エルデブルクの燈姫〜ツンデレ聖女の波乱なるモテ期到来物語〜

七々扇茅江

第一章 殺されかけた、その先に

第1話 聖女の力の再発現

事の発端は遡ること、数時間前だった。


『お姉様とこうしてお話しするの、お久しぶりですよね。お姉様もお忙しいのにありがとうございます』


犯行の数分前、穏やかな愛らしい笑みで、私の妹のエルーナは言った。



彼女はお父様の妾の娘だが、幼い頃から私はエルーナを可愛がっており、エルーナが生まれてから今まで実の姉妹のように育ってきた。


『今日はなお茶を用意させていただいたんです。冷めないうちにお飲み下さい』


『馬鹿なお姉様、本当に飲んだのね。』


そこで私の意識は途切れた。


✳︎ ✳︎ ✳︎


そして今につながる。


私はメイドのアリシアに持って来てもらったとてつもなく不味い解毒剤を飲みながら怒りに震えているのだった。


「お嬢様、お身体の方は…」

「ええ大丈夫よ。それ以前に解毒剤が…」

「しっかりとお飲み下さいね?文句は受け付けておりませんので」


アリシアが不敵な笑みを浮かべて言う。


「分かったわよ…」


私が苦笑しながら解毒剤の最後の一滴を口にしようとしたところでエルーナが来た。


「お姉様」


彼女は諦めたような、冷ややかな笑顔で私を呼んだ。

次に続く言葉が普段の優しい彼女の物であることを願う。


———だが、彼女の愛らしい唇から飛び出した言葉は残酷なものだった。


「正直お姉様にはしっかりとお亡くなりになって頂きたかったです。」


呆然とする私を一瞥いちべつした後、彼女は続ける。

狂ったように、すごい剣幕で。


「“かつて世界を救った聖女”その名によって私がどれくらい傷ついたと思っていますか?

“聖女の妹”にいつもは見向きもしないくせに聖女の力が失われたとなるとその妹に勝手に縋りにくる!そして断った瞬間、“聖女の妹”は心が狭い、だの出来が悪いだの好き勝手に!おかしくないですか?ひどいです!」


確かにエルーナは不憫ではある。が、それとこれとは違う。話を聞く限りは私は何も悪いことはしていないように思えるが。

そんな理由で殺されたら私からすればいい迷惑だ。


「どういう意味かしら?そこで私を毒殺する必要があると?」

「全て…邪魔なんです。お姉様の全てが。」


エルーナは、いや、かつてエルーナであった筈の何かモノは狂ったように笑い続けながら、ドレスの袖から銀色に光る短剣を取り出し、私の方に近寄ってくる。

ゆっくりと、しかし確実に。


そのエルーナだった何かモノからは私に対する明らかなる殺意が感じ取れる。


「今度こそ死んで下さいね?お姉様」

「エルーナお嬢様!?何を!!」


アリシアがエルーナを取り押さえようとするが、エルーナが短剣ナイフを振り回して抵抗するので抑えられない。


エルーナが右手を私の方に振りかぶる。

恐怖よりも怒りの方が大きかった。


「いい加減になさい!!!」


その怒りが爆発しかけた時、奇跡が起きる。


刹那、辺りに眩い光が降り注ぐ。


その隙にエルーナからナイフを奪い取り、再び手にした聖女の力で消滅させると、彼女の方へ今度は私から寄って行く。


「エルーナ、私含めて周りの人たちに言うことは無いかしら?」

「お騒がせして申し訳ございませんでした」


彼女は不服そうにだったが、一応謝ってはくれたようなのでとりあえず許しておくことにした。


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