下
鑑賞者のいなくなった月は、徐々に、しかし確実にくすんでいった。
月自身はあまり自覚していないようだった。ただ、日々あれだけ誇らしい気持ちで輝いていたはずだったのに、最近どうも空虚に感じることが増えたな、と思っていた。張り合いがない、というべきか。
そこで月は太陽に言った。
あなたも、もう十分に休んだだろうし私も少しくたびれてきた。そろそろ交代してくれてもいいよ。
太陽は月の話に同意した。
確かに、儂も少々暇を持て余していたところ。これは渡りに船だろう。月よ、ぜひ、そうしてくれ。
長年月の弱い光しか降り注がなかった地上では、普段なら地中や洞窟などで暮らしていた生き物たちが我が物顔をしてあふれていた。
そこへ月と交代した太陽が久々の仕事だと張り切って照り出し、地上を明るくする。
月光に比べあまりにも強く激しい日光の元、逃げる間もなく目や肌を容赦なく焼かれた夜を生きる地上の生物たちは、あっという間に絶えてしまった。
地上は焦土と化してしまったが、太陽と月は今でも地上を交代で照らしている。
人間? ああ、人間なら花も団子もお月見もとっくに放り出して、今頃は地下に潜って鍾乳石やら人工甘味料やら洞内の滝やらをありがたがって愛でてるって話だ。
人間に注目された滝や鍾乳石なんかが喜んで張り切りすぎないことを願ってはいるが、まあ、そんなところだ。
お月見したら地上が滅亡したはなし 洞貝 渉 @horagai
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