常識を捨てたイカれ
「それで、逃げられたのですね」
「ああ、すまない。うちの若いのがヘマやらかしたんだわねぇ」
今回は
ただでさえアルの機嫌が悪い昼過ぎに、そんなくだらない話をされては苛立つ。しかも報告に来たのがこの女とあっては、自称心の広いアルも懐に入れたスタンガンを弄ろうというもの。視線で済ませているだけ優しい、アルはそう考えていた。
なんせ、アルとこの女には一言では言い表せぬ因縁が。
「怖い視線だ。
「あったり前だろこのババアっ!! 警察に頭ぐちゃぐちゃにされんのどんな気分かわかってるっ!?」
「……殺されたことないんねぇ」
「当たり前だろ! ふざけた言葉遣いしやがって!」
アルが投げつけたボールペンは、女刑事の中指と薬指にスッパリ挟まれた。
「警察にそれはダメだろ。あとババアではなく
「親御さん漢字選び間違ったな。あと、どこ方言だよ東京育ち」
「成城」
「……金持ちめ。成城に謝れ」
(前は広尾と言ってただろ。なんで渋谷区から世田谷区に移動してんだ)
ため息を吐くアルは、淑美との出会いを思い出す。
あれはサキが首吊りバラバラ殺人犯と遊んだ後、アルがサキの肉塊を降ろして声を掛けようとした時のこと。淑美は突然ガラスを突き破って突進してきた。馬乗りになった淑美が拳銃を取り出したのを見てアルが命乞いを始めようとして、淑美はアルの顔面を殴った。グリップで容赦なく顎を殴った淑美は一言、『あ、間違ったんなぁ』。続いて鼻頭を叩き潰す。アルの抵抗しようとした手を足で押さえ、ひたすらに顔面を殴打し続けた。
蘇ったアルが見たのは、同じく蘇ったサキとゲームをする淑美。
淑美はしばらくゲームをして、アルを一瞥し、謝罪もなくクールに去っていった。
「はあ……で? わざわざ淑美さんが出てきた理由は」
アルは自分の精神衛生上の危険を察知し、話を元の路線に戻そうとする。
それを察した淑美も、温かい目(無表情)で説明をすることにした。
「ああ、容疑者がお前のところに来るかもしれんのだんなぁ」
「は? 意味がわからないのですが」
本気で意味がわからない、それがアルの本心だ。何故なら、アルはナイフ滅多刺し犯と一切顔を合わせていないのだから。顔を合わせたのはサキだけのはずだ。
アルの考えは正しい。しかし
「
「ふざけんなよおふざけ女あぁぁあっ!!!!」
「冷静に考えろ。若いのがヘマして逃した、
「わかんねえよ!? 人権考えろ人権を!!」
頭を抱えるアルに、淑美は哀れみの目線を向ける。
(何を騒いでいるのだコイツは。死ぬかもしれないだけだろうにんなぁ)
無辜の人々の為ならば、自分の尊厳も死も
なお、死なない奴は国民として見做さない。サキは友達なのでアルとは別枠だ。
口調と見た目、仕事ぶりまでもがクールな彼女は、語尾だけが致命的に意味不明だった。
「では、確かに伝えたんなぁ」
淑美はそれだけ言って、黙ったままのアルをそのままに出て行こうとする。
アルの心は、『誰も知らない』の子供達も同情するほどに荒れていた。
「わーお、よみー! いえーい!」
「サキちゃん、元気だわねぇ。いえーい」
顔を合わせてはしゃぐ淑美とサキ。心はキュピーン。淑美は無表情だが、確かに喜んでいる。
ハブられたアル。心はジクジク。憎悪で顔が歪んでいるが、美貌なので刺さる人には刺さる。
ハイタッチをして淑美と別れたサキが、アルの隣に座った。
ノロノロと顔をあげたアルの目に、ワクワクと期待の色を浮かばせたサキが映る。
「素敵なおじさま、また来るね。独り占めしたいけど、アルにも分けてあげる! 一緒に死のう!」
「勝手に死んでくれイカれ女っ!!」
アルの絶叫が、防音設備の整った建物内に響いた。
死探の二人 アールサートゥ @Ramusesu836
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