれから 大隅 スミヲ @smee

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