第35話 魔物軍団の襲来

 露出魔事件から数日が経つ。


 魔物対策室へ仕事を丸投げしていたことがバレた騎士団のイムドラントと他数名は辺境へ左遷され、おかしな仕事がくることはなくなった。


「暇だな……」


 それはいいのだが、することがない。


 そもそもこの辺は強い魔物がいないから魔物対策室は仕事が無いのだ。変な仕事が無くなれば、そのままやることが無くなるのは当然だった。


「そういえばフリードはどうなったんだろう?」


 どこかは吹っ飛んでそのまま行方不明。

 あのまま死んでてくれれば不安も無いのだが。


「スキル『G』の威力を考えれば恐らく死んでおるじゃろう。気にせんでいい」

「そうか」


 ならそうなのだろうと俺はあくびをする。


「大変なことが起きたわっ!」

「うわっ!?」


 突然に部屋の扉が開いて大声が響き、驚いた俺はイスから転げ落ちる。


「レ、レーティ?」

「なに寝てんのよっ! 大変なことが起きたわっ!」

「大変なことって?」

「とにかく来なさいっ!」

「えっ? あ、はい」


 腕を掴まれた俺はそのまま引きづられるように部屋の外へと連れ出される。

 それから城の屋上へとやって来て……。


「あっ……」


 遠くの空になにか見える。

 たくさんのなにかが飛んでおり、こちらへ向かって来ているようだった。


「鳥かな?」

「あんなにでかい鳥はいないわよ」

「じゃあ……」

「魔物じゃな」


 俺の隣でアナテアが呟く。


「ま、魔物? でもあれ……」


 ものすごい数だ。

 たぶん1000はいるんじゃないかと思う。


「魔物なら魔物対策室の出番だなっ! 行くかっ? 行くんだなっ!」

「いやでも、あの数は……」


 やる気のシュリアノを横目に、あれは俺たちだけじゃ無理だろうと考える。


「あれは……もしかして」

「えっ?」


 表情を歪めたアナテアは、重々しい声を吐きながら魔物の集団を眺めていた。


 やがて上空へとやってきた魔物軍団が城の中庭へと降りる。


「た、大変なことになったな」


 慌てていたのか、半裸の国王も中庭へ駆け付ける。


 いや半裸なのは趣味かもしれないが、それは今どうでもいいことだ。


 騎士団や兵士も集まり、中庭に剣呑な空気が漂う。


「グハハ、人間どもがわらわら集まりやがって」


 魔物の集団からひと際に身体が大きい魔物が前へ出てくる。


「あ、あれは……」


 その姿には見覚えがあり、俺はゾッとした。


「まさか魔王軍の大将軍デルモンド……」


 ゲームでは終盤くらいに出てくるボスキャラだ。

 魔王よりも手強く、強さ設定を間違えてるんじゃないかとプレイ中は思ったほどの強敵である。


「な、なんでこいつがここに……?」

「理由はひとつしかないじゃろう」


 それを聞き、俺はハッとした。


「この国を滅ぼしに来たか?」


 半裸の国王が問う。


 外見はマヌケだが、やはりここは国王。

 臆せずに堂々と問う姿勢は立派だ。半裸で無ければ格好良かった。


「ガハハ。こんなチンケな国を滅ぼしにわざわざ魔界を束ねる大将軍であるデルモンド様が来るわけがないだろう」

「ま、魔界を束ねる大将軍……」


 周囲がざわつく。


 この辺は強い魔物がいない。

 そこへこんな大物が現れれば、動揺するのも無理はないだろう。


「ではなにをしに?」

「魔王の魂をいただきにだ」


 デルモンドがそう言った瞬間、周囲の視線が俺へと集まる。


 だが魔王の魂を持っているのは俺じゃない。

 持っているのは……。


「ここに魔王の魂があると誰に聞いたのじゃ?」


 アナテアの問いにデルモンドがニィと笑う。


「偉そうで奇妙な女だ。どこからともなく現れて、魔王の魂がある場所を俺様へ教えた。半信半疑だったが……ふん。どうやら本当だったようだ」


 偉そうな女と聞いて、俺はあの女神を思い浮かべる。

 恐らくフリードの敗北を知って、アナテアのことをこいつに教えたのだろう。


「魔王の魂はもらっていく。抵抗するならばこの国を滅ぼす。まあ、魔王の魂が手に入れば魔王が復活して人間どもは終わりだ。この国が滅ぶのも時間のもんだいではあるがな。ガハハハハっ!」


 周囲の注目が集まる中、俺は考える。


 選択肢は無い。アナテアを守るために俺はここにいるのだから。ならば取るべき行動はひとつしかなかった。


「滅ぼすっていうのは、あんたのうしろにいる魔物全員でこの国を攻めて滅ぼすってことか?」

「その通りよ。ガハハッ! しかしこんな小国では俺様ひとりでも一瞬で滅ぼせるな。ガハハッ!」

「あんたはそんなに強いのか?」


 強いのは聞かなくても知っている。

 戦闘力は見た目通りだ。しかしこいつにも弱いところがある。優れた戦闘力を持ちながら、魔王の配下になっている理由はそこが理由だと思う。


「強いっ! 人間なぞ束になっても俺様には敵わんぞっ!」

「だったら俺と決闘をしないか?」

「なに?」


 俺の提案を聞いたデルモンドの眉間に皺が寄る。


「俺と決闘をして、あんたが負けたら魔物は魔王の魂を諦めて2度と奪わない」

「そんなことをして俺になんの得がある?」

「なにも。単なる余興だよ。それとも俺との決闘が怖くて逃げるか?」

「この俺が貴様など恐れるわけがなかろうっ! いいだろうっ! 貴様と決闘をして、万が一にも俺様が負ければ魔王の魂は諦めて2度と奪ことはせんっ!」

「よし」


 簡単に挑発へ乗ってきた。


 デルモンドは優れた戦闘力を持っているが、頭は悪い。こう言えば決闘を受けるだろうとは思った。


 あとは俺が勝てばいいだけだが……。


 懸念はいくつかある。

 仮に俺が勝ったとして、考えの通りにいくかどうかはわからなかった。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 魔王よりも手強い魔物であるデルモンドと1対1の決闘をすることになりました。しかしデルモンドが負けたとしても、他の魔物は約束なんて守らないでしょうね。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回は最終回です。

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