後編

 では前編に引き続き、ゴジラ-1.0のミリオタ的胸熱ポイントを語ってまいりましょう。


 その前に一つ訂正を。前編で重巡洋艦「高雄」には、九三式酸素魚雷は搭載していなかったと書きましたが、別の資料で搭載していたとの記述を確認いたしました。

 資料の信憑性から判断するに、高雄は九三式酸素魚雷を搭載していたと思われます。訂正いたします。




 ③ 震電の登場


 ゴジラの注意をそらすため、また、とどめを刺すために主人公が乗り込んだ戦闘機です。


 知らない方のために解説いたしますと、震電は高高度迎撃機と呼ばれる種類の兵器です。

 上空1万メートルを飛行し、悠々と爆撃を繰り返す「B-29爆撃機」を撃墜するために開発された戦闘機でした。

 その為に高出力の大型エンジンを通常とは逆向きの推進式に配置し、プロペラは前代未聞の6枚羽。更には機首方向に小型のカナード翼を配し、主武装は30mmの大口径機銃。等々。

 革新的な装備てんこ盛りの戦闘機でした。

 正に「ぼくのかんがえた、さいきょうのせんとうき」を体現しているのです。

 余談ですがウチのひいばぁちゃんは、B-29の焼夷弾に殺されかけたそうです。

 危なかったぜ。\(゜Д゜;)



 ミリオタ諸君。

 分かります。君らの言いたいことは分かります。

 (。´・ω・)?「なぜ、震電なんだ? 主人公の経歴からしても乗り慣れた「52型」か、アップグレードするにしても、「紫電改」辺りが妥当だろう」と。

 分かります。


 この戦闘機は、開発途中で終戦を迎えたため、「一応、飛べる」程度の完成度です。とてもではありませんが、対ゴジラ戦への投入は難しかったでしょう。

 主人公の搭乗していたゼロ戦とは、何もかもが違う飛行機ですし、ぶっつけ本番で飛べるわけがありません。なによりもこいつ「高高度迎撃機」なんっすよ。

 つまり、空気の薄い高高度で戦う専用の飛行機。恐らく低空域は、クソ雑魚ナメクジな性能だったと思われます。

 てか、翼の形状をみれば、どう見ても高速仕様。低空で急旋回なんてしたら翼から空気が剝がれて墜落したでしょうね。

 私も厄介オタの端くれとして、諸君らの気持ちも分かりますが、ここは映画的には震電が正解です。




 理由その一。 見た目。


 この震電。ヴィジュアル的には、完全に未来の戦闘機です。

 エンジンをジェットにすれば、そのままジェット戦闘機になれる形状です。

 ゴジラを倒し、戦後日本の未来を切り開くためには、やはり未来の戦闘機こそが、その任にふさわしいでしょう。



 理由その二。 機首に弾頭を詰め込めるのは震電だけ。


 あのラストのシーンを描くためには、震電以外ありえません。

 他の機種だと特攻にならん。

 特攻はこの作品のコンセプトというかテーマの一つです。

 よしんば他の機体で特攻したとしても、25番を自然と口に放り込めません。ゴジラには機首ごと、ガブリといってもらわなければならないのです。

 そうなると震電以外の選択肢はありません。



 理由その三。 飛んでいるところを見たい。


 震電は高雄とは違う意味での、無念の戦闘機です。

 飛んでいるところ、戦うところを観たいでしょ。私は見たい。震電の開発にかかわった方々への供養にもなるでしょう。

 大戦中、B-29の撃墜は叶いませんでしたが、次の相手はゴジラです。相手なとって不足なし。

 (*‘∀‘)//ってか、震電がゴジラの周りを高速で旋回しているシーンだけで、胸が熱くなる。




 ④ 作戦会議


 この手のドラマには必須のシーンです。主人公たち以外の人々のドラマが描けますし、出来栄えも良かったです。

 

 ただ一つだけ、注文してもよろしいでしょうか。

 あのですね。ゴジラ討伐の責任者の階級が低すぎやしませんか?

 

 責任者として登場したのが駆逐艦雪風の堀田艦長。

 体格もいいし頼れる感じもあって、役者さんも良い演技をなさっていたとは思いますが、いかんせん少佐の階級は低すぎる。

 会社で言えば課長さんか、店長さんぐらいの立場の人ですよ。少佐って。

 ゴジラ相手に少佐では、これはゴジラに対して失礼。

 最低でも将官クラスの人物が責任者を務めるべきです。



 という訳で、高雄の戦闘シーンに続き、またまた私が勝手に演出を変更したいと思います。

 集まった人たちが、政府やGHQの対応に激怒して席を立とうとするシーンから。

 実際の本編では、何人かは出て行ってしまいました。

 私はここから変更しましょう。



 怒った人が部屋を出ていこうとすると、白い旧海軍の士官服を着た、背の高いカイゼル髭の初老の男性が、数人の男たちを従えて入室。

           ↓

 白い士官服には階級章は一切なし。

 部屋に居合わせた人たちは「誰だ? こいつ? 」みたいな反応。

           ↓

 老人を見た堀田艦長「提督!!」と叫び、慌てて敬礼する。

 老人はゆっくりと答礼。

           ↓

 「提督? 」艦長の言葉に周りがざわめく。

           ↓

 老人、中央に進み出て、参加者を見渡す。

 「遅れて申し訳ない。今回の作戦指揮を任された中村です」

           ↓

 集まった人たち「中村提督? ・・・って、中村少将・・・ 」「えっ、嘘だろ」「キスカの奇跡の中村少将? 」「一水戦の中村? 」

           ↓

 老人「今は予備役の身です。しかし、新しき日本国の為、日本国民の為に、最後の御奉公と思い、任を全うする覚悟です。今一度、皆の力を貸してほしい」

 鋭い眼光。

           ↓

 ここで集まった人たち全員が、中村提督に向かって敬礼。

 誰一人帰ったりなんかしませんよ。

 私も帰らん。(`・ω・´)ゞ           

 正に真打は遅れてやって来る。


 このシーンを入れていただけたら私は嬉しさのあまり、叫んでいたかもしれません。いや、一緒になってその場で立ち上がり直立不動で敬礼です。

 (; ・`д・´)//迷惑。

 いやー、リアルな歴史とフィクションが混ざり合って、最高級の味わいになっていたでしょう。 

 (≧◇≦)ハァハァ。

 失礼。興奮しました。



 さて、このご老人。「キスカの奇跡」の一言で、ミリオタはピンときますが、モデルとなられるのは木村昌福少将です。


 ちょー簡単に解説しますと、大戦後期、アリューシャン列島を占領した日本軍は、米軍の猛反撃に会い、1943年5月29日アッツ島守備隊2600名は玉砕。

 次はキスカ島が狙われることは明白でした。

 ここで、大本営は北方に展開していた第一水雷戦隊に、守備隊救出を下令しました。その時の司令官が木村少将です。

 木村少将は、米艦隊に包囲されたキスカ島に濃霧に紛れて接近。

 一度目は霧が発生しなかったため、安全を優先して帰投。

 大本営や守備隊からは轟轟たる非難と「早く助けてくれ」の大合唱。

 米軍の攻撃時期や、海軍の燃料事情から考えて、チャンスは残り一回。

 この一回のチャンスをものにするため、周りからの催促をガン無視。旗艦「阿武隈」で悠然と釣りをしていたそうです。


 ( ゜Д゜)//一体どういう胆力だ。私なら胃痙攣を起こしています。


 そして、濃霧が発生したのを見計らって、再びキスカ湾に突入。守備隊5184名、全員を収容して無事帰還しました。

 その翌日が翌々日に米軍の総攻撃が始まったそうですから、本当に薄氷の上の撤退劇でした。

 キスカ島に誰もいないとは知らない米軍は、不幸にも同士討ちをしたらしいです。これはしゃーない。

 この功績により木村提督は、昭和天皇から直々にお褒めの言葉を頂いたそうです。


 その後も「礼号作戦」において、制空権、制海権共に喪失している中、米軍の物資貯蔵施設を砲撃。無事帰還しています。 

 この作戦は、「帝国海軍最後の勝利」とさえ言われています。

 木村提督であれば、ゴジラと相対するには十分な階級、実力、実績でしょう。

 そしてなにより、このお方。ゴジラが暴れた1947年はご存命なのです。

 何の問題もない。

 



 ⑤ 駆逐艦「雪風」と「響」


 ゴジラとの最後の決戦。海神作戦で使用された駆逐艦です。


 これは山崎監督。よくやった。正直、この配役はしびれましたね。

 主砲や魚雷発射管を外された、武装解除状態にも感銘を受けた。

 (;´∀`)//よく考えとるなぁ。

 そして、艦の横に書かれた「YUKIKAZE」の安心感よ。

 ( ̄▽ ̄)//これは勝ったな。風呂入って来るわ。それほどまでの安心感。

 

 だって、絶対に沈まないじゃん。

 「雪風」は砲撃も爆撃の雷撃も全部、避けるもん。機銃弾ぐらいしか当たったことないんじゃなかったっけ。ゴジラが例外であるわけがない。

 「雪風」についた二つ名は「幸運艦」「不沈艦」もしくは「異能生存体」。他の艦の乗組員は、「雪風」の塗装を削ってお守りにしたって逸話があるほどの殊勲艦です。

 「響」も同様ですよ。「不死鳥」と呼ばれた艦です。この両艦が沈むわけがない。


 しっかし、ゴジラ対「不沈艦」と「不死鳥」のタッグマッチかよ。

 こんな胸ぁっ展開、よく思いつきましたね。監督。

 o(≧~≦)o 一小説家としてマジで悔しいー。

 



 

 ⑥ 海神作戦


 人間とゴジラの最後の死闘のシーンですが、一点だけ不満点がありました。

 それは、雪風と響がすれ違うシーン。両艦がすれ違う時に、軽くぶつかって艦が揺れました。

 分かる。分かりますよ。絵的にはあれが最適解であることは。

 しかしですね。私といたしましては、ギリギリで何事もなく躱してほしかった。

 シーンとしてはこんな感じ。



 カメラは雪風。正面から響が接近。ぶつかりそう。

 艦長「舵そのまま」

 雪風乗り組み。緊張した面持ち。

          ↓

 紙一重で響とすれ違う。

 艇長や技師たちが喜び叫ぶ。艦長「ニヤッ」

 中村提督に至っては、気にも留めずにゴジラから一切目を離さない。



 ( ̄▽ ̄)//これですよ。

 このプロフェッショナル感が欲しかったですね。

 いかに旧海軍の練度が高かったかの証明ですし、提督がゴジラから目を離さないという事は、部下への信頼がいかに厚いかも伝わります。

 皆が自分の本分を貫いた結果として描いてほしかった。




         以上。



 いかがでしたでしょうか。

 今回のゴジラ、ミリオタ的には最高傑作と言って差し支えないかと。

 もちろん、このような日々の生活には何の役にも立たない知識が無くても、十二分に楽しめる作品です。

 まだ観ておられない方は、ぜひ映画館に足をお運びください。



                終わり

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ミリタリーオタクから見た ゴジラ-1.0 加藤 良介 @sinkurea54

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