第6話 再会のエステル
「なーんてね、嘘よ。私だってそんな勝手なことはしません」
「なんのお話しを?あらエステル様!?」
「ねぇ、アリシア、腐り度合いはどうなの?
また被害者が増えていく感じかしら?」
アリシアは苦笑いで誤魔化す。
そして咳払いしてから続ける。
「お嬢様の部屋の向かいが一番まともな状態でした。」
「ええ、ならそこの用意を頼むわ」
「良かったわねえ、美形のお兄さん?うちの麗しの聖女様の向かいの部屋ですって」
エステルの悪ノリが始まる。
ロレンツォ様がいたたまれない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ってことでお兄さんの荷物運び手伝うわよ!ていうかよくこんな大きい荷物持ってこれるわね」
呆れ顔でロレンツォ様の持って来た大量の荷物をエステルは運び出す。
ノリがいいエステルだが、荷物運びはとても慎重でとても丁寧だ。
「エステル嬢、女性に運ばせるわけには…」
「だってお兄さんだけじゃあこの量の荷物、日が暮れるわよ」
「すまないな…今度何かお礼をさせてくれ」
エステルは少し考えてから続ける。
「なら、ソフィアといい関係になったら二人の結婚式に招待して貰おうかしら」
「なんてことを…」
みるみるうちにロレンツォ様の顔から耳にかけてが紅潮して行く。
こんなに話しながらも手が止まらないエステルは純粋にすごいと思う。
私は不器用な方なので黙って運ぶしかないのに。
まあ二人のやりとりが面白いので聞きながら仕事をしていれば飽きないが。
一時間後、漸く運び終えた荷物を前に、私たちは座り込む。
「じゃあお兄さんとソフィアの関係を祝ってお茶会よ!」
一人だけ体力の有り余っていそうなエステルがそう宣言する。
「アリシアをこき使うのは可哀想だから…他の使用人に頼みましょ!」
「そうね、今日は天気もいいし庭園でお茶会したら楽しそうね」
✳︎ ✳︎ ✳︎
アリシアとロレンツォ様も交え、楽しく談笑しながらお茶会が始まった。
エリゼは呼んでも来なかったので4人でのお茶会だ。
「やっぱりソフィア城は居心地が最高よね、居候したいわ。お兄様が文句を言うだろうけれど」
「兄上がいらっしゃるのか、俺も同じです」
今気づいたことだが、ロレンツォ様はエステルには敬語を使っているのか。
「本当?うちのお兄様ったら心配症でね。私25なのに悪い男がどうのこうのとかで去年のダンスパーティに行かせてもらえなかったのよ」
「あの時は残念だったわね、今年は一緒に行きたいわ」
はぁ…とため息を吐いてからエステルが続ける。
「そう言えばソフィア、そろそろ誕生日よね。23歳だっけ?そのために会いに来たのよ」
そう言ってドレスの袖から小さな包みを取り出し、私に手渡してくれた。
「おめでとう、はい、これプレゼントよ」
「ありがとう、開けていいかしら」
「もちろん、見てみて」
開けてみると、瀟洒な、カメオの周りにダイヤの嵌め込まれた小さなブローチが入っていた。
私が昔、ブローチを集めていると言ったのを覚えてくれていたのだろうか。
「ありがとう、こんな高価そうなもの本当にいいのかしら」
「まぁ、少し高かったけれど喜ぶ顔が見れて嬉しいわ」
そして紅茶を一口飲んでから続けた。
「もうソフィアも23か…婚期を逃さないうちに結婚しといた方がいいわ、お姉さんからの忠告よ」
先程からずっと話し続けているエステルは疲れないのだろうか。
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