第42話 新たな恐怖

藤原とネネがマーロウの高出力爆破魔法と同時に最大出力の攻撃魔法を出した。

「やったか…?!」

マーロウと交戦し時間を稼いでいた岸田が倒れている。もう体力も魔力も底をついたようだ。彼はそこまで持久力は無いようだが瞬発力がある。


爆風が開けるとそこにはボロボロのマーロウが地面に立っていた。

「今のは…結構効きましたね…」

マーロウは跪いた。

「そ、それは良かった…」

藤原もネネも、その場にいたエドワード班全員がほとんど戦闘不能だ。

「困りましたね。これ以上の戦闘はこちらにも不利でs」

言葉を吐き捨てる途中でマーロウが一瞬で知らない男に変わっていた。



「お前…だれだよ…どこから来やがった…」

「逃げきれた…?いや、魔王様のおかげだネ!あぁ、本当に、本当にありがとうございます!今度こそ魔王様のご期待に応えます!」

「どういうことよ…これ」

俺の前でネネが倒れ込んで言った。

「たぶん、魔王の仕業だよ。この結界を作ったのもきっと魔王だ。マーロウってやつがやられそうになったから、位置を入れ替えたんだ。こいつ、ずっと逃げてたのか知らねえけど魔力全然減ってないっぽいぞ」

よく考えてある。ただの転移じゃなく位置入れ替えにすることで精度も速度も高くなってる。

「そんなのありかよ…必死の思いで倒してもまた他のやつと位置入れ替えれば新品と戦わなきゃいけないなんて…」

さすがの岸田も絶望している。いや、ガッカリしているのか?


「あのデカい女、こっちの攻撃全然効いてないんだから、やってられないネ!ざけんじゃネぇ。」

こりゃバーバラにコテンパンにされたらしいな。見るからに力技に弱そうな体格だ。

こいつのクチバシのようなガスマスクはきっと毒のようなものを出す魔法を使うのだろう。バーバラは半巨人族だからそういう魔法耐性はかなりのものだ。

俺も魔法習ってる最初の方は全然効かなくて練習にならなかった。


藤原が突然無言で立ち上がった。

「力也、まさかお前…」

「守は休んでてくれ。これ以上戦うと死にかねない。もし余力が少しでもあるのだとしたらネネと玲央を守っててくれよ!」

笑顔でそう言うと1人でガスマスク男に立ち向かった。

「おい、行くなよ…力也!気付いたんだよ俺。メインスキルは神がそいつに使命を授けてる。俺の使命はきっと、お前を守る盾になることだ!だから!」

「だったら尚更ここで死ぬなよ。当然俺もここで死ぬ気は無い。必ず勝ってみせるさ!なんせ俺は勇者だからな!」

またあの笑顔だ。


たとえ圧倒的不利になろうとも絶対に希望を見失わない。こいつが|勇者(ブレイブ)に選ばれたのもそれが理由だろう。俺とあいつの違いでもある。どちらが正義かは分からないけど、あいつが魔王を討って世界を救う才があるのも納得だ。


「藤原、認めるよ。だから下がってな。お前らよく頑張ったさ。」

「…は?俺がやるんだよ!」

「いいから下がってろよ。俺が一瞬で片付けてやるから。」

俺は藤原の前に立ってあいつを下がらせた。

「お前には無理だ!どっか行け!!」

「それはお前だよ。俺とお前は住む世界が違うんだよ。考えてもみろよ。殆どの人間は自分の身内や地元にスポーツ選手も有名ミュージシャンも殺人鬼もいないのは、そいつらが住む世界が違うからだよ。一般層とそれ以外の層は天と地ほどの差があるんだよ。この魔法の世界においてお前と俺は雲泥の差なんだなこれが。」

「…」

藤原は黙り込んでしまった。

「そのまま黙って下がってな。いや、下がらずともあいつをのしてやるよ笑」


「大丈夫かよあいつ…。あの魔獣?たぶんマーロウとかいうやつと同じくらい強いぜ?」

「あぁ。もしダメなようなら、俺たちが命懸けで止めよう。」

藤原と平木が何やら無意味な心配をしている。


「黙って聞いれてば君、すごい舐めてるネ笑」

「大方お前の能力の予想はついてる。半巨人族の攻撃などうだったよw あの戦斧、俺が上げたんだぞ?ww」

「くっ…どこまでもイライラさせてくれるネ!|死の波紋(プレーグリング)!」

あいつは両手を広げて全身から毒霧のようなものを出してきた。

「これが君の能力だな。」


霧状の毒を扱う生物は非効率的なため、あっちの世界じゃあまり自然界にはいない。事実毒を使う生物のほとんどは液体で、サソリやヘビのように直接対象の体内に注入するタイプが多い。

仮に気体だとしてもスカンクのような臭いを放つタイプ。この毒ガスに臭いは全くない。これは余談であり憶測だが、自然界では人間以上に鼻が利く動物が多いため敵にとってデメリットになりやすいのだろう。


つまりこれは毒ではない可能性が高い。

となれば、これは…。

「これ、毒じゃなくてウイルスだね。大方、このガスを操作できてるあたり、ガスに自分の魂を極小量混ぜているのだろう。つまり面倒なことに薬を作ってもウイルスが変異してしまうんだろう。」

「そ、その通りだネ…」

「もっといえば毒でない以上解毒剤もなく、自分にのみ効かない。そのマスクもその明らかな重装備もブラフだな?」

「あ、あぁ。」

「さっきのマーロウとかいうやつの戦いを見てて、気付いたけどお前らメインスキルないよな。もしあったらあんな無鉄砲な単純攻撃ばっか出さない。威力の上げ下げしかしてなかったからな。メインスキルは神が直接与えるものだから、魔獣の親の魔人が簡単にメインスキルを与えられてたら色々狂っちまう。当然だな。」

「…」

すっかり黙り込んでしまった。マスク越しでも悲しげな顔が浮かぶようだ。


「あいつすげえな…」

「さすが小次郎!やっぱ頭良い!」

平木とネネが俺に驚いてる様子を見て藤原が悔しそうな顔をしている。


ここが魔王の結界内だと分かった以上、魔王の目的は奇襲ではなく敵戦力の情報収集だろう。そうなると、ここで長期戦になったり俺の魔法を使いすぎるのは良くない。

「まぁ、サービスしてやるよ。俺の盗賊スキルは魔法だけじゃなくて魔法で起きた事象も盗むことができるんだよ。こういう風にね。|現実覇盗(マターズラーセリー)!」

俺は手を翳してこのガスごと全て吸収して盗んだ。


「そ、そんな…」

「またガス出しても無駄だよ?俺の武器になっちゃうだけだからねw」

「…分かってるネ…。」

「んじゃ、ボコボコターイム!w」

こいつ、かなりビビってやがる。厚着のくせに冷や汗流しすぎだ。

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俺だけ史上最悪の盗賊スキルでみんなから蔑まれたけど、最強になって丸ごと全部救ってやるよ @Usuta96

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