死ねないから生きてる系少女と屋上の関係
神崎 雨空
死ねないから生きてる系少女と屋上の関係
帰ったら何しようかな、と考えながら興味もない生物の授業を右から左へ聞き流す。
一応ノートは取っているものの板書をそのまま書き写してるだけ。まぁ書かないよりはましだろう。
最近は生きててつまらない
自発的に何かをやろうとも思わないし、何かを見て心を動かされる事もない、学校には行くものの誰とも話すことなく家に帰ることの繰り返し。
これでいいんだろうか……いやよくはないだろうが、やる気が出ないものはしょうがないと自分に言い訳する。
手を動かすのが面倒になってノートを閉じた。
何か面白いものでもないかなと、外に目をやると学校の屋上に女子生徒が見えた、角度的に見つかりずらい位置には居るが大胆なサボリだなと思い、つい目で追ってしまう。
分かりにくいが胸のリボンの色から察するに一つ年下の1年生、フェンスにもたれかかり中空を見つめている。
女子生徒の視線の先を見てみても何かあるはずもなく、ぼーっと空を見つめているだけらしい。
「白石」
「は、はい!」
「俺がさっき重要だと言ったこと繰り返してみろ」
「……すいません聞いてませんでした」
「そりゃ外見てボケっとしてたら分からないよな、まあ重要な事なんて言ってないんだがな。ちゃんと授業聞いとけよ」
クスクスと笑い声が聞こえる。
どうやら俺は嵌められたらしい、仕方ないからまたノートを開いてつまらない授業のつまらない板書を写し始めた。
あと5分で授業が終わる……。
今日の最終授業なんだから延長はしないで早く帰らせろよと考えていると、ポツポツと小雨が降り始めた。
体育の授業を受けている生徒たちは大変だなとか、傘持ってきたっけとか考えるのはやはり授業に関係ないこと。
そういえばと思い出したかのように屋上の女子生徒を見ると、気にしていないのか先ほどまでの体勢と変わりなくフェンスにもたれかかりぼーっとしている。
今は11月。まだ本格的に寒くなってないものの雨に濡れて風邪をひいてもおかしくない季節。
お節介だろうが大丈夫かよと少し心配になってしまう。
それからというもの雨の勢いは収まらず、小雨からザァザァと音を立てて大雨になってきた
しかし、女子生徒は屋内に帰るそぶりも見せない。
流石に気になってしまう。数十分前の教師の忠告も無視して女子生徒に目を奪われていると、
女子生徒と目があった……気がした?
気のせいだろうか?
いや、顔がぼんやりと見えるぐらいの距離なので断定はできないが見られてる気がする。
サボリで大雨で屋上でこちらを見つめる女子生徒。
いっそのこと放課後に大雨の屋上に行こうかなと考えていると
キーンコーンカーンコーン
「じゃあ今日はここまで、次の授業までに復習しっかりしとけよ」
それだけ言い残して教師はスタスタと教室を出て行った。
屋上に目を向けると女子生徒は居なくなっていた。
幽霊だったのかもな、なんて馬鹿な事を考え帰る準備をして俺もさっさと家に帰ることにした。
次の日の最終授業、またあの女子生徒が現れた。
おそらくだが、今日は最初から俺がいる方向に視線を向けている。
俺が女子生徒に目を向けるとニコリと笑った気がした。
やっぱりどうにも気になる。
今日はちょうど晴れてるし、俺もサボって屋上に行こう。
このつまらない授業よりは幾分かはましだろうと考え、トイレを装い教室を出て、階段をかけ上がって屋上を目指す。
ガチャっと音を鳴らして屋上の扉を開けるとそこにはフェンスにもたれかかり向こうを見ている女子生徒が居た。
居たには居たが、こちらを振り向くことも話しかけてくることもなく、俺を無視したかのように女子生徒は空を見つめている。
授業をサボってここまで来たのに、もし全て俺の勘違いだったらと思うと急に恥ずかしくなってきた。
俺の思い違いだったことにして教室に戻ろうかと思い踵を返すと、女子生徒はこちらを振り向いて一つため息をつき歩いて向かってくる。
「早かったですね」
どうやら俺の勘違いではなかったらしいが、どう返答しようかと迷っていると
「先輩サボリは良くないですよ」
「お前に言われたくねえよ、昨日からサボってんじゃねえか」
女子生徒は俺と少し距離を開けて立ち止まった。
「私はもういいんです、それとお前じゃなくて
この女子生徒は宮本結衣というらしい、さっき会ったばかりなのに下の名前で呼べと要求してくるがとりあえず無視することにした
「どうして授業中に屋上なんかに居るんだ?」
「そっくりそのままお返しします」
「お前は昨日も居たじゃねえかよ」
「先輩サボリの癖に説教ですか? モテないですよ。あとお前じゃないです」
「余計なお世話だ、大雨の中傷心してたから何かあると思って来てやったのによ」
「ワンチャンあると思った感じですか? 残念でしたありませんよ」
俺の中の宮本への評価が屋上で佇む謎の女子生徒から一言余計な小娘まで格下げされると、ここまで何をしに来たんだと、じんわりとした徒労感に襲われる。
つまらない授業を聞いてる方がましかもしれないと宮本への興味から天秤が傾きかけた時――
「先輩五階って高いんですよ知ってました?」
こいつはいきなり何を言い出すんだろうか、この校舎のことを言うなら四階建てだが……。
ああ、なるほど屋上を入れたら五階と考えられなくもない。
「飛ぼうと思ったんです、せいぜい15mぐらいなら行けるかなって」
「でもフェンスを越える前に足がすくんで無理でした、私にはここから飛ぶ勇気はおろかフェンスを乗り越える勇気さえありませんでした」
どうやら宮本は屋上から飛び降りて自殺をするつもりだったらしい。
「どうして自殺するつもりだったんだ?」
「疲れちゃったんです、別にいじめられたわけでも家庭環境が悪いわけでもないんですけど、全部面倒になった。まぁ生きててつまらなかったんですよ」
「そりゃ災難だな、でもここで死ぬのはやめてくれないか、俺の席からばっちり見えるんだよ」
「いやです。ここから死んで先輩のトラウマにしてあげます」
「……。」
「嘘ですよ、どうせ死ぬ勇気なんて無いんです。頑張って生きる気力もありそうにはないですけどね」
宮本は諦めたように言い放つ。
「死ねないから生きてるんです」
俺は言葉を返せなかった。宮本とは今日会ったばかりで決して特別な仲では無い、励ますのが正解なのか、共感するのが正解なのか、何を言ってほしいんだろうかとか色々考えた結果――
「生きてりゃ良いことあるさ」
「使い古されたを通り越して
こいつは本当に口が悪い。俺が必死に考えて言った薄っぺらいセリフは罵倒で返ってきた。
「そもそも先輩は生きてて楽しいですか? 毎日つまらなさそうに過ごしてますけど」
「今日会ったばっかりのお前に何が分かるんだよ」
「先輩の事は全然知らないですけどそれぐらいのことは分かりますよ、顔に書いてありますし、それとお前じゃなくて」「はいはい結衣だったな」
「じゃあ結衣が俺の人生を楽しくしてくれよ」
俺は何を口走ってるんだろうか。意味のない会話に馬鹿らしくなって、普段なら考えもしないことが口から出てしまった。恥ずかしくなって結衣から目を逸らしてしまう。
どうせ恥ずかしい事を言うなら結衣の人生を面白くしてやるぐらい言えよとも思うが、言葉にした以上はもう遅かった。
結衣が歩いて近寄ってくるとニヤニヤと小憎たらしい笑顔を浮かべて俺の顔を覗き込んできた。
「つまらないって理由で死のうとしてた女の子に言うセリフじゃないと思いますよ」
「悪かったなさっきのは忘れてくれ」
「嫌です。人生つまらない者同士仲良くしましょう、ちょうど先輩友達少なそうですし」
お前も多いようには見えねえよという言葉はギリギリのところで飲み込んだ。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。
そういえば、トイレと言って授業を抜け出したままだったことを思い出したが、もうそんなことはどうでもよかった。
久々に話相手ができて楽しいと思えてるのかもしれない、相手が一言余計な小娘なのは小癪だが、つまらないと言い張る人生に親近感を覚えてるらしい。
「鳴っちゃいましたね、また明日も屋上で死のうとしてるので来てください」
「恐ろしい誘い文句だな、本当に人を誘う気があるのか不安になってくる」
「傷つきました本当に死んじゃうかもしれません」
「わかったわかった来てやるよ友達だからな」
「ええ、絶対ですよ」
こうして、二人のつまらない人生は屋上を経て少し変わったらしい。
「まだ死ねないから生きてるのか?」
「いいえ、死にたくないから生きてるんです」
そういって結衣は俺の肩に頭を預けてきた。
死ねないから生きてる系少女と屋上の関係 神崎 雨空 @Kanzaki_Ryuichi
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