第10話 旅立つ前の志
朝食の後、私は準備も含めて三日後にリヒトヒルズに発つという旨をロレンツォ様に伝えに行くことにした。
昨日のことも謝りたい。
「アリシア、素直になるってどうしたらいいのかしら…」
「素直に…ですね…手紙などを使っては如何でしょう?相手を思いやる心があればその時点でもう素直に近いところにいるなではないでしょうか…少し違うかしら」
「そう…参考にさせてもらうわ、ありがとう」
相手の都合もあるので早めに伝えに行かなければならない。
私の部屋と彼の部屋は向かいにあって、近いはずなのに私の緊張でとても遠いもののように感じる。
謝罪に関しては、私の性格上思っていることとは真逆の傲慢なことを言ってしまいそうなので、アリシアの助言どおり手紙で主に伝えることにしよう。
私は書く内容を考え、引き出しからペンとインクと便箋を取り出す。
私は普段、面倒くさいので手紙のやりとりはあまりしなかった。
この緊張は、普段しないことをするということからなのか、はたまた率直な思いを伝えることについてなのかは分からない。
一通り書くことを決めてから私はペンをインクに浸す。
『ロレンツォ様
拝啓
若葉も芽吹き始め、緑を感じる季節となりました。ロレンツォ様もいかがお過ごしのことかと案じております。
この度はご無礼な態度をとってしまい、誠に申し訳ございませんでした。
並びに、助けて頂き誠に有難う御座います。
今からはだんだんと暑くなっていきます。どうかご自愛くださいませ。
ソフィア・アンガーミュラー』
「こんな感じでいいかしら」
書いた手紙を、封をする前にアリシアに確認してもらうと、微妙な反応が返ってきた。
「誠に申し上げにくいのですが…ニュアンスが若干違う気がしますわ。お嬢様が何をなさったのかは存じませんが、ロレンツォ様ならカジュアルに仰った方が伝わると思います」
昔習った東方の手紙の書き方ではいけないのか。
心得た。
書き直しだ。
『変な対応をしてしまい、昨晩は申し訳ございませんでした。
引き続き護衛の件もよろしくお願い致します。
ソフィア・アンガーミュラー』
「いいと思います。ロウを溶かす作業はお気をつけください」
「大丈夫、これで完成ね。助かったわ。…
封をする作業で、ロウを溶かすときに数カ所火傷跡を拵えたがなんとか綺麗に完成させた。
あとは同行してもらうことを頼み、謝って手紙を渡すだけだ。
私としてはここが一番緊張するが。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ロレンツォ様、いらっしゃって?」
「勝手に入っていいよ」
(いつにも増して無愛想…嫌われているのかもしれない…)
「失礼するわ」
入ると、彼は机の上に薬草を広げていた。
昔読んだ本によると、広げられているものは全て体の回復を促すような物だった。
近くの小瓶には手作り風の軟膏のようなものや、飲み薬のようなものが入っている。
「あの…昨夜は悪かったわね…書き直したりして頑張ったんだから…受け取りなさい。
それと、三日後くらいにリヒトヒルズに行く予定よ。護衛、よろしくお願いします…」
「左手を出せ」
彼は手紙を一瞬見たあと、そう言った。
私は何をされるのだろうか。
彼は軟膏入りの小瓶を一つ手に取ると、先ほどの火傷の跡に慣れない手つきでこれでもかというほど慎重に優しく塗ってきた。
「こ、これくらい平気わよ!」
変な語尾がついてしまった。
「暴れるな。傷を刺激すると痛む」
「軟膏がもったいないのよ、私の不注意なんだから気にしてくれなくても結構だわ」
せっかく彼が時間を割いて作った軟膏が勿体無い。
これくらいの傷は日常茶飯事だ。
「手紙の封蝋で火傷したのならそういう訳にもいかないんだ、これでも自分で手当してきたから慣れているはずだ、安心して任せろ」
なんか、いつも私が負かされている気がしてならない。
コイツめ。
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