第4話

 集落のはずれの開けた場所に、ジュンサーは一人立っていた。

 無論、彼の愛用の自転車も一緒だ。ジュンサーは自転車を支えながら立っているのだ。

 真っ昼間の日差しが降り注ぎ、荒野の風が吹き寄せる。しかし、人も自転車も微動だにすることはなかった。


 揺るがぬ意志!


 正義に対して己のすべてをささげる覚悟をした者だけが見せ得る、堅固な直立不動の立ち姿であった。

 そこへ――。

 先ほど悪党どもに連れ去られかけた少女が近づく。

 少女はその白くきゃしゃな手に、バスケットをさげていた。

「あっ、あの――」

 少女は顔を真っ赤にしながら、少し恥ずかしそうな様子で、ジュンサーに声をかけた。

 その姿はまるで、恋を知ったばかりの一人の少女のものであった。

「あの、おじさん、これ」

 少女はバスケットをかかげて見せる。

「これ、差し入れ。お父さんから、渡すようにって、頼まれてきたの」

「……」

 ジュンサーは答えない。その視線は、荒野のはるか彼方に向けられている。険しい視線だ。しかし――。

 チリン!

 ジュンサーは一度ベルを鳴らした。

「え? 受け取ってくれるの?」

「……」チリン!

「ありがたく受け取っておく? ううん、お礼を言わないといけないのはこっちの方だわ。さっきは助けてくれてありがとう」

「……」チリン!

「え? 俺はやるべきことをしたまでだ?」

「……」チリン!

「それより、なかなかうまい丸パンだな? うれしい! ほんとはもっとおいしいものを差し入れしたかったんだけど、ごめんなさい、こんなものしかなくて……」

「……」チリン!

「ありがとう。おじさん、とっても強いのね。悪い人たちを一瞬でやっつけちゃうんだもの。わたしも、おじさんみたいに強かったらいいのに。そしたら、自分のことも、大切な人も、みんな守ることができるのに。あの、わたし……」

「……」チリン!

「え?」

「敵が来た。隠れていろ」

 少女の顔がボッといっそう赤くなる。

 恋する少女に特有の不思議な力で、ジュンサーの鳴らすベルの意味を完全に読み取っていた少女であったが、ジュンサーに直接声をかけられたことで、一瞬、我を忘れてしまったのだ。

 だが、そんな場合ではないことは、少女にもすぐにわかった。

 ジュンサーの視線の先で、もうもうと砂煙が上がっている。これから何が起ころうとしているのか、それは少女にも理解できた。

「わかった。気をつけて、おじさん」

 少女は岩の陰に隠れた。

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