お月見したら地上が滅亡したはなし
洞貝 渉
上
さわさわと揺れるススキを見下ろしながら、月は思った。
花より団子、とはよく言うが、月より団子とは言わない。これは、花よりも団子よりも何よりも月が勝っているので、わざわざ言う必要がないからなのではないか。つまり、これはみんなが月を尊く思い好意を抱いているという証拠なのではないか。
月はこの考えが気に入った。
だって、ほら、ごらんよ。人間たちはみな、私を見上げている。すぐ隣に飾ったススキでもなく、手元に置いた団子でもなく、遠く夜空にぽっかりと浮かぶ私の姿を一心に見つめている。
嬉しくなった月は太陽に言った。
人間は月が何よりも好きなんだ。だから、太陽はしばらく休んでいたらどうだろうか。代わりに私がずっと空で輝き続ければいい。花よりも団子よりも何よりも勝る、月の私さえいれば、それだけで人間は十分だろう、と。
太陽は月の話に同意した。
儂ももう年だ。毎日毎日働き続けるのも辛く、ここいらでまとまった休みが欲しいと思っていたところ。これは渡りに船だろう。月よ、ぜひ、そうしてくれ。
それからというもの、月が沈むことは無くなり、太陽が昇ることも無くなった。
最初に消えたのは花だ。
日の光の下に咲く花はもちろん、月の光の元で咲く花さえも消えた。どちらの花も十分な太陽光が得られなければ、花を開く力が湧かないらしい。
月は地上から花が消えたことには気が付かなかった。花のことなど気にも留めてはいなかったから。団子にさえ劣る存在など、はなっから眼中になどなかったのだ。
次に消えたのは団子だ。
団子を作るための米が育たなくなり、貯蔵されていた分も底を尽きたようだった。
月は地上から団子が消えたことにも気が付かなかった。花だろうと団子だろうと格下の存在になどこれっぽっちも意識を向けてはいなかったから。
最後に消えたのは人間だった。
月は地上から人間が消えたことにさえも気が付かなかった。もはや月にとっては人間も団子も花も同じようなものでしかなく、ただ自身がしずしずと輝きを保っていられることのみが重要だったらしい。
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