第2話 さらばピニャ・コラーダ

「……誰?」


「神様!」


振り返るとそこには神様と名乗る少女がいた。学校の制服ではなく、セーラー服を着た少し変わった人で、どこかアホっぽそうで、どこか安心感を覚える、そんな自称神様な少女。


そして、可愛くて美しい。一目見ただけで分かるその美貌。

吹いた風が彼女の長い金髪をなびかせて絵になる程だ。


そんな彼女に僕が思った第一印象は、こいつ嫌いだと思った。初対面だが俺は既に君の事が嫌いだ。なんかこう、この人を見てるとムカつく感じがしてくる。

恐らく、こいつはなんでも持っている奴だ。見るだけで分かる。だからだろう。


というか、何故そんな少女がこんなところにいるんだ?うちの学校の制服じゃ無いって事は忍び込んだとか、そこらだろう。


そんな事を考えていると昼休みの終わりを告げるチャイムが学校に鳴り響いた。

こいつに気を取られてチャイムが鳴ることをすっかり忘れていた。


「……チャイム鳴ったけど教室帰らなくていいの?」


「あんたのせいだろ……」


そう純一は言うと屋上の扉を開け急いで教室へと向かった。純一にとって遅刻は死そのものである。だから走る


「………」


純一は走る。廊下を爆走で、もうルールなんか守ってる暇じゃない。そして純一の後ろにもう一人後ろから走る音が聞こえる。


「……なんでついてくんだよ!」


「え〜……だって暇なんだもん!君を見てる方が楽しそうだし」


「家帰ってゲームでもしてろ!あんたこの学校の生徒じゃないだろ!今から授業!」


「なら君の授業参加するよ」


「アホか!」


彼女は止まる気配が一向にない。こいつ、僕が止まらなかったらく本当に教室まで入って授業受け出すぞ。

だが止まっている暇なんて今は無い。彼女に構っている暇もない。

ここは……、コーナーで差をつけろ!


「……見えた!」


やっと教室が見えた。後ろにはもう彼女の姿はない。撒けたか。

純一は教室の目の前まで速やかに行き、ドアを開ける。

もう授業が始まっている。まぁ、そんな気はしてた。遅刻してる事くらい。

あぁ……初めての遅刻だ。


やめてくれ……。その遅刻した者への冷ややかな視線は……。結構胸に来るだ。


その後純一はきっちりと教師に叱られた。そしてトボトボと自分の席へと着く。


(あぁ……、それにしてもなんだったんだあの人……。)


考えてしまう、さっきの人の事を。嫌いなはずなのに頭の片隅に住み着いている。だが決して会いたいとは思わない。

何故ならあいつのせいで遅刻したから。

まぁ、恐らくもう会うことは無いだろう……


「おはよーございます!」


「なんでだよ!」


いきなり開いた教室のドア。そこから元気よく入ってきたのはさっきの自称神様の女の子。

マジで勘弁してくれ。怒られるの僕なんだぞ。


「おい純一!何いきなりおっきい声出してんだ!」


「先生そこの人不法侵入です!追い出してください!早く!」


「…………?お前何言ってんだ?ドアの目の前には誰もいないぞ?」


「…………は?」


先生は何を言ってるんだ……?ドアの目の前にはちゃんといるじゃないか。他の生徒たちも不思議そうな目で見てくる。

そこにしっかりと…、いる……はずだ……。見えるはずだ……。


まさか……、僕にしか見えてない……?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それであんたは何なんだ?幽霊?」


「神様だって言ってんじゃん!」


放課後、純一は謎の女の子を連れて屋上に来ていた。見ての通り、全く話が進まず三十分近く平行線のままだ。

確かに彼女は存在する。しっかり見えるし、触れる。だけど不確定要素が多すぎる。


「はぁ〜……、なら神って証拠見せろよ」


「いいけど……、学校爆破でもする?」


「しねーよバカ。……大体なんで神が俺なんかみたいな奴に現れたんだ」


もしこいつが本物の神だとして僕のところに現れる理由がない。普通はもっと面白い奴に行くだろに、なんで僕を選んだんだ。


「う〜ん……、だって君面白いからね。私と似ていてね、まさに瓜二つって言うか!中途半端なところとか」


彼女は笑いながらそう言った。


「……!……なんだ?いまさら笑いに来たのか?神様直々に……?」


「違うよ」


「じゃぁ……何なんだよ」


「……一つお願いなんだけど、私の恋人になってくれない?その為に君に会いに来たの」


「……は?嫌、無理よ」


何を言い出したかと思えば、恋人になってくださいだ?何を言ってるんだ。いきなりすぎるだろ。


「あっそ」


彼女は悲しそうな表情の後そう言うと柵へ走り出し、勢いよく飛び越え飛び降りた。


「……は!?何してんだお前!」


いきなりの事だった。唐突に彼女は飛び降りた。なんの躊躇もなく。

純一は走り出した。彼女の後を追いかけるように屋上から飛び降りて。

自分でもなんでこんな事してるか分からない。彼女が生きた人間かも分からないのにこうしてやっていることに。

思い出したんだ、彼女がさっきした悲しそうな表情。何故か昔の僕と同じ顔をしていた。


「馬鹿だね君は、ほっとけばいいのに」


「さっきの顔を見せられたらほっとけないんだよ!」


こうやって言い争っている間にも地面に着きそうだ。


「君はさ……私みたいな女の子嫌?」


「嫌じゃないけど、幸せにできる自信が無い!」


「じゃあ、完璧に私を愛してよ!中途半端な愛じゃなくて!ほら……、もうすぐ地面着くから返事は?YESかNoか!最後ぐらいハッキリ!」


「分かりました!愛すから!」


純一がそう言った時にはもう地面に着きそうだった。


(あっ……、これ……死ぬやつだ)


この高さから落ちればまず助からない、普通なら。

神のイタズラか奇跡と言うべきか、地面スレスレこ間一髪のところで体は止まっていた。


「なんで……」


「言ったじゃん神様だって。これくらい出来て当たり前よ」


まるで当たり前のように淡々と語る彼女。彼女は本当に神様らしい。これを見せられたら納得せざるおえない。


「あっ……!そんな事より、言質とったからね!ダーリン!」


………こいつ図りやがったな



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死にたい僕と笑う神様 三冠食酢 @natinati

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