第52話 我流で強くなる 

 ―――俺は行くことにした。


 正直凄く怖い。

 またきっと何か失敗するかもしれない。

 もし誰かと、団長とか教官とかロイドとかと敵対することになれば今度は魔王の足を引っ張ってしまうかもしれない。魔王は強いからそれでも勝てるだろうが、俺の心は今度こそ立ち上がれなくなる。

 もしそうなれば俺は自分に自信を失くしてしまって、もう何もやっても駄目だという思い込みが俺を抑制してしまう。


「―――魔王様」


「なんだい?」


「―――もしかするとまた今度も失敗して魔王様の足を引っ張るかもしれません」


「……」


 魔王は何も言わない。まるで俺の次の言葉を待っているようだ。


「勿論俺にできる事は最善を尽くします。けど恐らく団長とかと戦う事になれば俺は負けます」


「―――始まる前から自信が無いと宣言するなんて良くないよ」


「いえ、自信がない訳ではありません。逆に今まではだけです。これはただの自己分析の結果を発表しているだけです」


「自己分析か―――」


「はい。更に言うなら俺はこれから何度も失敗をしてその度に自分の無力感を思い知らされます。これはきっと単に失敗したからというより、きっと俺ならどうにかなるだろうという慢心が打ち砕かれたからです。けど、これからはその度に俺は落ち込みません」


「―――ほう」


 俺は何かを決めたというより何かが見つかったという顔をした。それに対して魔王はしたり顔でワクワクしたような顔をしていた。


「俺は今まで何度も失敗するごとに復帰するまで時間をかけすぎていました。それが今の俺に見える俺の改善するべき所です。だから、今回もし交渉が上手くいかなくても、何かへこむような事があっても俺は次の一手をすぐに探します」


「そうか。よかったよ。また僕は君を成長させることができたね」


「―――っふ。そうですね」


 魔王は凄く満足気だ。

 如何にも「僕の思い通りの事ができてよかったよ」という顔だ。ちょっと癪に障るが、実際俺は助かっているので何も言えないし、こんな子供でも分かるような俺の悪い所を今更見つけたということもちょっと嫌な感じだ。


 ―――でも、これが俺の戦士のなり方だ。

 きっと周りの奴は厳しい訓練を受けたり、強い魔法を覚えるために勉強したり、辛い過去をバネに血がにじむような何かをするだろう。

 

 ―――だが俺は違う。

 俺は挫けてすぐ復帰するというこんな人間として基本的な行動を糧に戦士になる。

 これが俺流のやり方だ。


「―――それじゃあ行こうか」


「―――はい」


 魔王は手を合わせ、俺達二人は例の灰色のベールに包まれて視界が一気に眩む。






 ―――帰ってきた。また帰ってきた。この場に。


「うわぁ……」


 この匂い。この風。この日の当たりぐあい。とても懐かしい。


「―――懐かしい気持ちになったかい?」


「はい」


 俺と魔王はサーベラス近くの草原に降り立った。

 しかもこの草原は凄く覚えがある。俺が子供の時に一度だけ村の外に出たときに見たものだ。


 ―――俺が子供の頃、サーベラスの本拠地に居た時のことだ。

 俺とロイドは本拠地から抜け出して、この草原で昼寝をした。とても心地よかった。俺たちがいつも吸っている空気は村のやつだけだし、村を囲む壁のせいで新鮮な空気はほとんど吸えない。なのでこの吹き通るような風は俺たちの小さな体に命を吹き込むように感じた。




 


 



 

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