第3話 キールは悪なのか
キールは魔法医学者だ。
いつも多くの犯罪者や浮浪者を金で釣って、新しい魔法薬の実験体にしている。
論文も多く出しており、その成果は絶大だ。
「早く帰ってアネのこと殺したいなあ」
キールは小さく独白した。
犯罪は嫌いだがぎりぎりのことをしている人生。
狂気はどこから生まれたのか、子供の頃の虐待が今を指しているのかもしれない。
今この地位にいられるのも、親のおかげだと思いつつ、どこかにぶつけたい思いが煽ってくるのだ。
道端で、凍えて死のうとしていたアネ。
初めて可愛いと思ったし、都合がいいと思った。
「キール先生、この魔法薬マジでいいですね」
「研究に時間がかかったからね」
悪魔が囁いてくる。俺の呵責を超えて甘い誘惑をしてくるのだ。
研究職で、悪魔を1柱従えているのは案外少なくないが、魔法量が絶大なキールは最高位の悪魔をつけている。
「早く終わらせて帰ろうぜ」
「わかっているよ。
でも今日はやらなきゃ行けないことが多いし、学会発表も近いんだ」
*
「いつ帰ってくるの」
繋がれた足を見ながら小さく言った。
朝にいた男。
逃げ出すつもりも失せるほど強い呪縛。
「誰も助けてくれない」
掠れた声で言う。昼間何度も何度も叫んだ声は枯れていて、ここはきっと山奥か、何かなのだろうかと疑ったほどだ。
外の景色は普通の街並み、住宅街で、どうしてこんなに声が通らないのか訳がわからなかった。
「こんなことなら一人で山にでも行けばよかった」
そんなことをしても報われない人生。誰も助けてくれない自分自身には、帰ってくるキールしか救いがなかった。
「どうしたらいいの」
一人言葉を吐くと、涙がスッと出てきた。
きっと一人が辛いのだろうと馬鹿だと思った。
暖かかったコーヒーを思い出し、待ってしまう自分に嫌気がさす。
あの男はまた殺すのだろう。
そして生き返らせられるのだろう。
*
眠りについているアネを撫でるキールの姿はそこにはあった。
死にたいのに死なせてもらえない件について 梅里遊櫃 @minlinkanli
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