4,悪者には罰が下り、悪役令嬢は幸せな王妃となる

 三日後、ブルーノ第三皇子率いる帝国魔術騎士団は、ミノーレア王国に攻め入った。魔術が発展しておらず剣だけで戦う王国騎士団に勝ち目はなく、数時間のうちに降伏した。


 王国で要職に就いている宰相の息子たちだけでなく、小さなミア嬢にクラウス第二王子も捕らえられ、政治犯として帝国に送られた。ミア嬢は年齢が幼いこともあり、帝国のさる貴族家あずかりとなった。だがクラウス王子は余生を修道士として過ごさねばらならない。


 王国に混乱を招いた国王は統治能力の欠如を理由に退位させられ、帝国内の離宮に移された。食べるものにこそ困らないものの、つねに帝国騎士団に見張られ自由のない屈辱の余生を送ることになった。


 宰相ゲルトナーの息がかかった法衣貴族は領地に返され、使用人も解雇された。王国騎士団は総入れ替え。足りない人員は帝国民を雇ったため、ミノーレア王国は帝国の属国のような有り様だった。


「これで……良かったのよね」


 シャルロッテは自分に言い聞かせるように呟いた。ミノーレア王宮の外からは、王都民の声が聞こえる。


「アレクサンドル国王、万歳!」

「新王に祝福を!」

「我らがミノーレア王国に若き王の誕生だ!」


 宰相ゲルトナーの敷いた腐敗政治は一掃され、王国には新しい風が吹いてきた。


 宮殿正面のバルコニーから、王宮広場に集まった人々に手を振っていたアレクサンドル新王は、シャルロッテに目を合わせて満ち足りた笑みを浮かべた。


「これで良かったかって? 俺としては大満足さ。愛する君を守れたんだから」


 そこに新宰相となったブルーノが顔を出した。


「お二人さん、もうすぐ北の広場で前宰相ゲルトナーの処刑が始まるよ。王都民が熱に浮かされて集まってるけど、見に行かないのかい?」


「庶民に混ざって処刑を見物する気か? ブルーノ」


 アレクは苦笑してから、ふとシャルロッテを振り返った。


「ようやく君のかたきを討てたよ」


「え……」


「実は、俺とブルーノはやり直し人生五回目なんだ」


「五回目!?」


 シャルロッテの声が跳ね上がる。


「俺様とアレクで時を戻していたんだよ。帝国皇族に伝わる秘術でね。本来、記憶を保持できるのは術者だけなんだけど」


 ブルーノの説明をアレクが引き継いだ。


「毎回、君が俺と過ごした日々を忘れるのが耐えられなかったんだ。それで今回は君の記憶を残してしまった。処刑台に送られたつらい記憶を消さなかったのは俺のわがままだ。怒ってくれていい」


 こうべを垂れたアレクに、シャルロッテは首を振った。


「私も忘れたくなかったです。二人で過ごした日々を――」


 静かに寄り添う二人をあたたかく見守りながら、ブルーノが言った。


「俺様は時間を戻してること、ロッテちゃんに打ち明けようって言ったんだぜ? 自分だけ訳も分からず過去に戻ってるなんて不安だろ?」


「だけど俺が反対したんだ。今回だって失敗するかも知れない。俺は過去四回、君を守れなかったんだ」


「私は毎回、処刑されて――」


 シャルロッテの言葉が終わらぬうちに、アレクが否定した。


「あんなことは前回だけさ! 許せなかった。俺が帝国にいるあいだに――クソッ」


 シャルロッテの知らないアレクが、また顔をのぞかせた。


(そうだったのね……。私が処刑されたことで、優しく純粋だった彼は変わってしまった――)


「私の処刑を仕組んだのはゲルトナー宰相?」


 アレクはしっかりとうなずいた。


「帝国留学中の俺は七歳のミア・ゲルトナー侯爵令嬢と結婚させられたのさ」


 ゲルトナー侯爵は宰相の地位に飽き足らず、将来、王妃の父として権力を振るうことを望んだのだ。


「アレクが俺様と帝国で勉強しているあいだに廃嫡されて、弟が立太子されるっていう今回のパターンは、実は過去にもあったんだ。だから先に手を回してたんだよ」


「そう。過去四回、俺はゲルトナーの謀略に嵌まって、君を幸せにできなかった」


 アレクの大きな手のひらが、愛おしそうにシャルロッテの頬をすべってゆく。


「だけどもう、無実の少女を処刑台に送るような腐敗した王国は幕を閉じた。俺はこの新しい国の王として、必ず君を幸せにする」


 彼の大きな手を宝物のように抱きしめて、シャルロッテはほほ笑んだ。


「私、すでにとっても幸せですわ!」




─ * ─




最後までお読みいただきありがとうございます!

短編ですので、ここで幕引きとなります。


こちら、カクヨムコン短編賞に応募しておりますので、ページ下の☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!


ブルーノ「君が☆☆☆を★★★にしてくれるまで、何回でも時を戻しちゃうぜ!」

アレク「おい、秘術を乱用するな」

ロッテ「お星さまの数はいくつでも構いません! ブルーノがとんでもない冗談を……。私から謝罪しますわ!」

アレク「俺のロッテに謝らせやがって! おいこら待てブルーノ!」


最後にしょうもない寸劇、失礼しましたっ

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死に戻りなど望みません、公爵令嬢ですから無実の罪とて潔く受け入れましょう!と思っていたのに時を巻き戻したのはどなた? 綾森れん@『男装の歌姫』第四幕👑連載中 @Velvettino

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