昼休みの水平思考ゲーム
星雷はやと
昼休みの水平思考ゲーム
「ふわぁ……」
お弁当を食べ終えた昼休み。校庭から休み時間を謳歌する声を聞きながら、教室の最前列の窓際でよく晴れた空を眺め欠伸をかいた。
「暇だなぁ……何かしょう?」
「サッカーするにも、校庭に行くには時間がないよな……」
「じゃあ……水平思考ゲームでもするか?」
右隣りと後ろの席から聞えた声に、振り向くと俺はゲームの提案をした。
「水平思考ゲーム?」
「何だそれ?」
宮野と森田は不思議そうに首を傾げた。
「一人が出題者になり問題を提示するから、探偵役は推理をする感じのゲーム。但し、問題を聞いた後に質問を一人一回出来る。それに対して出題者が『yes』か『no』で答え。探偵役は質問内容を加味して、推理を披露する。推理が当たるまでその繰り返しだな……」
「やる!」
「いいな、やろう」
簡単に説明を告げると、二人は楽しそうに了承した。
「じゃあいくぞ……小学生の少年は、自分のロッカーの私物が全て無くなっていることを確認すると、大変喜びました。何故、ロッカーが空になっていることを喜んだのでしょうか?」
「……え? ロッカーの中身無くなったの?」
「まじか……」
俺が問題を提示すると、宮野と森田は瞠目した。問題文は長くない。それがこのゲームの楽しみの一つでもある。限られた情報から質問を吟味し、想像力を膨らませるのが楽しい。
「一回目の質問タイムになるが、宮野からでいいか?」
「え! あ、うん。えっと……少年はいじめられていますか?」
隣の宮野に質問を促すと、予想の斜め上の質問をされた。
「noです。彼は、喜んでいます」
「えぇ……あ! そうだよね……」
物が無くなっているということに注目し過ぎたようだ。ゲームの初心者な為、少しだけアドバイスを入れる。ゲームを楽しむのが目的だからだ。
「次、森田」
「おう、少年は悪いことをしましたか?」
後ろの席の森田に質問を聞く。
「noです。言及はされていませんが、このロッカーに対しては悪いことはしていません」
「没収されたわけではないのか……」
問題文に言及はないが、少年がロッカーに対して悪いことはしていない。宮野と同様、ゲームの初心者な為、補足を入れる。
「さて、探偵さん推理をどうぞ。分かった方から挙手でお願いします」
「はい! 少年はモテ期が来たこれです! モテ期が来て、彼の私物を皆が欲しがってロッカーが空になった。嗚呼、自分は滅茶苦茶モテルと、満足した!」
推理タイムになると、宮野が勢い良く右手を上げた。そして考えた推理を披露する。
「宮野探偵……」
「はい!」
「違います」
「うそぉ!?」
少し勿体ぶるような言い方になってしまったが、不正解だと告げると彼は大きな声を上げた。余程自信があったようだ。
「物が無くなった原因に注目しているのは、良い点です。もっと自分に当て嵌めると分かりやすいかもしれないですね」
「自分だったら……」
不正解と告げられ、口を尖らせる宮野にアドバイスをする。すると彼は再び考え込む。
「じゃあ、次は俺だな。あれだ、掃除の時間で、ロッカーを綺麗にするように言われたからだ。この少年は誰よりも早くロッカーの中身を出してドヤ顔をした。これだろう!」
「森田探偵……違います」
「まじか……不正解だとしても、宮野みたく勿体ぶれよ。ドキドキさせろ!」
「ははは、でも一番近いですよ。もっと広く考えてみてください」
森田の答えをばっさりと切り捨てた。思わず森田が吠えた。しかし彼の推理が今のところ一番近い。
「はいはい! 質問タイムだよね?」
「はい。宮野探偵、どうそ」
「このことは、僕たちも経験したことはありますか?」
「yesです。私を含めて三人共このロッカーを空にする行為はしたことがありますが、少年のようにではありません」
元気よく宮野が質問をする。先程の俺の『自分に当て嵌める』に注目しているようだ。補足を入れる。
「少年は自主的にこの行為を行ったか?」
「……yesです」
森田が確信した声で質問を口にした。彼には補足は必要なさそうだ。そろそろ正解が出る気がする。
「さて、推理タイムです。どうぞ」
「分かったぜ、あれだ。長期休み前でロッカーの中身を事前に全部持って帰っていたからだ! きっとこの日は終業式かなんかで、荷物を全部持って帰っているからドヤ顔をした!」
推理タイムになると、今度は森田が元気よく推理を口にした。自信に満ちた顔をしている。
「森田探偵……」
「おう!」
「森田探偵……おめでとうございます! 正解です!」
「しゃあ!」
勿体ぶるようにして正解を告げると、彼はガッツポーズをとった。
「森田探偵の推理で正解ですが、模範解答を言います。少年は終業式に向けて、使わない物を日々家に持ち帰っていました。その為、終業式当日に大量の荷物を持ち帰ることにならず。ロッカーに私物が無い空のロッカーを見て喜んだのでした……以上」
「うぅ……僕も分かっていたのに……森ちゃんが答えるのが速かった……」
模範解答を告げると、隣の宮野が悔しそうな声を上げた。
「ふふっ! 俺たち三人は小学生の頃、終業式当日に大量の荷物を抱えて帰っていた常習犯だからな! ヒントをありがとう、宮野!」
「くぅ……自分の質問が、他の探偵のヒントにもなっちゃうなんて……」
そう、今回の最大のヒントは宮野の質問にあった。ドヤ顔を決める森田であるが、俺たち三人は終業式にロッカーの中身を大量に抱えて帰宅していたのだ。
「……まあ、そういう駆け引きも楽しめるゲームだけど……。楽しめたか?」
「うん! 次こそ、森ちゃんに勝つ!」
「嗚呼、面白いな。良いぜ、受けて立つぜ!」
少し心配になり訊ねると、元気な返事に頬が緩む。楽しんでくれたようで何よりだ。放課後に続きをしようと約束をすると、授業開始のチャイムが鳴った。
昼休みの水平思考ゲーム 星雷はやと @hosirai-hayato
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