第5話 エピローグ
「お兄ちゃんすごいよ。島スポの一面だよ!」
列島スポーツというスポーツ新聞に、
『ブロスナー瞬殺』という見出しとともに白覆面がアップで掲載されている。
先輩たちは、あれはもう仕方ない、と理解を示してくれた。
会社の幹部たちは、他にやりようはなかったのか、と呆れた。
試合後、AWE世界ヘビー級のベルトは、一度は浩司が巻いた。
しかし、王座移動は無効と、AWEとブロスナーがベルトをアメリカに持ち帰ってしまった。
ただ、ドームのメインでブロスナーを破った、という事実で謎の格闘家Xの価値は急騰した。
セミファイナルに参加してくれたメジャー団体からは、その返礼として格闘家Xの参戦が希望された。
浩司自身が強くなったわけではない。苦戦はするだろう。
ただ、東京ドーム大会が大成功に終わったことで、会社幹部の計らいで道場での待遇は格段によくなり、自由に外出もできるようになった。
美樹にもお礼をしておけと、現場監督の石田から10万円もらったので、五反田の高級ステーキ店へ来ていた。
「大反響だね、お兄ちゃん」
白覆面は、試合後も、年賀状を出しに行く、という理由で記者会見をボイコットした理不尽ぶりで存在感を示した。
「しかし美樹、なんで塩とかスパナを用意していたんだ?」
浩司は、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「プロレスのマネージャーってそういうものでしょ?」
「何を参考にしたんだ?」
「ミスター・フジと将軍KYワカマツ」
「手本が極悪すぎる!!」
二人とも、伝説級の悪役マネージャーだ。
だが、そんな美樹も他団体参戦時にまたセコンドにつくことになっている。
相手団体から、是非と乞われての事だ。
いつまで続くのか、と思う反面、白覆面を被っている時の自分が、浩司は好きになりつつあった。
「私は楽しい。お兄ちゃんがプロレスラーでよかった」
会社でメインイベンター扱いされることよりも、美樹のためにも、もう少し続けてみようと、浩司は思った。
負けてもいい。ファンが喜んでくれれば、プロレスラーにとってはそれが一番嬉しいのだ。
完
お兄ちゃんはプロレスラー 中原圭一郎 @m_7changer
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