第10話 ギフテッドビジネスとギフママ
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ギフいんふぉ@giftedinformation_for_gifmom 12:00 2023/04/30
「最近、ギフテッドが話題になることが増えて、認知度が上がって嬉しいですね!
一方で誤解も増えて、とっても悲しい気持ちになります( ; ; )」
ミネルヴァ @giftedgirllove 12:02 2023/04/30
「本当ですよね!もっとちゃんと理解してほしい!ギフいんふぉさん、情報発信をお願いしますね!」
ギフいんふぉ@giftedinformation_for_gifmom 12:05 2023/04/30
「応援ありがとうございます!私もギフ児の息子がいるギフママなので、世間の理解を深めるべく、ギフテッド情報をポストし続けます!」
なちゅらるママ5y&︎2y @natural_care_gift 12:07 2023/04/30
「マイノリティに救いの手をー!」
今日もギフいんふぉのアカウントでツミッタにポストする。
働いている母親でもポストを見られるように、昼休みに入る12時に必ず1回は更新をするようにしている。
それから、家事が落ち着く21時以降にもポストを増やす。
専業主婦は暇だからいつでもツミッタを、朝に子どもが登校すると、ずっとツミッタにへばりついて、傷の舐め合いをしている。
ミネルヴァ達の一派は、基本的に即リプ。暇なのだろう。
こいつらがギフいんふぉ運営者、つまり俺の養分。
アカウントではギフ児がいるパート主婦を装っているが、俺にはギフテッドどころか、子どもなんていないし、女でもない。
アフィリエイトで稼いでいる在宅ワーカーだ。
最近、俺が運営しているアフィリサイトの中でも、ギフテッド情報サイト「ギフいんふぉ」の収益率が高い。
特にツミッタとの親和性が高く、連動させると収益が跳ね上がった。
3年前、Fラン大学を卒業した俺が就職できたのはブラック弱小企業。
サビ残、パワハラ、スズメの涙の低給料…働く意味など見出せなかった。
不眠に悩み、副業サイトを渡り歩いた。
どれもこれも安い賃金でこき使おうとするばかり。
しかし、ふと出会ったアフィリサイトの運営方法紹介サイトが面白かった。
「寝ている間に小銭が貯まる」
リターンを「小銭」と正直に紹介しているところに好感が持てたし、寝ている間というのも、なぜか不眠の俺には刺さるフレーズだった。
ちょうどその直前に、俺は「金払いのいい人」特集のサイトを見ていた。
「金払いのいい人は、追い詰められている人です」
「金払いのいい人は、承認欲求が満たされていない人です」
「金払いのいい人は、孤独で孤立している人です」
「こいつらに、『安心』と『居場所』を用意すると、必死に金を払って手に入れようとします」
この「アフィリエイト運営」と「金払いのいい人」の情報を見て、俺の脳みそに科学反応が起きた。
「苦しくて苦しくて誰かに助けてもらいたい人に、都合のいい情報を流し込んで、金を毟り取ろう!」
俺はその日から、会社の仕事を真面目にやらなくなった。
「アフィリサイト運営が成功して、アフィリエイターとして生きる」「楽をして稼ぐ」「不労収入を得る」と決めたのだ。
そして、俺はアフィリ運営の勉強を始め、簡単なウェブサイトの作り方も勉強した。
SNSでフォロワーを集めたり、インプレッションを上げる方法もあちらこちらで学び、いかに認知度を上げて、収益に結びつけるかを考えた。
それこそ炎上商法だって研究した。
(承認欲求にまみれ、不安に苦しむ孤独な人々は誰だ?)
俺はネット中を探した。
ポイントは「ただし貧乏人は除く」。
金を毟り取るには、まず金を持っている人でなくてはならない。
金持ちで、孤独で、友達がいなそうで、
でも、プライドが高くて自分は賢いとマウントを取りたいバカ。
ネットを探すと意外にいた。
例えば…。
今は年金暮らしの元大企業の役職持ち。
元バリキャリおひとり様老人。
高学歴で働きたいのに高収入転勤族の妻の専業主婦。
お受験や幼児教育に熱心な母親。
(女が良さそうだな…しかも、専業主婦)
女はすぐに弱音を吐いて慰めてもらおうとする。
男は見栄があるから簡単には弱い部分を見せないが、女なんかすぐにピーピー泣いて見せて、被害者ぶるのだ。
中でも、圧倒的に拡散力が高かったのは、専業主婦。
暇が高じて1日あたりのポストが多く、SNSでも群れるので横のつながりから広がりやすい。
特に教育に力を入れている母親は金がある。
教育ママはどんな教育をしているかをすぐに披露したがる。
いくらかけていて、子どもがどれだけ優秀か自慢したくてしたくてたまらないのだ。
すぐに教育状況から経済力が分かる。
あのキャラクターが有名な教材をポンと買って、自慢するバカ女は最高だ!
え?通信教育?問題外だ。
あんな安くて、送迎の労力も使わずに成績を上げたいなんて家に経済力は期待できない。
コスパが自慢の算盤や塾?
これもナシ!
教育にコスパだのタイパだのという親は三流のカモだ。
問題は「教育力があるか」「子どもが優秀か」ではない。
「どれだけ教育に割ける金があるか」だ。
狙いは習い事を掛け持ちしている専業主婦家庭。
女を専業主婦として遊ばせるだけの経済力が家庭にあり、専業主婦は暇を持て余して子どもの教育に熱を上げる。
余力のある経済力と、暇でバカな母親が合わさると、良質なカモに変わる。
舐めるように教育についてのポストしている自己顕示欲の強そうな女を探した。
すると…。
♪まき♪不登校を楽しむ親子 @BIGbrave 9:36 2023/04/13
「分かります!ギフテッドなんて全然キラキラしてなくて、ただ大変なだけ!
地獄の育児生活なのに、何がそんなに羨ましいのか…」
ゆーまま⭐︎ @IQgifted_mom 9:40 2023/04/13
「凸があることが幸せに見えるんですかね?ギフテッドの苦労が伝わらなくてツライ」
いた…!!!!!
これらは最近のポストだが、こいつら「ギフママ」は何年も前から似たようなポストを繰り返しているのを見つけた。
(これは良質な金脈を掘り当てたぞ!!!)
3年前、アフィリを始めた俺はカモの群衆を見つけて大興奮した。
全てが完璧だった!
専業主婦率の高さ。
教育費の数や金額の多さ…そう、経済力!
群れて傷を舐め合う集団心理と拡散力。
文句を言う割に解決策を見出せない行動力と思考力の欠如。
何よりこいつらは、承認と所属を求めていて、孤独で孤立し不安満載だ!!
(そうだよな、寄る辺ないお前らギフママに、「救い」は必要だよな)
俺はニヤリと笑い、すぐにウェブサイト「ギフいんふぉ」、そして同名のツミッタアカウントを立ち上げたのだった。
これがまあ空前絶後の大当たり!
アフィリエイトの収益が爆上がりし、俺は2年前に会社を辞めることができたのだ!
(本当にお前らは素直で寂しくて…、可愛いよ!)
俺はギフいんふぉを立ち上げた経緯を思い出しながら、アフィリエイトの収益画面を見て口元を緩め、またポストをした。
ギフいんふぉ@giftedinformation_for_gifmom 12:10 2023/04/30
「マイノリティは取り残されがち。
ギフテッドが不登校になることは当然です!
高IQ児を学校は見捨ています!
境界知能や知的障害の発達障害は、医師やカウンセラーなどの医療や福祉と繋がれるのに!
サイト→ https://kakuyomu.jp/users/Hanazuoh_Maki
#発達凹凸 #脳デカ #知育 #ギフティッド #発達障害 #ADHD #ASD #Wiskit 」
実はこのポストにも、アフィリエイトとして収益を得るために、たくさんの工夫がされている。
例えば、ポスト内に重要キーワードを散りばめること。
「ギフテッド」「高IQ」はマストだ。
ギフママの決め台詞は「やっと思いで辿り着いたのはギフテッドの情報でしたー」だ。
何を苦労していたのか知ったこっちゃないが、「救い」を求めるバカどもをこちらに誘導しなくてはならない。
だから、関係のある単語は全てポスト内に盛り込まなければならない。
ポイントは「孤独」「不安」な専業主婦にリーチすることだ。
だから、ターゲットに届くように「不登校」「発達障害」「ADHD」「ASD」のキーワードも入れておく。
そうすれば、子どもが発達検査を受けさせたら高IQが出た家庭の親や、子どもの発達障害や不登校を受け止められない親の目に、俺のポストが目に入るようになる。
ギフいんふぉ@giftedinformation_for_gifmom 12:15 2023/04/30
「あなたの困りごとは、ギフテッド由来なのです」
「高IQゆえの悩みです。その他大勢のご家庭にはない深刻な苦しみがあるのです」
「マイノリティを育てるママの苦労たるや!頑張っているギフママ様たちは素晴らしい!」
社会から取り残され、はみ出しものとなり、満たされない承認欲求と自己顕示欲。そして恥と不安。
自分の全てを子どもを通して否定されたような感覚に陥り、孤独を極めるカモに俺は語りかける。
「あなたはとても頑張っていて、崇高な使命を担っているのです」
このなんとも甘い言葉にバカ女たちはホイホイ引っかかる。
ギフいんふぉ@giftedinformation_for_gifmom 12:17 2023/04/30
「学業成績が良くないからといってギフテッドではないとは言い切れません!
アンダーアチーバーと言って、せっかくの能力を環境のせいで発揮できないことがあるのです。環境のせいで!!!」
「Wiskitの検査でIQが130を超えていなくても、115程度あればギフテッドだとされていますよ!さらに1回だけだとたまたま調子が悪くて低い数値が出ることも…。IQの値だけでなく、ギフテッド特長も要確認!」
「ギフテッド特長を一覧にしてサイトに掲載しています。あなたのお子さんもギフテッドかも!」
誰でも自分の子どもをギフテッドだと思い込めるように、様々な情報を与える。
サイトに掲載されているギフテッド特長は全部ネットでかき集めた適当な情報だ。
うまいこと書き直したり、ツギハギをしたりして、それらしいように見せているだけ。
真偽は不明な情報たち。
このサイトに大事なことは正確性ではない。
「もっともらしい言い訳を与える」
「今の苦しみの原因を自分や子どもではなく、環境などの他責にする」
そして「私の悩みは別格であるというマウントポジションを与える」ことだ。
不安で「救い」を必死に求める女は、すぐに俺のポストの「ギフテッッド特長」を確認しようとリンクを見る。
バカ親は「ギフテッドだから、こんなに苦労するのだ!」と安心する。
俺のサイトはインプレッションは上がり、アフィリ収入がガンガン上がる。
(素晴らしいじゃないか。Win-Winだ)
俺はほくそ笑む。
大体、子育てでクヨクヨ悩むやつなど体裁ばかり気にしている自分が可愛い女だ。
子どもを愛しているのではない。
「子どもを可愛がっている私が好き!」なのだ。
はっ!バカはいつも自分のことしか見えていない!絶好のカモだ!
(そもそも、子どもの評価を自分の評価として受け止めている時点で、子どものことなんざ大事にしていない証拠だ)
俺は自分の母親を思い出す。
母親は大した学歴もなく、親父の稼ぎが悪いにも関わらず専業主婦だった。
「子どもたちを立派に育てるため」と宣(のたま)っていた。
しかし、現実は飯マズ・汚部屋・年中半袖の手抜き育児。
俺が学校から帰るとトドのような脂肪の塊が、テレビの前に転がっている。
あいつは母親なんかじゃない、トドだ。
そのくせ「勉強しろ」「勉強しろ」とうるさい。
何も言わないときでさえ、無言のプレッシャーを与えてくる。
どうでもいいような簡単な問題が並んだプリントを山ほど用意され、終わるまでは飯も食わせてもらえなかった。
テストで0点を取るとビンタ。
「あんたのせいで恥をかいたのよ!」
「いくらかけて塾に通わせていると思ってんの?!」
「⚪︎⚪︎さんとこは満点だったのよ!なんでアンタにできないの?!」
俺がいつも言われていた言葉だ。
なぜ満点を取れないか?
そんなこと決まっている。お前の子だからだ。
安かろう悪かろうな塾に金を注ぎ込んで、子どもの学習時間を浪費したからだ。
お前が恥をかいているんじゃない!俺が恥をかいているんだ!
嫌気がさした俺は、中学くらいから勉強もせずにダチの家に入り浸った。
ダチの母ちゃんは怖かったけど、俺の話はいつも黙って最後まで聞いてくれた。
「アンタさ、本当は勉強好きなんでしょ?大学でも行けば?」
俺が高校生になった頃には、ダチの母ちゃんが大学進学を勧めてくれた。
大したことない高校に進学して、どうせ専門学校に行くことになろうと思っていた時だった。
でも。
「本当は勉強好きなんでしょ」。
この言葉が頭から離れなかった。
俺は昔から、虫を観察するのが好きだった。
名前もいっぱい覚えていたし、すごく上手く絵を描いて学校の先生に褒められたし、俺が夏休みに毎日つけたセミの観察記録は小学校の理科コンテストで入賞。
虫が世界に及ぼす影響を調べて研究していた。
虫から見える世界は、死生観を教えてくれているような気がした。
俺は大学の農学部への進学をしたかった。
日本の未来を「虫」から導きたかった。
俺は高校2年生の春、5年ぶりに真面目にあいつと話をした。
「⚪︎⚪︎大学農学部へ行きたい。だから、⚪︎⚪︎塾へ行かせてほしい」
当時の俺は甘かった。
真剣に言えば伝わると思っていた。
バカには何を言っても伝わるわけなどないのに!
「はぁ?!農学部?あんた百姓にでもなるの?」
あいつは高笑いをして、「大学に行くのは良いけど、就職しやすい経済学部とかにすれば?」と進学先を指定してきた。
もちろん、俺が受かるはずのない難関大学ばかり!
なのに塾には「お金がないから行かせられません」ときた!
てめーがいつも料理しないで買ってきている惣菜はいくらだ?!
毎日毎日ボリボリ食っているお菓子の山はいくらだ?!
通いもしなかったフィットネスクラブの入会金と月額料金は?
3日も経たずに辞めたダイエット食品はいくらだ?!
「トドが着れる服はなかなかない」と言っては、山ほど買っている洋服はいくらだ?!
お前がバカみたいに使っているから金がないのだ!!!
結局俺は、大学に落ちに落ちて、合格したのはFラン大。
「Fランの学費は出せない」と両親から言われたが、俺も意地になって奨学金をもらって進学した。
新卒で入社したところはさっき言ったようにブラック企業。
すぐにでも辞めたかったが、奨学金のせいで辞められなかった。
バカ女のせいで、バカ女のせいで、バカ女のせいで…!
「ピロン」
ツミッタのイイネの通知音がなって我に返る。
(でも俺はこうやってアフィリエイターとして成功して、奨学金も全部返せたじゃないか)
俺は深く深呼吸をして自分を落ち着かせる。
あいつのことは忘れようと決めていたのに。
俺は気を取り直して、サイトのリニューアルとサロンメンバーの募集を告知した。
ギフいんふぉ@giftedinformation_for_gifmom 12:25 2023/04/30
「ギフテッド育児に励む皆様に、少しでもお役に立ちたいと思い、サロンを立ち上げます。
月額3万円でギフテッド情報を読み放題(今後サイトのギフテッド情報は有料化いたします)。
ギフテッド専門家の相談コーナーも開設予定です!ぜひお申し込みください」
アクセス数が膨大になってきて、知名度も上がってきたため、アフィリエイトでちまちまと稼ぐのは効率が悪い。
これからはサロンを運営して月額でむしり取ることにした。
相談コーナーは作るが、もちろんギフテッド専門家など知らない。
掲示板のように、ギフママ同士で相談と回答をしてもらう仕組みにする予定だ。
あいつらに正確な情報などいらない。
「安心」と「居場所」だ。
俺は早くもギフママから届いた問い合わせに答えていく。
右往左往としながらも、美味しそうなものが見つかると列をなして群がるバカ女。
(蟻の観察みたいだ)
俺は踏めばすぐ潰れるようなささやかな希望にすがりつく蟻を画面越しに眺めている。
ギフママ! ーギフテッドと揄怪な大人たちー ハナズオウ 真希 @Hanazuoh_Maki
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