第1話 "あの人"との出会い

その後、“あの人“は微笑みながら僕に聞く。


「君はどこの子かい?」


 僕は答えたくなくて、ただただ無言を貫いた。

 そしたら“あの人“はうーんと悩んで、そして僕に優しく言葉を発する。


 「言いたくないなら言わなくていい。ただ連絡はしなければならない、だから君から連絡してくれないか?」


 僕はそれに従って、施設に連絡を入れた。

 ただもうあの場所には戻りたくない。

 いじめには慣れていて、辛くはなかった。

 なのに、なぜかここから離れたくなくて…


 大人への信頼なんてとうの昔に失ったはず。

 なのに、“あの人“は違う気がした。だから僕は

 施設のやつに


「もう帰らない、知り合いの家に居候させてもらう」


 とだけ言って電話を切った。

 “あの人“は僕の奇行を笑って


「その知り合いは僕かい?」


 なんて言う。

 僕にとって“あの人“と出会うということは、僕がこの世に生まれてくるための目的だった。そんな気がする。


 その後“あの人“は、施設のやつらに色々話してたりしてた。

 あぁ、帰されるのかな。

 なんて柄にも無く少し悲しむ。


 ただ、“あの人“は予想外の行動をした。


 「この子は僕が育てますよ。この子に興味が湧いたので…それとこの子身体中があざだらけなんですよ。しかも服に隠れる場所ばかりこれは施設的には隠したいんじゃないんですか?」


 なんて脅すみたいな言い方で笑う。

 あの時の“あの人“の顔ほど怖いと思った顔はない。

 そして、施設のやつらは僕の荷物を全部“あの人“の事務所兼自宅としている“五戯探偵事務所“に置いて行った。

 

 あいつらは僕の方を見て謝って帰って行く。

 謝ったって何も変わらない。

 いじめられてたっていう事実も僕のあざも記憶もなくならないのだから。

 許さない。なんて思っていた僕の思考を読んだように


「人間は辛いことほど覚えているもんだよ。君は幸せだったことを覚えてられるような人間になりなさい」


 ともの寂しそうな笑顔で“あの人“は言った。

 そんな“あの人“に僕はなんとも言えない気持ちになる。

 僕は雲より軽いんじゃないかっていうくらい軽い僕の荷物を、逃げるように部屋に持って入った。

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僕の探偵 天ヶ瀬羽季 @amauki_2023

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