第36話 魔物の王

 そして俺とデルモンドの決闘が始まる。


 俺はデルモンドと向かい合い、緊張で心臓を高鳴らせていた。


「テンラー」


 そのときアナテアが声をかけてくる。


「奴は強いぞ。前に戦ったフリードよりもの」

「それでもやるしかない」


 普通に戦っても勝ち目はない。

 スキル『G』を当てることでしか、勝つことはできないだろう。


「奴を倒せたとしても、他の魔物どもが約束を守るとは思えん」

「それでも、デルモンドを倒してしまえば国は滅びを免れるかもしれないだろ?」


 決闘は奴と1体1で戦うためだ。

 約束は聞き入れたらありがたいくらいのついでである。


「最強のデルモンドが殺されれば他の奴はたぶん逃げ出す。そうなることに賭けるしかない」

「うむ……」

「なにをごちゃごちゃしゃべっておる。もう決闘は始まっているのだぞっ!」

「うわっ!?」


 デルモンドの大きな手がこちらへ迫る。


「どうなるかはわからんが、とりあえずはとっとと勝ってしまうのじゃ」

「えっ? おふぉっ!」


 アナテアの巨乳がグッと押し付けられ……


「スキル『G』を発動しますか?」

「は、発動ぉぉぉぉぉっ!」


 スキル『G』を発動し、迫るデルモンドへ向かって炎の魔法を放つ。


「なっ!? ぐああああっ!!!」


 激しい豪火がデルモンドを覆い、一瞬にして焼失させてしまう。

 あとには燃えカスだけが残り、周囲の者たちは呆気にとられた表情をしていた。


「な……えっ?」


 最初に声を発したのは魔物のひとりだ。


 身体の大きなその魔物は、デルモンドの燃えカスに近づくとそれを見下ろして絶句していた。


「デ、デルモンド様が……一瞬で? そ、そんな馬鹿なこと……」


 そして魔物は俺を睨む。


「こ、これはなにかの間違いだっ! 人間どもを殺して魔王の魂を奪えっ!」


 上がったその声に魔物たちが殺気だった。瞬間、


「いやあああああっ!」


 不意に俺が上げた大きな叫びに魔物らがビクリと身体を震わす。


「ま、魔物の群れが野獣のようないやらしい視線であたしを見てるわ……。きっとあたしを犯しに来たのね。か弱い女性を集団で犯そうとするなんて女性軽視的魔物たちだわ。許せないわね」


 俺の言葉に魔物たちはキョトンとして動きを止めていた。


「ただ犯されたりしないわ。近づいて来たら男性器を斬り落としてやるんだからね。さあ来なさいっ! 来ないならこっちから行くわよっ! ぎゃおおおんっ!!!」

「う、うわああああっ!!!」


 剣を振り回して突っ込むと、魔物たちは悲鳴を上げる。

 その悲鳴を皮切りに全体へ恐怖が伝わったのか、魔物たちは一斉に飛び立って遠くへと逃げて行った。


「なによっ! なんで逃げるのよっ! 来なさいよーっ!!!」


 叫ぶ俺を振り返ることなく魔物らはものすごい速さで去って行く。

 それへ向かって俺はギャンギャンと喚き続けていた。


 ……デルモンド率いる魔物たちを撃退してから数日が経つ。

 あれからふたたび魔物がアナテアの魂を奪いに来ることは無く、平和な日々が続いていた。


「暇だな」


 相変わらず俺は魔物対策室の部屋で暇をしていた。


「暇なのは良いことじゃ。デルモンドみたいなのがまた来られても困るしのう」

「そうだな」


 デルモンドを倒したのは覚えているが、他の魔物をどうやって追い返したのかは覚えていない。気が付けば魔物は消えており、撃退した俺は国王や他の者たちから称賛をされていた。


「魔物で最強のデルモンドが瞬殺されたのじゃ。他の魔物はお前を恐れて当分はここへ来ないじゃろうな」

「それはよかった」


 スキル『G』は1人を相手にするのでやっとだ。今回は他の魔物を追い返せたようだが、またあんなにわらわら来られたら1人じゃ倒し切れない。


「しかしあれほどの魔物を瞬殺してしまうとは、本当に強いなお前は。はっ!? もしかして強さを見せつけてわたしを惚れさそうと考えているのかっ! だか思い通りになると思うなっ! お前にはちょっとしか惚れてないからなっ! べた惚れさせようと思っていたかもしれないが、思い通りにならなくて残念だったなっ!」

「そ、そうなんだ」


 シュリアノにはちょっと惚れらているらしい。


「あのでかい魔物を倒したおかげで魔物対策室の予算が増えたわ。よかったわね」

「その予算で買ったのがそれか……」


 豪奢なイスに座っているレーティを見てため息を吐く。


「わたくしが座るべきイスが無くて困ってたのよ」

「イスならあるだろう?」

「こんな粗末なイスにわたくしが座れるわけないでしょ」

「そ、そうですか……」


 座り心地はたいして変わらないと思うのだが。


「あーそれにしても暇ねぇ。なんかすることないの?」

「なんかって言われてもなぁ……」


 あったらしている。

 本当になにも無いので暇をしているのだ。


「た、大変だっ!」


 と、部屋にパンツ1枚のおっさんが飛び込んでくる。……国王だ。


「裸でうろうろするなって言っただろこの馬鹿親父がっ!」

「いだぁっ!」


 飛び掛かったレーティが国王にヘッドバットを食らわす。


 仲の良い親子だ。


「待て落ち着けレーティよっ! 裸じゃないっ! パンツを穿いているっ!」

「服も着ろっ!」

「部屋を出るときは着ていたっ! しかしいつの間にか脱げてしまったのだっ!」

「そんなわけあるかっ!」

「いだぁっ!」


 ふたたびのヘッドバット。


 仲睦まじい家族のスキンシップに声をかけるべきか躊躇われた。


「いたたた……まったく父に暴力を振るうとは乱暴な娘だ」

「裸で城の中を歩く破廉恥な父親よりはマシよ」

「城はわしの自宅だ。裸になってなにが悪い?」

「悪いから……」

「わ、わかったっ! わしが悪かったからもうヘッドバットはしないでっ! パパの頭パカーンって割れちゃうからっ!」


 相当に痛かったのだろう。

 額にコブができた国王は恐怖の表情でレーティからあとずさる。


「あ、国王様、大変なことって……」


 2人の濃いやりとりを見ていて忘れていたが、なにやら大変だと言いながら国王は部屋に飛び込んできたのだ。


「あ、そうだ。こんなことを話している場合ではないっ! 大変なことが起きたのだっ!」

「大変なことって……」


 まさかまた魔物が大勢、襲撃して来たのか?


 俺は戦々恐々としながら国王の言葉を待つ。


「う、うむ。城へ大量の魔物が……」

「や、やはり魔物ですか……」


 次は勝てるだろうか。不安に震える。


「テンラーの配下になりたいと集まってきたのだ」

「えっ?」


 魔物が俺の配下になりたい?


 一体どういうことなのか……。


「早く会って話がしたいともうそこまで……うおっ!?」


 国王の背後から大勢の魔物が部屋へと入って来て、驚いた俺は身構える。しかし魔物たちに殺気などは無く、俺の前まで来ると全員が跪いた。


「突然の訪問、失礼します。先日、デルモンドを一瞬で倒したあなたの強さには大変恐れ入りました。つきましてはぜひあなたを我々の王になっていただき、すべての魔物を率いていただきたく、こうしてお願いへ参りました」

「い、いやその……」


 魔物の王? 冗談じゃない。それじゃあ俺が魔王になってしまうじゃないか。


 そんなのはごめんだった。


「まあ、それもおもしろいかもしれんのう」

「わたしは反対しないぞ」

「魔王の魂を持っているなら丁度良いんじゃない?」

「いや、俺は……」


 やるつもりない。


 そう断ろうとするも、


「お願いしますっ!」

「どうか我々を率いてくださいっ!」


 魔物たちが俺へ縋りついて必死に懇願してくる。


 魔物を率いることになればアナテアの身も安泰だろう。

 それを考えると、選択肢としてはありかもしれない。


 突然にゲーム世界へと転生させられた俺だが、生活はそれなりに充実している。いろいろ大変なこともあるが、前の人生よりは楽しく生きられそうだった。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 今回で最終回になります。

 別で連載しております「かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね」はまだ続きますので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。


 ここまで読んでいただきましてありがとうございました。


 

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序盤に殺される悪役貴族に転生させられたアラフォーの俺。魔王になってしまう予定の巨乳美少女を守るために一瞬だけ攻撃力最強のスキルを使って戦う 渡 歩駆 @schezo9987

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