第88話【天邪鬼】の姫

【雷帝】


特級スキル。体全てを雷に変化。

土属性以外の攻撃は無効化し、スピード、攻撃力がアップする。


これが雷の精霊ビビを脅迫して手に入れたスキルだ。

このスキル簡単に言えば一時、雷そのものになり土属性以外の攻撃を通さず、凄いスピードで攻撃できると言ったものだ。

ビビが言うには、ビビが授ける最強の特級スキルだということだった。


ララが貰ったスキルは、(雷拳)(雷足)


拳と足に雷を纏い、攻撃力とスピードを上げるスキル。


フミヤに倒された5剣神ガオシュンとその手下が使っていたスキルに似ているが、ビビが言うには元々の性能が段違いだということだ。

……そういうことにしておいてやろう。


コリー隊長が得たスキルは、(雷剣)


剣に雷を纏うスキル。


(魔法剣みたいなものか。)

そう呟くと、ビビがムキになって言う。


【魔法と同じにしないで欲しいビビ!

魔法は所詮真似事ビビ!

天然物の雷ビビ!威力は凄いビビ!】


なんかムキになって半泣きになってるし、そういうことにしといてやろう。


雷の精霊ビビと、そのようなやりとりをしている間に、サンダ人民国の王子である5剣神の一人【天邪鬼】の牛熊(ベコベア)が到着した。


ベコベアは来るなり、カグラが決死の思いで抑えこんでいる春麗に向けて手を翳した。


「………解!……」


カグラの腕を噛みちぎらんとしていた春麗の鬼の表情が一瞬にして穏やかな表情に変わる。


そして、カグラもそれを感じとり抑えこんでいた力を解いた。


「わっ私は………一体……」


春麗は、自分自身が豹変していたことを瞬時に悟る。そして放心状態になっていた。


カグラは、そんな春麗の傍らで跪き春麗と、そして牛熊(ベコベア)を敬うように頭を下げる。


牛熊が言う。

「カグラ……遅くなってすまない。

ありがとう。春麗を……いや妹を体を張って止めてくれて。其方の忠義、しかと、この牛熊が見届けた!

これからも、春麗を支えてやって欲しい。」


カグラは頭を下げたまま答える。

「……勿体ないお言葉ある。…」


その言葉に牛熊は、軽く頷き次に春麗に語りかける。


「……春麗よ。其方は、今、正に長い眠りから覚めた。

長い悪夢だった。

其方は、チェンによって精神を蝕まれ優しい姫から暴力的な姫に変えられていたのだ。

民に暴力を働くようになり、私の【天邪鬼】で仮の元の姿に変えていたのだ。

チェンが死にチェンのかけた呪縛がとけ、私が【天邪鬼】を解くまでまた暴力的になっていたが、【天邪鬼】も解いた。長い悪夢から春麗……其方は解放されたのだ。」


春麗は、放心していたが牛熊の言葉で我にかえった。


「………!兄上!

………わっ私は、わっ私は…どっどの面を下げて民の前に…立てば…」


牛熊は、春麗の言葉に頷きながら言う。


「民には、このまま【天邪鬼】を発動したままでも良い。

それならばお前もなんの問題もなく過ごしていける。」


春麗は、涙を流す。

そして、言葉を振り絞る。


「………そっ…それは、いけません。

私のせいで…あのような滑稽な状態にしたままなど……。

わっ私は、民にたいして謝罪をしないと…

簡単に許して貰えないかもしれませんが…

私は民に許して貰えるまで頭を下げなければなりません。」


牛熊は言う。

「……それは、春麗…其方にとって一番辛い選択になる。暴言を浴びせられるのだぞ。」


春麗は、ここで牛熊の目をしっかりと見て答える。


「…兄上。自分のしたことへの責任は果たさねばなりません。

嘘偽りの国を正常に戻さねば。

それには、まず民に謝罪しないと何も前に進みません。

そして、奴隷の件で周辺国へも多大な損害を…。周辺国への謝罪も私が……」


ここでカグラが頭を下げたまま、口を開く。


「牛熊様!

姫の言う通りにして欲しいある。

民も謝罪を受け入れてくれるある。

姫は、暴力は振るったが命はとってないある。これ幸いある。

姫が民に謝罪し、昔の優しい姫の姿を見せれば民もわかってくれるある。

全ては、チェンが悪い。

民も内心わかっているある。」


牛熊が、かがみ込みカグラの肩に手を置き言う。

「命を奪わなくてすんだのは、其方のおかげであろう?!

まさしく体を張って止めてくれたからであろう。其方の体中の刀傷がその証。

………そうだな。まずは、この牛熊が……」


牛熊は、そう言いながらカグラの前で地面に額がつくくらいに頭を下げる。


「…カグラ。

申し訳なかった。そして、体を張って春麗を止めてくれてありがとう!

春麗が、民の命を奪わなくてすんだのは、全ては其方のおかげだ。ありがとう。ありがとう。」


カグラは、突然のことで狼狽える。


牛熊に続くように春麗もカグラに対して頭を下げる。


「かっカグラ!

私を、私を止めてくれてありがとう!

そして、申し訳なかった。どうか許して欲しい。」


カグラは、狼狽えながらも声を振り絞る。


「やっやめるある。牛熊様も姫様も!

自分は王家の盾ある。

当たり前ある。

王子と姫に頭を下げられると、自分の仕事の誇りを傷つけられた気持ちある。

お二人は、自分に頭を下げたらダメある!

姫!民に謝罪するある。

その際浴びせられる暴言は、全てこのカグラが受け止めるある!

だから、勇気を持って、姫様の生まれ持っての誠実さで謝罪するある!

よろしいあるな?!」


「……誠心誠意謝罪します。

カグラ。見ていてください。」


カグラが膝の上に置いていた手の甲を春麗と牛熊が手のひらを乗せて誓うのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日。


サンダ人民国の大通りに簡易舞台が設置された。


兵士達が民に声を掛けて、その簡易舞台の前に集められる。


万を超える民で大通りは一気にごった返す。

口々に、今から何が行われるのかそんな予想を語っている。

群衆のそのような声がまるで、空気を裂くように響き渡る。

これだけの群衆の声は、凄いパワーを秘めているとフミヤ、ララ、コリー隊長は体感した。


こんな中で春麗は謝罪をするという。

その際の暴言がどれだけのパワーになるのかと考えただけで腰がひける思いだった。


そんな中、簡易舞台に牛熊と春麗が立つ。

一斉に、歓喜の声があがる。

この国の王子と姫が現れたのだ。

まだ牛熊は、【天邪鬼】を解いていない。

なので明るい声が二人に降り注いでいる。


牛熊と春麗の後ろにはカグラが控えていた。

カグラは、今日は王家の盾として鎧姿で大きな盾を持って控えていた。


明るい声が飛ぶ中、牛熊が手を翳し【天邪鬼】を解く。


「………解!……」


【………………………】


あれだけ騒いでいた群衆が【天邪鬼】を解いた瞬間に、一瞬にして沈黙した。


牛熊が語る。


「民よ。

サンダ人民国は、今長き悪夢から覚めた。

5剣神の長であったチェンにより、国が、国自身が病んでいた。

そのチェンを討つことで、国の病みを治すことができたのだ。

精神を蝕まれ暴力的になっていた春麗も、もう大丈夫だ。もう、私の【天邪鬼】も必要がなくなった。」


ここで群衆がざわつきだす。


春麗が、舞台上で一歩前へ出て膝をつき頭を舞台につけて謝罪の言葉を言う。


「ある時から、精神を蝕まれ暴力的になっていました…民の皆様に暴力を振るったこと…

どうか許して頂きたい。

大変申し訳ございませんでした!」


春麗は、頭下げたまま、群衆の言葉を受けるつもりのようだ。


しかし、群衆は思ったほか騒がない。


春麗は、頭を下げたまま涙を流す。

怒号を掛ける価値すら自分にはないのかと。

自分は、それだけ民の心にも残っていない存在なのかと。


その時、前列にいた男が声をあげる。


【なんで姫様が頭を下げる必要があるんだ?

悪いのは、すべてチェンじゃないか!

そりゃ姫様、いっときだけ暴力的になってたけど直ぐに優しい姫に戻ってたじゃねえか。

俺ら民の為に、姫が色々動いてくれていたのは俺らが一番知ってる!

なあ!そうだろう!違うか!皆んな!】


この男の呼び掛けで群衆から明るい声が響く。


春麗は、舞台から民達を唖然として眺める。

矢面に立つ覚悟で来ていたのだ。

それが、明るい声で姫様!と声を掛けてくれている。

一気に涙で民が見えなくなる。


すると、後ろに控えていたカグラが春麗を支えて立たせる。

そして、一歩前に出て叫ぶ。


「サンダ人民国の民よ!

我は、王家の盾!カグラある!

民よ!よく言ってくれた!

そして、よくこの数年の姫様を見ていてくれたある!

この数年の姫は、【天邪鬼】の姫ではあったが、まがいなき本来の姫の姿!

それは、この王家の盾、カグラが命を賭して守るお方ある!

だから、信じよ!サンダ人民国の姫を!王子を!

我は、王家の盾!当然!お前達を守るサンダ人民国の盾である!

ここから、サンダ人民国は変わる!

周辺国にも奴隷の件で損害を与えた!

王子、姫様がこれから償いをしていくと決めた!

そんな王家を我らサンダ人民国の民は、誇りに思おうぞ!」


カグラの言葉に呼応するかのように、サンダ人民国の民達の雄叫びが響き渡る。


舞台上で、牛熊が春麗を抱き締める。


そして、牛熊がカグラの肩に手を置く。


カグラは、牛熊と春麗に笑顔を向け、民の歓声にこたえるよう促す。


牛熊と春麗は、笑顔で民に手を振る。


遠目で見ていたフミヤ、ララ、コリー隊長は自然と拍手していた。


(フフフッ。カグラが、なんやかんやいって一番スゲー男だったな。忠義の男!って感じでカッケーじゃん。)


コリー隊長が続いて言う。


「大きくサンダ人民国は変わりそうですね。

良かった。」


ララが、フミヤの腕をクイクイと引っ張りながら言う。


「フミヤ様、この後どうするです?

魔王国に迎えにいかなきゃですよ!

行き方知ってるです?」


(知る訳ないよ。

アキノーさんに又聞くしかないよな。

アキノーさんが魔王国と取引あるかは知らんけど。)


そう言って苦笑いするフミヤ。


ララは、小さな体で腕組みしてどうする?どうする?と考えている。


そんな中、サンダ人民国の大通りはまるで祭りのように、民達の明るい声が響きわたっていたのだった。


      ー 第7章 完 ー


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


仕事が忙しく、とても間隔が空いてしまいました。

申し訳ございません。

これからも公開間隔があくかもですが、よろしくお願いします。




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【40000PV感謝!】幽霊のまま異世界転移されたんだけど!!憑依でスキルを奪ってこの世界で最強になる予定! ヒロロ @takuhiro3130165

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