第二章 最果てのかの地へ
第11話 道中、変人現る
三日後、私たちは準備を終え屋敷を後にした。
同行者はロレンツォ様、アリシア、エステル、と何故かエステルの兄であるシルヴェスターだ。
案の定馬車の中は狭くなった。
「お兄様は来なくていいって言ったじゃない…あーあ、馬車狭くなっちゃったわよ…」
「乗れりゃあ大丈夫だ、馬車なんて元々乗り心地悪いもんだかんな」
「迷惑!!ソフィアたちのこと考えなさいよもう…まったく!みんなごめんね…」
結局仲が良い二人の会話は見ていて楽しい。
「ソフィアに迷惑かけてたんだろ?ったく、うちのバカテルがすまんな」
「こちらこそよ。エステルには色々助けてもらっていますもの」
そんなやりとりの中、アリシアが窓を開けて景色を眺めていると、一枚の紙が飛んできた。
アリシアはそれを拾い上げると、嬉々とした様子で読み始める。
恐らくその“薔薇本”なのだろう。
「エステル様、アンベール先生の作品かもしれません!」
「良かったじゃない、ていうか私に言われても困るわよ」
ガタン、という音と共に馬車が急に止まった。
暫くすると、御者が降りてきて事情を説明し始めた。
どうやら四頭いる馬が全て急に体調を崩して動かなくなったらしい。
「仕方ないわね…村まで魔物を倒しながら行くわよ」
一応ここもリヒトヒルズの一部だ。
歩けない距離ではない。
十日ほどはかかるが。
途方に暮れていると、ボロボロの男性が声をかけてきた。
賊だろうか。
「お嬢さん、この辺に原稿用紙は落ちていませんでしたか?僕の大事な作品が魔物のせいで飛んでいってしまったんです」
「この紙ではないかしら、アリシア、紙を」
アリシアに先ほどの紙を渡してもらおうとすると、彼女は興奮した様子で取り出した。
「この文体からするともしかしてですが、アンベール先生では…!!こちらでございます!」
「間違いない、僕のだ。もしかしてだけど…君は僕の作品のファンですか?」
「ご本人様ですね!?恐縮でございます!」
「美しい。僕の作品を愛する者は全て、ね。
君は人間の真の美しさを知っている」
なんか、もう二人の世界が完成している。
「僕が薔薇本を創る理由は知っていますか?
それは…ね、人間の真の美しさ、自由を描くためですよ…」
痛い人が一人増えた。いや、耽美主義とでも言えばいいのだろうか。
「あの、すみません、俺たちは魔物を倒しにきたので失礼します」
「魔物…僕の大事な原稿を飛ばした魔物を懲らしめてやらないと、僕にも手伝わせてくださいませんか」
すると、シルヴェスターが横から出てきて口を開いた。
「お、いいじゃん!仲間は多い方が楽しくなっからな、騎士サン、いいよな?」
「俺に聞くな。多分いいとは思うが」
シルヴェスターの視線がこちらに向く。
何やら嫌な予感が、的中した。
「ソフィア聖女、いいっすかね」
「いいと思うわ、それとその呼び方はやめてちょうだい」
何故かボロボロさんが手を握ってきた。
そして私を真っ直ぐに見つめて言う。
「優しいお方だ、これぞ心の美ですね」
顔だけは無駄に良いのに曲者だ。
その後ボロボロさんから話を聞くと、彼はこの世の美を見つけるために世界を転々としており、故郷であるこの地へ戻ってきたところを魔物の襲撃に遭い、書き上げた薔薇本の原稿を飛ばされてしまったのだと言う。
とりあえず美に固執する人だというのはよく分かった。
そしてアリシア曰く彼は薔薇本界の頂点に立つ方だというのも。
変人で間違いないだろう。
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