第6話

 ジョニーは捨てた。ガトリングガンを、手下どもの死体を、プライドを、体面を、すべてを捨てて、オートバイを走らせた。

 烈日。砂煙を巻き上げてオートバイが逃げる。フルスロットルで逃げる。

 これなら逃げ切れるはずだ。ジュンサーの足がどんなに速くても、走ってオートバイに追いつける道理はなかった。

 彼の親衛隊は、全員血祭りに上げられてしまった。ガトリングガン・ジョニーの一味は壊滅させられたのだ。思い返すだけで恐ろしい。鬼のような早撃ちだった。それに、あの棒さばき。あれは悪魔か? 確かなのは、このガトリングガン・ジョニーが、たった一人のジュンサーに、これまで築いてきたすべてを奪い去られたということだった。

 まあ、いいだろう。こうなったからには、自分が逃げのびるのが先決だ。逃げて行った手下どもはまた集めればいい。とにかく今は、このガトリングガン・ジョニー様が生き残ることだ。あの怪物から逃げなくてはいけない。

 ずいぶんな距離を走った。あのいまいましい集落から、かなり離れたはずだった。そのことが、ガトリングガン・ジョニーを少しばかり安心させた。いや、油断させたと言うべきだろうか。ガトリングガン・ジョニーは少しアクセルを緩めようとしていたのだ。そこへ――

 シャコ、シャコ、シャコ、シャコ。

 気味の悪い音が聞こえた。今まで聞いたことのない音という気がした。その音は風の音に混じって、後ろから聞こえて来るようだった。

 シャコ、シャコ、シャコ、シャコ。

「なんの音だ?」

 災いの気配とでも呼ぶべきものを、ガトリングガン・ジョニーは確かに感じていた。だが、そのことを認めた瞬間、それは彼に破滅をもたらすに違いなかった。ゆえに、ガトリングガン・ジョニーは振り返ろうとはしなかった。緩めかけたアクセルを再び強め、忍び寄る破滅から逃げ切ろうとした。しかし――。

 シャコ、シャコ、シャコ、シャコ。

 音は鳴りやまない。その音は確かに聞こえていた。それどころか、しだいに強く大きくなる。まるでだんだんと近づいているみたいに。

 ガトリングガン・ジョニーはついにふり返った。そして――

「イーーーーーーーーーッ!」

 ガトリンガン・ジョニーの口から驚愕の叫びがもれる。一台の自転車が、もうもうと砂煙を上げながら、彼のオートバイに迫っていた。なんというスピードだ!

 その自転車には――当然のことだが――制服をまとった無表情な男が乗っていた。その無表情な男こそが、あの恐ろしいスピードで走る自転車の動力源であり、ガトリンガン・ジョニーが恐れてやまない、われらがジュンサーその人だった。

「そこのオートバイ、止まれ」

 ジュンサーが命じる。

 再び前方に目を戻したガトリングガン・ジョニーは焦燥で身を焼かれる思いだ。止まるはずがあるか。止まればそこでおしまいだ。どうする? どうする?

 そして、ガトリングガン・ジョニーは賭けに出た。

 このままでは、すぐに追いつかれるのは明らかだった。信じられないことだが、ジュンサーの駆る自転車は、荒野の悪路をものともせず、このオートバイよりも速く走っている。何十秒とたたないうちに追いつかれ、背後から攻撃されるだろう。そうなれば一巻の終わりだ。

 それならば、あえて先手を打って、奇襲を仕掛けた方が、生き残る道が開けるのではないか?

 追いつめられた極限状態の頭で、ガトリンガン・ジョニーはそう結論づけた。

「くそがああああああっ!」

 オートバイを方向転換させ、前輪を持ちあげる。狙いはジュンサーの頭だ。

 オートバイと自転車の距離が縮まり、その距離がやがてゼロになる。

「死ねえええええええっ! ジュンサー!」

「シューティングスター号!」

 ガトリングガン・ジョニーが(え、自転車の名前?)と思ったその瞬間――

 ガキィィィィン!

 自転車の前輪が持ち上がり、オートバイと自転車が交錯した瞬間、ガトリングガン・ジョニーは頭部を強打され、大地に放り出された。

「く、くそっ!」

 大の字になった体を起こすと、

「動くな」

 自転車から降りた――ご丁寧にスタンドを立てている――ジュンサーによって銃口を突きつけられた。あの嘘みたいに威力の高い拳銃だった。無論、弾倉には弾が込められているに違いなかった。

 ガトリングガン・ジョニーの額から血と汗が流れ落ちる。そして、その口からついて出たのは、あわれな命乞いの言葉だった。

「た、頼む! 見逃してくれ! 俺は心を入れ替える! 今までのことは、すべて出来心でやったことなんだ!」

 右手を突き出すようにして叫んでいるが、左手はブーツの方へと伸びていた。

「反省している! 心から反省しているんだ! どうだ? 更生の余地があるとは思わねえか?」

 ジュンサーの目はあくまでも無表情で冷ややかだ。ジュンサーは言った。

「反省や弁解はあの世でしろ」

「くそがあああああっ!」

 ガトリングガン・ジョニーはブーツに仕込んでいたナイフを取り出すと、ジュンサーに跳びかかった。だが、しかし――

 ガゴオオオオオン!

 銃口が吼えた。

 破砕拳銃ローリング・サンダー。

 悪を打ち砕く正義の雷が鳴り響いた。

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