第3話 キールは悪なのか

 キールは魔法医学者だ。

 いつも多くの犯罪者や浮浪者を金で釣って、新しい魔法薬の実験体にしている。

 論文も多く出しており、その成果は絶大だ。


「早く帰ってアネのこと殺したいなあ」


 キールは小さく独白した。

 犯罪は嫌いだがぎりぎりのことをしている人生。

 狂気はどこから生まれたのか、子供の頃の虐待が今を指しているのかもしれない。

 今この地位にいられるのも、親のおかげだと思いつつ、どこかにぶつけたい思いが煽ってくるのだ。


 道端で、凍えて死のうとしていたアネ。

 初めて可愛いと思ったし、都合がいいと思った。


「キール先生、この魔法薬マジでいいですね」

「研究に時間がかかったからね」


 悪魔が囁いてくる。俺の呵責を超えて甘い誘惑をしてくるのだ。

 研究職で、悪魔を1柱従えているのは案外少なくないが、魔法量が絶大なキールは最高位の悪魔をつけている。


「早く終わらせて帰ろうぜ」

「わかっているよ。

 でも今日はやらなきゃ行けないことが多いし、学会発表も近いんだ」



「いつ帰ってくるの」


 繋がれた足を見ながら小さく言った。

 朝にいた男。

 逃げ出すつもりも失せるほど強い呪縛。


「誰も助けてくれない」

 掠れた声で言う。昼間何度も何度も叫んだ声は枯れていて、ここはきっと山奥か、何かなのだろうかと疑ったほどだ。

 外の景色は普通の街並み、住宅街で、どうしてこんなに声が通らないのか訳がわからなかった。


「こんなことなら一人で山にでも行けばよかった」


 そんなことをしても報われない人生。誰も助けてくれない自分自身には、帰ってくるキールしか救いがなかった。


「どうしたらいいの」

 

 一人言葉を吐くと、涙がスッと出てきた。

 きっと一人が辛いのだろうと馬鹿だと思った。

 暖かかったコーヒーを思い出し、待ってしまう自分に嫌気がさす。


 あの男はまた殺すのだろう。

 そして生き返らせられるのだろう。





 眠りについているアネを撫でるキールの姿はそこにはあった。

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死にたいのに死なせてもらえない件について 梅里遊櫃 @minlinkanli

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