第33話 RG 1/144 アカツキガンダム(オオワシ装備)
「あー。それうちの靴下!」
「令美ちゃん。ごめん!」
すぐに脱ぐ天野さん。
「もう。お泊まりなんてしないだから」
「朝から騒がしいぞ」
伊織が起きてきた。
さすがの眠り姫。寝起きは悪い。
「みんな、さっさと食べな」
僕は朝食を食卓に並べる。
「え。うそ。万代くんて料理もできるの!?」
天野さんが嬉しそうにしている。
「うん。お兄ちゃんはなんでもできるんだよ」
「おいしいなら食べる」
伊織が何かにとりつかれたかのように食卓へ向かう。
「もう、伊織ねぇはしっかり起きて」
「そうだよ。こんなに美味しい料理を寝ぼけて食べるなんて許さないんだから」
「うんうん。今日は休みだからいいけど」
「そうでしょう? 私、ゆっくり眠りたい」
「いくら眠り姫でもそれはないって。十時だよ」
「眠り姫?」
天野さんがこてりと小首を傾げる。
「うん。あの――」
「待って! 言わないで」
恥ずかしそうに頬を染める伊織。
「赤くなっちゃって。伊織ねぇ、かわぁいい」
令美がツンツンと伊織の頬をつつく。
「やめれ」
伊織が令美の指をくわえる。
あ。なんだか色気がある。
「万代くん?」
にこりと笑みを浮かべている天野さん。
いや、声は笑っていないし、目も据わっている。
「ええと。ホラ食事だよ」
そっか。バレているんだ。
「伊織ちゃんにエッチな視線、向けていたでしょ?」
「あー」
「何々。私に興味を持ってくれたのかい?」
「……」
これはマズい。
この流れを変えなくては。
「ああん。うちにも興味を持ってよ~」
令美は僕の腕に抱きついてくる。
「こら。兄妹間でのイチャイチャ禁止!」
天野さんがぷくーっと膨れる。
そんなに嫉妬してくれるなんて。
嬉しいけど、ちょっと厄介だね。
「令美、離れなさい」
「いやだ。うちもみんなみたいにちやほやされたい」
「なら、アイドルやってみる? 漫画家さん」
天野さんが煽るように言ってくる。
「やる! お兄ちゃんの目を惹くよね!」
「ええっと。ええ……」
令美の意外な反応にビックリしている天野さん。
しかし、あのコンテストのランキング後に、僕の家で祝勝会をやるとは思わなかった。
しかも泊まりがけとは。
僕は頭が痛くなる思いで二人を見つめる。
「天野さん。うちにも紹介して!」
「あー。うん。はい」
妹の令美にタジタジな天野さん。
こりゃ天野さんが尻に敷くパターンはなさそうだね。
「あらら。天野ちゃん以外に弱いね」
伊織が隣に座り、苦笑を浮かべる。
「そうだね。って、伊織。なんだか距離感近くない?」
というか太ももを触られているのだけど。
「こら! 伊織ちゃん!」
「バレたか」
「ばれか、じゃない! 万代くんも嫌ならいいな!」
「「はい」」
「もう伊織ねぇは油断も隙もないな……」
「いいじゃない。あなたたちと違ってずっと一緒にいられないのだから」
悲しい声で呟く伊織。
その声に天野さんも令美も同情する。
「だ・か・ら!」
そう言って僕に抱きついてくる伊織。
「今のうちにチャージさせてよね!」
「あ。ずるい!」
「自分だけ許されようなんて!」
両手に花、どころじゃないけど。
なんか思っていたのと違う。
もっと天野さんと二人っきりでイチャイチャできると思っていたら、なんだ。このカオスっぷりは。
「じゃあ、力でひっぺ剥がすことね」
「遠慮なく!」
令美は力いっぱい引っ張るが、膂力がない。
だが、天野さんが以外な力を発揮する。
火事場の馬鹿力という奴か。
「ふんぬ!」
「こんなことに力を使うんかい……!」
「やったぜ」
天野さんがそう言うと、伊織は床に転げていた。
「むぅ。強いなー」
「ここはわたしの特等席なの!」
そう言って僕の膝に腰をかける。
「なんだよ、そりゃ」
伊織は悔しそうに呟く。
「天野さん。少しは遠慮したら?」
令美はジト目を向けてくる。
「あらいやだ。
「そういうあなたは正妻気取り?」
むむむとにらみ合いが続く。
「うん。おいしい。二人が食べないなら、私が食べるよ」
「「それはない!!」」
天野さんと令美は食卓に座って箸を手にする。
パクパクと食べる天野さんと令美。
「うん。美味しい」
「いい。お兄ちゃんのだ」
うまそうに食べるなー。
良かった良かった。
「伊織助けてくれ」
「うーん。おいしいからパス」
もぐもぐと食べている伊織。
食事を終えると、僕は洗い物をしようとする。
だけど……。
「わたし、手伝おうか?」
「天野さん、いいの?」
「うんっ!」
ちらっと令美を見やる。
令美はリビングでソファに座りながら、テレビをつけてスマホをいじっている。
なんとも贅沢な。
「令美ちゃんはしないの?」
こそこそと話しかけてくる天野さん。
「ああ。あいつは漫画家だからな。余計な手先を使わせたくない。まあ、下手というのもあるけど」
「あら。まだ令美ちゃんは手仕事が苦手なのかい?」
伊織が後ろから話しかけてくる。
「そうだよ。だからシー」
「あ。ごめん」
「どいうこと?」
僕と伊織のやりとりを理解できていないらしい天野さん。
「躍起になって皿割ったら大変だろ?」
「あー。それもそうか……。そんなに不器用なの?」
「プラモデルも作れないからね」
伊織は悲しげに首をふる。
「まあ、最近プラモ教えているから、だいぶマシだけどね」
僕は苦笑を浮かべながら皿を洗う。
「「それ詳しく!!」」
天野さんと伊織の声がハモる。
「うるさいなー。なんの話?」
令美がイヤホンを外し、こちらに目を向ける。
「なんでもない。今は休んでおけ」
「あとでプラモ見せてね!」
「私も見たい。令美のガンプラ」
天野さんと伊織が目を輝かせている。
「いいよ。でもなんで二人とも知っているのよ? お兄ちゃんが話した?」
「わるい。でも大丈夫でしょ?」
「うん。お兄ちゃんがそう言うなら間違いないね」
令美は気にした様子もなく、イヤホンをする。
「いや、信頼しすぎでしょ……」
困ったようにため息を吐く天野さん。
「まあ、令美は甘えん坊なところあるよね」
「そう言われるとそうかも」
皿を洗っていると天野さんが拭き始める。
「私も手伝うよ」
「大丈夫」
「むぅ。本当、正妻気取り?」
「そういうんじゃないけど、ただの幼馴染みでしょ?」
にやりと口の端を歪める天野さん。
こんな顔もするんだ。
「こいつ……」
伊織がげんなりした顔になる。
「やめてくれ」
僕はちょっとうんざりした顔で応じる。
「お兄ちゃん、まだ?」
「ああ。わるい。今終わらせる」
シャカシャカと急いで洗い流す。
「うん。急がないとね」
天野さんは拭くのを早める。
「むむむ。私だってできるのに……」
洗い物を終えると、令美と一緒にプラモデルを見に行くことになった。
令美の部屋にはRGアカツキガンダム(オオワシ装備)が飾ってある。
アカツキガンダムは金メッキ仕様で、かなり派手だ。
そんなアカツキを見て、天野さんも、伊織も、びっくりする。
「こんなに細かいガンダムを? あの令美が?」
「うん。そうだよ」
「すっごーい」
「教え方がうまいんだろうね。ね? 民也」
「うん。お兄ちゃんがうまいの~」
「僕は大したことしていないよ」
アカツキの顔を見る。
「謙遜しないの」
「僕はホント、なにも……」
ニッパーの持ち方が怪しい時だけ注意喚起するだけ。
あとは令美に任せることが多い。
それだけだ。
僕が頑張ったのは。
「お兄ちゃんがいなければ怪我していたの!」
「そりゃ大変だ……」
伊織は腕を組んでアカツキを見る。
「四時間はかかったんじゃない?」
「うちは一ヶ月かかったよ……」
「それでも出来映えはいいね」
RGは他のシリーズに比べて細かいパーツが多い。
だからか、時間はかかる。
でもそれは完成度が高くなるからいい。
改造や塗装の心配はいらないので、RGは良い。
☆★☆
「さて。僕も作るか……」
プラ棒とプラ板を手にする。
「始めるぞ。ガンダム」
最高のガンダムを作る。
「ご開帳~♪」
箱を開けて、ガンプラと向き合う。
そこにはランナーが大量に収まっている。
その一つ一つを見つめて、記憶する。
ラックに並べると、ニッパーを手にする。ちなみにアルニだ。
アルティメットニッパー。
僕は天野さんを、レイジを、ネネを超えてみせる。
最高のモデラーになるのだ。
この世でプラモデルよりも格好いいものはない。
たくさんのプラモデルを見てきた。
たくさんのプラモデルを作ってきた。
たくさんのプラモデルを塗ってきた。
さあ。まだまだ作るぞ。
その先に僕の目指すモデラーがあると信じて。
これが最高のプラモデルになると信じて。
うまく作ればあの感動を感じることができるはず。
何も考えずにできていくプラモデル。
B-07
パチン。
ニッパーで切る音が響く。
パチッ。
パーツをはめ込む音が響く。
静かに闘志を燃やし、その情熱をひたすらに目の前のプラモデルに向ける。
組み立て途中の可動域の確認もなかなかに面白い。
作ってみると、どのパーツがどんな役割をしているのか、デザインをしているのかも面白い。制作側の意図が見えてくるとさらに面白い。
好きを爆発させたプラモデルは、どこまでも自由で、どこまでも格好いい。
それができるのはプラモデルだけ。
多彩な可能性を秘め、さらには人の心が介入する。
そんなオモチャはこれ以外に知らない。
大人も子どもも夢中になれる最高のオモチャだ。
プラモデルは無限の可能性。無限の遊びができる。
そうさ。
僕は可能性を見た。
好きに、自由にできるプラモデルを。
ずっと好きでいる。
「
できあがったガンプラを掲げる僕。
撮影ボックスに入れて写真を撮る。
SNSにアップすると僕は伸びをする。
完成した。
次は何を作ろう。
このプラモデルを改造・塗装するのもありだね。
でも無加工でこの実力か。
最近のばんだいはすごいぜ。
プラモデルを眺めて、むふふと笑みが漏れる。
SNSにコメントを追加する。
『みんなもプラモデル作ろうぜ!』
~完~
初心者アイドルモデラ―にプラモデルの作り方を教えていただけなのに、いつのまにか美少女な弟子が増えてるんですけど!? 夕日ゆうや @PT03wing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます