第3話

 チリン! チリン! チリン!

 三度、自転車のベルが響き、

「そこまでだ」

 一人の男の声が響いた。

 三人の悪党の行く手に、制服・制帽の男が立っていた。それも、自転車を支えながらだ。

 三人の悪党たちの顔から下卑た笑みが消え失せ、それぞれが怒りの声を発する。

「なんだ、てめえは!」

「そこまでだ、だと!」

「今のはてめえが言ったのか!」

「……」

 制服・制帽の男は答えない。答える代わりに――

 チリン! チリン!

 二度、自転車のベルを鳴らした。

「なめやがって! てめえ、俺たちにケンカ売ってんのか? 俺たちはあのガトリングガン・ジョニーの手下だぜ? 痛い目見てえのか?」

「……」

 チリン! チリン! チリン!

「くそったれ! なめやがって! そのチリンチリンをやめねえか! ぶっ殺してやる!」

「おい、待て!」

 今にも躍りかかろうとした釘バットの悪党を、拳銃持ちの悪党が制止する。

 こいつは何かに気づいたようだった。

「なんだ?」

「待て! こいつ、ジュンサーだ!」

「ジュンサー? あの、新世界警察機構の戦闘員か?」

「そうだ。そのジュンサーだ。あの制服に制帽、制帽に付いてる太陽のエンブレムは、ジュンサーに違いねえ」

 三人の悪党は顔を青ざめさせた。ジュンサーのうわさは彼らのような悪党の耳にも届いているのだ。

「でもよ」

 少女を担いでいる大柄な悪党が口をはさむ。

「相手は一人だぜ? たった一人のジュンサーにびびって、みすみす上玉の獲物をあきらめるってのは、どうもしゃくだぜ?」

 この一言が決め手となった。三人の悪党は顔を見合わせ、残忍そうな笑みを浮かべる。

「そうだな」

「そうだ。暗黒の世界を照らす正義の太陽だかなんだか知らねえが、俺たち三人があんな妙ちくりんな自転車野郎に負けるわけがねえ」

「やろう!」

「やろうぜ!」

 少女を担いでいた悪党は少女を放り出すと、大型のコンバットナイフを抜き、舌なめずりをした。

 少女と父親が、

「アンナ!」

「お父さん!」

 ひしと抱き合う。

 三人の悪党はそれぞれ武器を手に、三角形の形でジュンサーを包囲した。ジュンサーの退路を断ったつもりだった。

「俺たちにケンカを売ったこと、後悔させてやる!」

「……」

 チリン! チリン!

 かかって来いとばかりにジュンサーはベルを鳴らした。

「なめやがって!」

 大型のナイフが突っ込んだ。

 次の瞬間、ガチャリ! ジュンサーは自転車のスタンドを立てた。

 これで自転車は倒れることがないし、そしてそれ以上に、ジュンサーの両手が自由になった。

 ナイフが迫る。

 ジュンサーは自由になった左手で、

「逮捕術!」

 ナイフ男の右手――ナイフが握られている――をつかみ、

「一本背負い!」

 右手で襟をつかむと、そのまま投げ飛ばした。

「うっ、うわあああああああっ!」

 悪党の体がロケットのように飛んで行く。加速しながらどこまでもどこまでも飛んで行き、そして――キラッ! 見えなくなった。

 あの高さから落下すれば、とても助かる見込みはない。

「一人」

 ジュンサーがつぶやく。

「てめえ、やりやがったな!」

 今度は釘バットの悪党が釘バットを振りかぶって殴りかかった。

 ジュンサーは少しもひるんだ様子もなく、

「逮捕術、大外刈り!」

 かえって悪党に肉薄すると、襟と腕をつかみ、悪党の足を刈った。

「ぐわああああああっ!」

 悪党はゴロゴロと地べたを転がり、全身を強打した挙げ句、そのまま大の字に伸びてこと切れた。

「二人」

 ジュンサーがつぶやく。

「あとは、お前一人か」

「ひっ、ひい!」

 拳銃持ちの悪党は、拳銃を構えたままブルブルと震えていた。

「こっ、こいつ! やりやがった! テディとテリーをやりやがった! 俺のダチ公をやりやがった! ポリ公がダチ公をやりやがった! 許さねえ! 許さねえぞ!」

「……」

 ジュンサーが無言で一歩近づく。拳銃持ちの悪党は一歩後ずさり、

「ガトリングガン・ジョニーに報告だ! 覚えてろ、ジュンサー! この落とし前はきっちりつけてやる! 覚えてろ!」

 くるりときびすを返すと、置いてあったオートバイに向かって走り去った。

 ブン! ブン! ブーン!

 砂煙を上げて悪党は逃げて行った。

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