大魔王と勇者の戦いが今、始まらない!?

青樹空良

大魔王と勇者の戦いが今、始まらない!?

「この扉を開けたら大魔王がいるんだね」

「とうとうここまで来たんです。行きましょう、勇者様」

「あ、ああ」


 俺はゴクリと唾を飲み込む。

 目の前にあるのは、まさにこの先に大魔王がいるにふさわしい重々しい扉だ。禍々しい装飾も施されている。

 俺の左右にいて声を掛けているのは、これまで一緒に旅をしてきた魔法使いと僧侶だ。ちなみに二人とも女の子で結構可愛い。魔法使いはちょっと気が強くて、僧侶は大人しいタイプなのも、それぞれの違いがまたいい。


「どうしたんだ? 勇者。ここまで来て怖くなったか?」


 魔法使いが俺の脇腹を肱で小突く。


「こら、やめろ。そんなわけないだろ」

「そうか~? 怪しいな」


 にひひと魔法使いが笑う。俺はそういうことじゃないのにと思いながら魔法使いを見る。そして、思わずその太ももに目を落としてしまう。魔法使いと言ったらゆったりとした黒いローブに身を包んでいるものだと思うのだが、こいつは黒いミニスカにニーソなんて履いていやがる。絶対領域が眩しい、などと思っていたら今度は僧侶が口を挟んできた。


「わ、私もちょっと怖いですっ! 勇者様もそうなんですね」

「そ、そんなわけ無いだろ」

「そうですよねっ。勇者様に限ってそんなことあるわけ無いですよね。ご、ごめんなさいっ」


 僧侶が俺に向かってぺこんと頭を下げる。あわあわしている僧侶は魔法使いと違って、全く露出のない白い法衣を着ている。ただ、服の上からでもその豊満さが全く隠し切れていないのがけしからんのだが。

 しかし、どうしたものか……。俺は少し悩んだあげく、腹を押さえた。


「すまんっ! 急に腹が痛くて! 俺ちょっとトイレ行ってくる! 大魔王の部屋、先入ってて!」

「え!? 先に!? 私たちだけで、か?」

「そ、そんな。待ってください勇者様ー!」


 俺はしゅばっと踵を返しダッシュした。




 ◇ ◇ ◇




「大魔王様。お帰りなさいませ。お腹の調子は大丈夫でございますか?」

「うむ」


 側近の女魔族に迎えられて、私は威厳たっぷりに頷く。大魔王が腹痛とかちょっと情けないが、他に上手い言い訳が思い付かなかったのだから仕方ない。


「勇者一行はすでにこの部屋の目前まで迫っているようです」


 側近が生真面目な様子で眼鏡の位置を直しながら言う。私はちらりと横目で側近を見る。一見スレンダーに見えるが、絶対に着やせするタイプだ。脱いだところは見たこと無いが、多分脱いだらすごい。しかも背は高めで、いかにも出来る女といった雰囲気だ。

 彼女のような側近がいてくれて大魔王やってて良かったと思う。


「どうされました? 大魔王様」

「あ、いや」


 見ていたのは気付かれていなかったらしい。私は一度咳払いして、告げた。


「もう扉の前まで来ているかもしれん。開けて差し上げろ」

「よろしいのですか」

「うむ」

「さすが大魔王様。ただ待つのではなく、こちらから姿をお見せになるとは、わたくし感服致します。扉を開けよ!」


 側近が扉の周りにいる魔族に命じる。

 扉が重々しく開く。


「あ、え!? 扉が!」

「ちょ、ちょっと待ってください! まだ勇者様がー!」


 扉が開いた先には、慌てふためく人間二人の姿がある。魔法使いと僧侶だ。


「ふははははは、人間風情がここまで来たことを褒めてやろう」


 私が声を掛けると、魔法使いが逃げるわけにはいかないと思ったのかこちらをキッと睨み付けてくる。


「だ、大魔王! お前を倒しに来た!」

「うう、勇者様早く帰ってきてください~」


 僧侶は魔法使いの後ろでおろおろしている。


「勇者の野郎、どこ行ったんだ一体!」

「勇者様ぁ~」

「お前達、やってしまえ」


 勇者不在でうろたえまくっている二人に向かって、側近は容赦なく控えている魔族に襲いかかるよう命令を下す。ちなみに大魔王の部屋に控えているような魔族だからそれなりに強い。


「え、これ私たちだけでいけるの?」

「早く帰ってきてください、勇者様ぁ~」


 二人の女の子が恐怖の余り、へたり込みそうになっている。そういう姿もそそらないでもないが……。


「早く帰ってきてくれよ。勇者ぁ……」


 これまで強気な様子だった魔法使いまでが、突然涙目になっているように見える。これは……。


「あー、急な用事を思い出した。少し席を外すぞ」

「なっ、大魔王様!? 一体どちらへ!?」

「すぐ戻る」




 ◇ ◇ ◇




「待たせたな!」


 俺は魔法使いと僧侶の後ろから姿を現した。そして、二人が受けそうになっていた攻撃を伝説の剣で防ぐ。

 ふう、間に合って良かった。二人は一緒に旅をしてきた大事な仲間だ。傷付くところを見るのは辛い。


「ちぃ!」


 魔族が飛び退く。


「勇者!」

「勇者様!」


 二人は泣きそうな顔で俺を見た。そして、安心したように笑った。


「バカ! おせーよ! 何してたんだ全く!」

「あうあう。帰ってきてくれて嬉しいです!」


 二人に全く違う反応をされるが、どちらも俺のことを心から待っていてくれたのだと俺は知っている。素直に伝えてくれる僧侶も、口では強がりばかり言っている魔法使いも、本当に俺のことを頼りにしてくれているのだと俺は知っている。それはすごく嬉しい。だから、守りたくなる。

 けど、正直胸が痛い。

 二人の視線を振り切るように俺はずいっと前に出る。


「大魔王はどこだ! 倒しに来てやったぞ!」

「勇者……」

「勇者様がいるとやっぱり心強いです」


 二人の声が背中越しに聞こえる。


「大魔王様は席を外しておられる!」


 大魔王の側近が叫ぶ。


「怖じ気づいたか!」

「何を言う! 大魔王様を侮辱するのは許さんぞ! 大魔王様がいらしたら人間など一捻りだ!」


 そうでもないけど、と思ったのは内緒だ。


「なんだと! うちの勇者が大魔王なんかに負けるわけないだろ!」

「そ、そうです! 勇者様が来たからには私たちの勝利です!」


 大魔王の側近と魔法使いと僧侶が、バチバチと視線で火花を散らしている。


「さっさと大魔王を出せ! どうせびびって逃げたんだろ!」

「な、何を!? 大魔王様が人間ごときを恐れるわけがないではないか! この虫けらが!」

「ああん!?」


 俺が口を挟む隙も無い。

 とはいえ、俺も棒立ちで見ているわけではなく、魔族の攻撃を防ぎつつじりじりと押しているところなのだが。

 本気を出せば、もっと押せるっちゃ押せるのだが……。


「ああ、大魔王様さえ帰ってきてくださったら。大魔王様、こんな大事なときに一体どこへ……」


 大魔王の側近が焦った様子で少し情けない声を出している。クールな女性が困った顔をしているのもなかなか悪くない。もう少し見ていたいと思うのは趣味が悪いだろうか。

 だが、このままでは……。


「すまんっ! えーと、あれだ。滅魔の腕輪忘れた! ちょっと取ってくる!」

「え!? 勇者様!?」

「はぁ!? それって大魔王を倒すのに必要だって苦労して取りに行ったやつだろ!? 忘れるか、普通! どこに置いてきたんだよ!?」

「あーーーーーーーー。とにかくよろしくっ!」


 俺は戦いに背を向けてダッシュする。

 そして、誰も見ている人がいなくなったと思った瞬間に、俺は勇者から別の姿へと形を変える。

 その姿は……、大魔王だ。

 大魔王が慌てて走っている姿なんて見せられない。城中の者が勇者にかまけているいまだからこそ出来る強硬手段だ。


「うわ、やべ。急げ急げー! って、口調。うむ、急がねばな」


 正直一人二役は疲れる。

 そう、同一人物なのだ。勇者と、大魔王は。

 あと、本当は勇者の時みたいに砕けた口調の方がしゃべりやすい!

 俺は深呼吸をして、今度は勇者の時のように慌ててではなく、大魔王らしく静かに姿を現した。息、本当は切れそうだけど。我慢だ我慢。

 って!

 帰ってきたと思ったら、今まさに魔法使いが側近に向かって大魔法を放とうとしている!? あれは旅をしながら修行を重ねて魔法使いが完成させたという伝説の! さすがに側近でもあれは危ない!

 さっき勇者として見ていたとき側近があんまり困り顔をしているから、かっこよく助けに入ったら俺の株が爆上がりしたりして、なんて思ってしまったのだが。

 かっこいいとこ見せるとか見せないとか、株が上がるとか下がるとかそういう状態じゃない!

 気付いたら俺は側近の前に飛び出していた。


「だ、大魔王様!?」


 俺は防御結界を張って大魔法を防ぎながら、側近を抱きかかえていた。どんな魔法かあらかじめ知ってて良かった。一緒に旅をして修行しているところを隣で見ていたお陰だ。でなければ、さすがにあれを咄嗟に防ぐことは難しかったに違いない。


「あ、あの、大魔王様……」


 側近がきゅっと身体を縮めながら俺の腕に収まっている。心なしか声が震えているような気がする。さっきの大魔法はさすがに側近でも怖かったに違いない。


「間に合って良かった」

「は、はい。ありがとうございます。大魔王様」


 心なしか顔も上気している。


「大丈夫か?」

「ああ、大魔王様! 帰って来てくださって嬉しいです」

「うむ」

「今の魔法が効かないだと? つーか、お前! 大魔王! さっきからちょろちょろと! 本当に戦う気あんのかよ! しかもなんだ、いちゃつきやがって!」

「ちょ、ちょっと、勇者様がいないのに、そんな挑発しちゃ……」

「い、いちゃ……。そんな。私が大魔王様と……」

「ああ、すまん」


 なんだか取り乱している様子の側近を俺はそっと下ろす。

 側近はいそいそと乱れた髪を整えてから、魔法使いを睨み付ける。


「勇者こそ姿を消してばかりで戦う気など無いではないか! 大魔王様。今、また勇者めは席を外しておりまして。全く、ふざけた奴でございます」

「そ、そうか。ふはははは、情けない勇者なのだな」


 セリフだと割り切っていても、自分で言ってて悲しい。


「つか、おかしくね? なんでさっきから大魔王と勇者の二人が揃わないんだよ」


 ぎくっ!

 背中に冷や汗が伝う。

 バレた?


「タイミングが悪いんですね。そういう時、あります」

「そのようだな」


 僧侶グッジョブ。上手いこと言ってくれたと、思わず深く頷いてしまう。


「大魔王様?」

「あ、いや。本当にその通りだと思ってな」

「つか、それにしても。勇者のヤツ、どこまで取りに行ってるんだよ!?」


 イライラした様子で、魔法使いが呟いている。あ、これ。本気で怒ってるやつだ。戻らないとまずい。


「少し席を外す。後は任せたぞ」

「え、大魔王様? 今日は一体どうなされたのですか。あ、あの」

「すまん」


 そう言って、再びダッシュ。

 急げ、急げ!




 ◇ ◇ ◇




「待たせたな! 滅魔の腕輪、取ってきたぞ!」

「は?」

「え?」

「!!?」


 勇者として再び姿を現した俺に、なんだか視線が冷たく刺さった。側近まで俺のことを驚いた様子で見ている。

 一体、何が……。


「……、あ」


 なんだか嫌な予感がして、視線を下に落として自分の姿を見る。

 ……やっぱり。

 勇者として現れたはずの俺は、大魔王の姿をしていた。しかも、しっかりと滅魔の腕輪を掲げながら。ちなみにこれ、滅魔とかすごそうな名前がついているが、大魔王と同時に勇者でもある俺には正直なんの効き目もない。

 で、慌てすぎて姿を変えるの、忘れた。しかも今、大魔王の姿で勇者の声を出してしまった。


「え、えーと、これは、その……」


 沈黙。


「大魔王様、どうしてそちらに?」


 最初に口を開いたのは側近だった。


「貴様! まさか勇者に化けようとして!? そんな小細工で私たちが騙されるわけ無いだろう!」


 今度は魔法使いだ。丁度いい。


「それもそうだな。ふふふ、私としたことが」


 謎に威厳を保って、誤魔化させてもらうことにしよう。と、思ったのだが。


「で、でも、なんだか変じゃないですか? さっきから本当に大魔王と勇者様が一緒にいるところを全く見ません。もしかして、同一人物とか? それで一緒には出てこられないんじゃないですか……? そういうの、物語で読んだことあります。あ、えっと、違ってるかもしれませんが。そんなこと、現実であるわけないですよねっ」


 僧侶は普段ぼんやりしているくせに変なところで鋭い。

 が、こんなところでそんな能力発揮して欲しくなかった!


「え、まさか、本当に勇者か? でも、さっきの声といい話し方といい、確かに……」

「ちょっと、失礼しますね」


 僧侶がすたすたと俺の方へとやってくる。そして、


「こ、こら何をするつもりだ」


 犬みたいにくんくんと僧侶が俺の匂いを嗅ぎ始めた。


「え、ちょ……、近い」


 今は大魔王であることも忘れて、俺は情けない声を出してしまう。くすぐったい。あと、なんかむずむずする。可愛い女の子にここまで接近されると困るんですけど。


「間違いありません。勇者様の匂いです」

「「「は?」」」


 俺と魔法使いと側近、三人の声が重なった。


「この人、勇者様です」


 きっぱりと僧侶が言う。


「大魔王が、勇者? え、というかどうして匂いでわかるんだ? ちょ、お前らまさかそういう関係……! わわわ、私に内緒で。い、いつの間にそんなことになってるんだ!?」

「へ? なんのことです?」

「大魔王様、ちょっと失礼致します。わたくしも!」

「いやー!」


 何故か側近まで俺の匂いを嗅ぎ始める。

 僧侶はきょとんとした後ににっこり笑って言った。


「ほら、お洗濯するときに勇者様の匂いっていい匂いだなと思って嗅いでたんですよ~」

「あ、そういう……。って、洗濯するときに何嗅いでんだよ!」


 嗅がれてたの? 俺。それはそれで興奮しないでもないが。

 というか、今なんか側近が思いっ切り俺のことくんかくんかしてるんですけど。

 だから、近い! 嬉しいけど……。

 あ……、やめてっ!


「……! これは!」


 側近がカッと目を見開く。

 まさか、側近までわかるとかいうんじゃないだろうな。


「これは、大魔王様の匂いですね」

「お前もわかるんかい!」


 思わずツッコむ。


「当たり前です。いつも大魔王様の後ろに控えているのですよ。お側に控えていながら大魔王様の匂いがわからないわけがないじゃないですか」

「そんなもん!?」

「大魔王様、これはどういうことなのです?」

「そ、そうです。勇者様!」

「お前、本当に勇者なのか!? 匂いでわかるってのがちょっともやもやするが……。とりあえず説明しろよ!」


 三人がずいずいと迫ってくる。


「これは、その……」


 自分のうっかりもあったとしても、まさか匂いでバレるとは思わなかった! 二人とも何? 犬かなんかなの!?


「せ、説明する!」


 三人がずいずいと迫ってくる。

 正直、女の子には弱い。むしろそうでなければ、こんなことにはなっていないのだから!


「まあ、こういうことだ……」


 俺は話し始めた。

 元々大魔王だった俺は、人間に化けてふらりと人間の町へと出掛けた。どうしてかって? それはずっと大魔王城にいるのが退屈だったからだ。その時は今ほど魔族と人間の戦いは激化していなかったし、敵対はしているものの中立を保っている感じだった。

 その時にたまたま勝手に人間を襲っていた魔族から、人間を助けてしまった。それがこの魔法使いと僧侶だ。(理由は二人が可愛かったからなのだが、これは口には出さないでおく)

 で、魔族を悠々と追い払った俺に二人は感謝し、町の外れの石に刺さっていたボロい剣を抜けとか言ってきた。それくらいならお安い御用と抜いてしまったら、それが伝説の勇者にしか抜けない剣だとかで、あれよあれよと人間側の勇者に祭り上げられて、大魔王を倒す旅に出ることになってしまったのだ。

 最初に断ればよかったのだが、人々に期待の目で見られるとどうにも断ることが出来なくなってしまって結局ここまで来てしまったわけだ。(勇者が現れたことで人間側が大魔王を倒すのが可能だと思われるようになり、魔族と人間の戦闘が激化したらしいが、これも言ったら怒られそうなので今は黙っておく)

 もちろん、大魔王業務はこなしつつ外出中に旅を続けていたので魔界にも迷惑は掛けていないと思うのだが。


「なんですか、それは……」


 ここまで話したところで側近がため息を吐く。


「大魔王様とあろうお方が一体何をしていらっしゃるんですか」

「い、いやあ、それは……」


 ここで、実は魔法使いと僧侶がお供についてきてくれるなんて言うもんだから、この二人と旅をすることが出来ると言われてちょっと嬉しくなったとか言えない。

 むっつりといつもはクールな側近が頬を膨らませている。こういうギャップもいい。逆に魔法使いと僧侶のいる人間側に寝返ってもよかったのだが、側近と会えなくなるのも嫌だったのでそれも出来なかったのだ。だって、こんなに美人でギャップ萌えで可愛いんだよ!?


「勇者様、私たちをずっと騙していたんですね」

「今は大魔王の姿だけどな。つか、本当に勇者か、お前」

「あ、はい」


 瞬時に俺は勇者へと姿を変えて見せる。


「うわっ、本当に勇者だ」

「大魔王様! そのような姿になるのはおやめください! 人間の姿など穢らわしい」

「はぁ!? 勇者はこっちの方がかっこいいに決まってるだろ。大魔王だかなんだか知らないけどな、私にとってこいつは勇者なんだよ!」

「え、かっこいい。……え?」

「はっ! 今のは忘れろ!」


 思わず口に出してしまった俺に、魔法使いが顔を真っ赤にして拳を振り上げてくる。ちょっと待って、可愛いんですけど。


「大魔王様は大魔王様の姿が一番です。早く元の姿に戻ってください」


 ゴゴゴゴゴ、とか効果音が付きそうなレベルで側近の圧がすごい。

 どうすればいいの、とか思っていると、


「ええと、私はどっちも素敵だと思いますけど。大魔王も勇者様だと思ったら、その……、素敵に見えてきました」


 僧侶がもじもじしながら言った。

 側近と魔法使いが固まる。


「やっぱり、お前も勇者のこと好きだったのか!?」

「あ、あの、やっぱりって、あなたも勇者様のことが? そんなこと一言も言ってなかったじゃないですか」

「い、いや、私は」

「ちょっと待ってください。なんの話をしているんですか? 大魔王様は人間とそんな関係になったりしませんよね?」

「え、えーーーーーと?」


 気付けば俺は三人の女性から詰め寄られていた。


「勇者!」

「勇者様!」

「大魔王様!」


 で、いつの間にか勇者と大魔王の戦いではなく別の戦いが始まっているのだった。


「なに鼻の下伸ばしてんだよ!」

「不潔です!」

「早くいつもの素敵な大魔王様に戻ってください!」

「え、いやあ、あはは。困っちゃうな」


 うん。でも、こんな戦いなら悪くないかも。

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