第87話 脅迫

「ぐっ!ぎゃあ!はなせ〜!

こっ殺す!殺す!

貴様〜!殺してやる!

ガブッ!ぐっ殺す!」


カグラに抑えこまれている春麗。

あの優雅な雰囲気を醸し出していた春麗が、豹変していた。

時折、カグラの腕を噛み切る勢いで噛みつき、そして鬼のような形相で殺すと叫んでいた。

そこに、あの優雅な春麗の姿はなかった。


チェンによってむしばまれた精神をベコベアが【天邪鬼】によってまともにしていたのだ。


チェンが討ち取られ、精神操作が解除されたのだ。そこにまだ【天邪鬼】が発動したままなので、凶暴な春麗なのだ。


「春麗様!もう少し我慢するあるよ!

ベコベア様が来たら【天邪鬼】を解いてくれるある。

グッ!いっ痛!ぐっぐぐぐ。

もっもう少しの辛抱あるよ!」


カグラは、春麗に噛みつかれた腕からかなりの血が流れていた。

それでも、春麗を抑える力を弱めることはしなかった。


ララとコリー隊長は、そんな二人を唖然とした様子で見ていた。


そこに、邪神カシエラを倒したフミヤが合流した。


(ララさん!コリー隊長!取り敢えず【ヒール】を掛けるよ!

リリィの【大聖女の癒し】までの効果はないけどな!)


フミヤはララとコリー隊長に【ヒール】を掛けた。


切り傷の血は止まった。


リリィの【大聖女の癒し】のように傷痕を綺麗にするまでの効果は無かった。


しかし、傷は癒えた。


フミヤはアイテムボックスから上級ポーションを取り出し、手のひらに出しララの顔を覆うようにポーションをすりこんでいく。


「うわぁ。くすぐったいのです!

フミヤ様!

ララは大丈夫なのですよ?!

どうしたのです?!」


(女性の顔に傷が残ったら大変だよ!

ポーションをすりこんで傷痕を消さないと!)


フミヤは、そう言ってララの顔に上級ポーションをすりこんでいく。

一本使い切ったとき、ララの顔にあった傷痕は綺麗にとれていた。


それと同時にララの顔は真っ赤に染まっていた。


(力入れ過ぎたかな?真っ赤だ。

ごめん。痛かった?ララさん)


「いっ痛くないのです!

この赤いのは…

別の事のせいなのです!

ふっフミヤ様!コリー隊長の傷痕も治さないとダメなのです!」


焦った様子でララが言うのだった。


フミヤは、アイテムボックスから上級ポーションをもう一本出した。


(コリー隊長!「あっ!フミヤ様!じっ自分でできますので!お気遣いありがとうございます!」


コリー隊長は、奪いとるようにフミヤから上級ポーションを受け取る。


そして、自分で上級ポーションをすりこんでいく。


「……フミヤ様は、女ったらしなのです!」


ララは、聞こえるか聞こえないかの声で呟くのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


フミヤは、変わり果てた春麗を見て抑えこんでいるカグラに声を掛ける。


(本当にベコベアが【天邪鬼】を春麗に掛けていたんだな。

カグラ。一瞬離れろ。俺のスキルで抑えるから。)


そのフミヤの言葉で、カグラは春麗を抑え込むのをやめ、瞬時に離れる。


【水属性魔法極LV1ウォーターネット】


春麗を水のネットで地面に抑えつける。


そして、カグラの血に染まっている腕に【ヒール】を掛けた。


「助かったある。

フミヤ様は、ベコベア様の話を信じていなかったあるか?」


(まあ、どっちでもいいと言うつもりで聞いていた。

で、そろそろベコベアは来るのか?)


「恐らくこちらに向かっていると思うあるね。戦闘音も消えた今なら、終わったことを告げているようなものあるね。」


(俺達が負けることは、考えていないのか?)


「その時は、この世界も無事ではないあるね。この世界がまだ無事だということは我らが勝ったという証あるね。

だから今急がれていると思うあるね。」


(そうか。………しかし。

面倒な相手だったな。

【スーパーノヴァ】は、やばかった。

地獄剣山も跡形がほとんどなくなってるな。)


フミヤが辺りを見渡す。


すると、フミヤがいきなり大声で呼びかける。


(……やっぱりいた!

おい!精霊!雷の精霊!

お前!こっちこい!今更隠れても遅いぞ!)


フミヤしか見えていないが、地獄剣山のトゲ山が崩れて大きな岩からヒョコと顔を出していた金髪の女性が、ゆっくりと姿を現した。


【何故?何故?私が雷の精霊だと、わかるビビ?】


ララが声に反応する。


「あっ!声が聞こえたのです!

……そうだったのです!

思い出したのです!精霊カッカ様が言ってたのです!

地獄剣山に雷の精霊がいると!

フミヤ様!どこにいるのです?!」


(こちらに近づいてきてるよ。

おい!俺達が戦ってるのに、少しくらい手伝ってやろうとは思わなかったのかよ。)


すると、雷の精霊は震えだした。

そして言うのだった。


【おっ怒っているビビ?

怒らないで欲しいビビ。

ビビも長い間祠を取られていたビビ。

被害者ビビ。ビビは雷の精霊、ビビ。

祠をあんな禍々しい邪に染められて、野宿してたビビ。被害者ビビ。】


雷の精霊ビビは、自分も被害者だと必死に訴える。


すると、ララがフミヤに言う。


「フミヤ様!なんかビビ様可哀想なのです!

なんで、そんなにフミヤ様怒っているのです?!」


フミヤは、厳しい目で言う。


(だってララさん!

こいつ、邪神カシエラが【スーパーノヴァ】を放ったとき、邪神カシエラの後ろにいて、笑って見てたんだぜ!)


「えっ!あの爆発を笑って見てたのです?!

あっあんまりなのです!

わっ悪い精霊さんなのです?!」


すると雷の精霊ビビは、焦って言う。


【しっ仕方なかったビビ!

つっ強いと思うほうにつくのが平和ビビ。

あっあの時は、あっちにつくのが安全だったビビ。】


フミヤは、呆れて言う。


(いままで、イシス様、カッカ様、ウンディーネ様、ノーム様に会ったけど、ビビ様。

アンタが一番クセ強いわ。

カッカ様が言ってたのは本当だったわ。

イシス様とカッカ様以外は、クセが強いと。

で、5剣神にスキルを与えていたのは、ビビ様だろ?!なんであんな像まで作ったんだ?

どうせ、楽しんでたんだろ。)


【ドキっ!……

楽しんでいたといえば楽しんでいたビビ。

でも、あんな化け物を産む邪に染まった男だとは思わなかったビビ。

あれは、あの男が悪いビビ。ビビは悪くないビビ。】


開き直るビビ様。


(あ〜。開き直るんだな。

チェンは、ウンディーネ様に凄い迷惑掛けていたな。

ウンディーネ様にチクッておくよ。

ビビ様が全て悪いと。)


ビビが焦って、フミヤの足元に跪く。


【……ウンディーネに言うのは駄目ビビ。

そっそれは脅迫ビビ。

ウンディーネはめんどくさいビビ。

言わないで欲しいビビ。】


フミヤは、悪い顔で言う。


(じゃあ、わかるよな。ビビ様。

とっておきのスキルを与えてくれるよな。)


【うっぐぐぐ。

脅迫ビビ。こっこれは脅迫ビビ。

でも、ウンディーネのほうが面倒くさいビビ。

仕方ないビビ。】


ビビ様を手玉にとるフミヤ。


ララは、見えていないが声が聞こえているので、そのやり取りに笑みを漏らすのだった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


応援有り難うございます!

是非フォロー、☆♡をポチッとお願いいたします!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る