第20話 エルーナが脱獄したらしい
馬車を降りようとした時、私は激しい振動を感じた。
何事かと思って外を見ると、ローブを着た妙な既視感のある金髪の少女が
「大丈夫?」
彼女はエルーナかもしれないと思ったが、とりあえず具合が悪そうなので声をかける。
それに今は獄中にいるはずのエルーナがここにいる時点でおかしい。
馬車の側に倒れている、ということはぶつかって転んだりでもしたのだろう。
馬車を降りて彼女に声をかけに行く。
「えっと、お怪我は無いかしら?」
だが、彼女は私の姿を確認すると着ていたローブのフードを被って逃げるように走り去っていった。
その後ろを数人の騎士が追いかけていく。
「先輩!罪人が脱獄したようです!!」
「金髪の女の子だった、よね。あの雰囲気からするにエルなんとかみたいな名前だった気がする。それにしても逃げ足速くない!?」
目の前をエミリアノ様らしき騎士が後輩騎士と話しながら追いかけていく。
その姿に気がついたロレンツォ様がエミリアノ様に何があったのかと聞きに行く。
「罪人が脱獄した。確かソフィアちゃんの妹、だったかな」
正直なところ、あんなものは妹として見られたくなかったがここで反論すれば聞き分けの悪い子供のようでこちらが恥ずかしい。
やめた。
ところでエルーナには脱獄後のツテでもあるのだろうか。
無ければせっかく脱獄したのに野垂れ死に、という残念な結末になりそうだが。
いくら嫌いとはいえ一応元姉として可哀想だとは思う。
そこへ一人話に置いて行かれているアンリが口を開く。
「エルーナって名前だけは聞いたことあるけどさ……一体なんの話をしてんの?」
「大人の事情さ」
「あの、先輩……お取り込み中に申し訳ありませんが早く追いかけなければ」
そこへ渋い顔の後輩騎士が言う。
エルーナのやつめ……ここでも迷惑をかけるのね、と私は思う。
「あの、それなら私にも協力させていただけません?一応、妹でしたし……」
せめて、いくら嫌いな妹でも尻拭いはしておかないと周りだけに迷惑をかけてしまうことになる。それだけは避けたい。
「ソフィア嬢、相手はその……強い殺意を持っている可能性が」
「でしょうね。私のせいで獄中にいたのだから。私一人で追えるはずはない、皆さん協力して下さる?」
私の問いに、周りは全員承諾してくれた。のだが……
(あと何故かアンリの裁判はしれっと消滅してないかしら……)
先程の流れから何故こうなったのかを知りたい。脱獄した罪人を追いかける時はもう少し深刻な状況なのでは、と思った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
ことの始まりは数分前に遡る。
何らかの方法により脱獄したエルーナを追うために、5人で2人組と3人組でエルーナを追うことにしたのだが何故か人員の方で揉め始めたのだ。
そこまでは良かったのだが……
「ソフィアちゃんは俺が貰っていくね」
「いや、兄貴に渡す訳にはいかない。ソフィア嬢は俺が貰って行く」
そこまで聖女の力は必要なのか、と私は感心する。
「ならお二人と私、アンリと……騎士さん?で……」
「絶対ムリだって!初対面の騎士と二人きりとかお互い気まずいし」
「そうです!!それに、私にとって男臭い騎士団の中だと滅多に会うことの出来ない女性と関わる機会ですから!」
もしかしなくても、これは私がいない方が楽だった案件かもしれない。
もう仕方ないが。
「一つ、いいかしら。今から
私の意見に全員が賛成する。
「アリシア、神とペンをちょうだい」
「ええ、こちらです。ところで私、気分が優れなくなってしまいましたわ」
「大丈夫?一旦帰った方がいいんじゃない?」
「いいえ、馬車で一人で休ませていただければ大丈夫だと思います」
アリシアは心配だが、『一人』というところを強調していたということは一人になりたいのだろう。
作り終えたくじを一斉に引く。
そこで私は重大なミスを犯した事に気づいた。
「あれ?一枚足りない……?
1、2、3、4……私引き忘れたかしら?」
アンリと後輩騎士、エミリアノ様が
そしてロレンツォ様が
「なら私は
返事の代わりに3人のじとっとした視線がロレンツォ様の方に向く。
見なかった事にしておこう。
「聖女の力はエルーナ追跡に役に立たない可能性だってあるわ?だからとりあえず追跡を開始しません?」
いよいよエルーナ追跡開始だ。
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