第2話 震えるアネ

 アネは戦慄していた。

 部屋には誰も来ない。


「なにこれ」

 足枷は厳重に魔法までかけられて、光っている。

 ベッドで寝そべっていたアネは気づいていなかった。


「え、これからずっとここって事?」

 毎日繰り返される殺害と生き返り。

 まだ二日目にして目の当たりにする現実。

 アネを逃すまいとする、キールの周到さに怯えていた。


 アネは魔法が使えなかった。自分の劣等感と周りからの罵倒などいじめに耐え切れず、死のうと思っていたのだ。

 キールという男が異常な執着を見せるなんて微塵も思っていなかったのだ。


 しかもキールは魔法の中でも医学魔法が使える男である。

 聖職者とも呼ばれるような部類のお高い地位の魔法使いである。


「私も、これくらい魔法が使えたらな」

 怯えながら足枷に触れる。

 少し温かみを感じて、キールがただ殺しだけの人ではないように思えた。


 なにも知らない自分にも恐怖があった。


 知らない男に殺しを依頼したこと。

 知らない男に閉じ込められていること。

 男が帰ってこないこと。


「いつ帰ってくるんだろうか」


 少し、立ち上がる。

 ジャラリ。音が鳴る。

 ジャラジャラと音を立てる足枷が邪魔にも思えなかった。


「ここまでしか行けないのか」

 部屋のドアまで行くとぎりぎり扉に手をかけられない。

「こんななら」 


 --助けて。


 声にならない言葉は掠れたように吐息だけが部屋に響いた。

 

 すると、ガチャリと音がして扉が開いた。


「よかった。

 君が魔法が使えない子で」


 帰ってきたキールは上着を脱ぎながら言った。


「今日も殺させてくれるよね?」


 そう言って今度はハンマーを取り出した。逃げようとするアネを考えず、押さえつけ、キールは鈍器で頭を殴った。


 そうしてまた殺されたのであった。

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