第1話 "あの人"との出会い
初めて会った"あの人"は木に登っていた。
そんなに高くないのに顔を青くしながら、猫を助けようとする“あの人”。
僕はそれを見て、少し変な感覚がした。
どんな感覚だったかは覚えていない。
僕はその日、施設から抜け出していた。
否、追い出されたの方が正解かもしれない。
今日も今日とて、飽きもせずいじめてくるアイツら。
そんな奴らが僕を門から締め出した。
「もう、戻ってくんなよ?迷惑だから」
そう汚い笑いを溢しながら、アイツらは教室内に戻って行く。
僕だって、願うならばこんなところに居たくない。
居たくないと言うよりも、いる価値がないのだ。
そう思う。でも帰らなきゃいけない。
迷惑をかけてはいけないから。
いらない僕を拾ってくれたのだから、恩は返さなきゃいけない。
そんなふうに考えていた。
僕は何となく、近くの公園に行く。
昔から時間潰しのためによく行く公園。
そこには変な人と少年がいた。
大人の男の人くらいの高さの木。
そこに真っ青な顔で登る男の人と、鳴いている猫。
木の真下には五歳くらいの少年。
何が起きているのかよく理解できない。
僕は離れたところから、ジッと見る。
その直後"あの人"は猫を捕まえた。
後はもう降りるだけ、きっと大丈夫だろう。
そう思い、僕は施設の方向に向かって歩き出す。
次の瞬間、隕石でも落ちたのかと思うくらいの大きな音が後ろからした。
僕は思わず振り返る。
そこには"あの人"が木から落ちて気絶していた。
気絶!?えっあの高さの木で?なんで?
とりあえず気絶している"あの人"を横目に猫を捕まえて、近くにいた猫を心配する少年に猫を渡す。
そして、僕は"あの人"を見ていた。
1時間後。
やっと目覚めた"あの人"は猫を探し出したから、僕はさっきのことを伝える。
「猫は飼い主らしい男の子に渡しました」
するとあの人はフニャフニャした笑顔で僕に
「ありがとう」
と言った。
それからお礼をするだなんて言って、僕の腕を引っ張る。
僕は呑気にこれが世に言う誘拐かぁなんて、気楽に考えていた。
それからたくさん歩いて"あの人"の事務所?に着く。
"あの人"は人気者でここに着くまでにたくさんの人に話しかけられた。
きっとそれがなかったら20分もかからない道。
なのに、話しかけられるおかげで1時間かかった。
"あの人"は悪気1つなく僕に笑ってこう言う。
「遅くなったねごめん。」
あの頃の事を考えると第一印象最悪だったなといつも思う。
ただあの時の僕は、こんな“あの人“が心の底から好き“だった“気がする。
それから確か、“あの人“は僕にココアを入れてくれた。
温かいココアは僕の心に優しく、暖かい何かをくれる。
僕はその気持ちの正体が一体何だったのか、未だにわからないまま。
ただ幸せではあった。
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