夢の狭間は地獄絵図
美澪久瑠
かごめかごめ
―かーごめかごめ
眠ると必ず聞こえる声。
少女のような声だが、実際はわからない。
理由は1つ。
周りに「光」というものがないからだ。
真っ暗闇で何も見えない。
―かーごのなーかのとーりーはー
闇の奥で蝋燭の火がぽつんと浮かんでいる。
真っ暗な中、蝋燭の火があるだけでも心の支えになる。
ただ、唯一恐怖を抱く部分。
もちろん急に蝋燭の火がついたのも怖い。
それ以上に怖いのが…。
蝋燭を持つ手が見えないのだ
蝋燭は普通、皿に置いて、固定して持つのが普通だ。
そこまで大きくない光ではぼんやりとしかその皿は見えない。
じゃぁ手は?
ぼんやりと見えてもおかしくないだろう。
視力は良い方だ。
となると視力の問題でもない。
―いーつーいーつ
蝋燭の火が少しずつ近づいてくる。
尚、手は見えない。
―でーやーるー
目の前の火に気を取られているうちにいつの間にか蝋燭が自分の周りを囲むように出ていた。
先程までは何もなかったはずなのに。
―よーあーけーのーばーんに
周りを囲むように出てきた蝋燭にボッと、火が灯る。
―つーるとかーめとすーべったー
下ばかりに気を取られていた。
目の前に遠くの方に浮かんでいたはずの蝋燭が目の前にある。
叫びたい気持ちは山々だが、声が出ない。
叫ぼうと思って口を『あ』の形に開けて、少しだけ腹に力を入れる。
しかし、出てきたのは思いっきり息を吐く、はぁ〜、という音だけだった。
―うしろの正面
歌も終わりに近づく。
というか、もう終わる。
終わってしまってはだめだ。という気持ちで周りにある蝋燭をまたごうとした。
すると、突如、ブワッという音を立て、蝋燭では到底出しきれない火柱が出てくる。
流石に焦る。
夢だとわかっているのに、命の危険を感じるほど、不気味なリアルさだった。
―だーあれ
耳元で声が聞こえたと思ったら、細い指が喉元にかけられている。
誰が、どうしてこうしているのか知りたくて、後ろを向こうとする。
―そんなことしちゃだめだよ〜?
頭の中に鳴り響いた声を最後まで聞くことはできなかった。
喉から大量の血が吹き出し、意識を失った。
ピピピッ
スマホからアラームの音がなる。
ダルい体を持ち上げる。
違和感に気づいた。
「ここ、どこ。」
自分の部屋ではない。
奇妙なほど真っ白な部屋で、物など殆ど無い。
あるとすれば、先程まで寝ていたベッド。
自分の服がまとめてあるだろう籠。
人1人がギリギリ使えるであろう机。
すべて真っ白だ。
キィ…
ドアが開かれる。
完全に密閉されていたと思っていたので、これには少々驚いた。
入ってきたのは、髪を肩までおろした可愛らしいメイドだった。
「失礼します。」
凛としたその声は、心なしか夢の中の少女の声と似ているような気がした。
あまりはっきりと覚えていないので、ただの勘だが。
貴方は…と、聞こうとした時に、心を、頭の中を覗かれているようなタイミングでメイドは自己紹介をし始めた。
「名前を申し上げるのが遅れ、申し訳ございません。」
別に遅くないけどなぁ…と思いつつ、メイドの話を聞く。
「わたしの名前は
意味不明な単語を言ったメイド―魅魘は、切れ長の目を伏せ、
「今話せるのはこのくらいでございます。」
流石に少なすぎる。あと少し…具体的に言えば『夢の狭間』とはなにかを教えてほしい…。
「主様に口止めされているので…
主様とやらはかなりの権力者らしい。
ふと、違和感に気づく。
夢特有のふわふわ感がすこしだけある。
だけど、ベッドの感覚はとてもリアルで、変な気がする。
夢の狭間。
文字通り夢と現実の間に居るのだろう。
何故自分が。
そう聞こうと魅魘が居るドアへと顔を動かす。
「!?」
驚いた。
魅魘は人形のようにドアのように立っていた。瞬き一つせずに。
「魅魘…さん?」
そっと近づき、整った顔を見る。
突如、プツッと、糸の切れる、とても小さい音がして、自分の目の前で魅魘が倒れた。
「え…なに。どういうこと…。」
ひとまず脈をはかろう。そう思い、手首に指を当てる。
脈はあった。生きているようだ。
うつ伏せで倒れる魅魘は弱々しく、生気が感じられない。
流石にこのままではだめだろう。
自分が寝ていたベッドに寝かせ、ドアを探す。
真っ白な部屋で、気が遠くなる。
早くここから出て、外の空気を吸いたい。
その一心で壁をぐるり、と周る。
しばらく壁に張り付いていると、一部、小さい突起があった。
おそらくドアはここだ。じゃぁ、どうやったらこのドアは開く?
はやく魅魘が目覚め、ドアの開け方を教えてほしい…などと思いながら試行錯誤すること体感2時間。
時計のない部屋での作業は精神的にキツイ。
小さい突起の直ぐ側に、これまた小さいツマミがあり、これを活かす必要があるらしい。
ツマミを回しながら思いっきり突起を引っ張る。
カチャ…
ドアが開いた。
普通に外の、現実の外の景色が見える。
森か、山の景色が見える。
ここに来てから数時間。やっと外の空気が吸える。
自然と空腹感はなく、夢特有のふわふわ感がは健在。
どうやって現実に戻るかはまだ分からないが、「主様」とやらに交渉に行ったらいいだけではないか。
楽観視しながら、この真っ白い部屋に戻れることを当たり前だと思い、一歩ドアの外へと足を踏み出す。
地面に足がついた瞬間、周りが真っ黒に染まる。
声を上げようとしたが、出てきたのは、はぁ…という息。
夢で起こった状態が起こっている。
魅魘さんは…と思ううちに、
地獄の歌が始まる。
―かーごめかごめ
ヒュッと、喉の奥から聞いたこともないような息の声が聞こえる。
ガタガタと震える足を奮い立たせ、一歩、歩を進める。
頭の中が「怖い」で埋まる。
―かーごのなーかのとーりーはー
遠くに蝋燭の火が見える。
今回は自分を囲む蝋燭がないため、行く手を阻まれることはない。
必死に遠くの蝋燭を目指して走る。走り続ける。
―いーつーいーつ
ありがたいことに蝋燭の方からも自分の方に近づいてきてくれている。
ぼんやりと手が見えた。
希望の光が見えてきた。
恐らく、あの蝋燭を持っている人が主様なんだろう。
―でーやーるー
まずい。蝋燭に自分の周りを囲まれた。
ただ、火はついていない。
まさか…そう思い、蝋燭を飛び越える。
火柱は出なかった。
歌が進まないと変化が起きないのだ。
そのことに今気づき、恥ずかしくなる。
また走る。
―よーあーけーのーばーんに
後ろの蝋燭に火がつく。
追っては来れないみたいだ。ただ、後戻りができなくなった。
最初よりも近くなった小さな蝋燭の火は、周りを照らしている。
着物が見えた。紺色の着物だ。顔はまだ見えないが、そこに人がいることがわかった。
―つーるとかーめとすーべったー
目の前に自分が寝ていたベッドに寝かせておいた
なにかが蝋燭の火によって反射している。
…糸だ。
魅魘は生き操り人形として渋々メイドを引き受けていた。
魅魘の姿を極力見ないようにして、走る。
―うしろの正面
後ろから強烈な熱風が起こる。
先程まで周りを囲んでいた蝋燭が火柱を立て始めたのだ。
転びそうになるのをなんとか持ちこたえ、一直線に小さな火を目指す。
―だあ…
「れ」と、言わないうちにやっと追いつき、蝋燭を持つ手を掴む。
―やーっとアタシの代わりが現れたぁ
先程までかごめかごめを歌っていた声の主は、嬉しそうに言った。
―ずーっと歌い続けて疲れちゃったんだぁ!メイドの魅魘はすぐに使い物にならなくなっちゃうし…。真っ暗な空間で、一人ぼっち。頭が狂いそうだったよぉ!
もう狂っているのでは…と、つっこみを入れる隙もなく、手をつかんでいる手を少女の空いている手で包み込みながら言う。
―アタシのところに来たってことはさ、
ゾッとするほど低い声で、
―変わってほしいってことなんだよね?
急いで手を離そうとした。
だが、先程まで優しく包みこんでいた手で引き止められる。
必死の抵抗も虚しく、少女?は手に持っていた蝋燭を落とし、額に手を当てる。
―はぁ…やっと外に出られるぅ…何年っ経ったのかな…どうなってるのか楽しみだぁ!
数秒経つと、自分に触れられていた手がいなくなる。
まさか…と思った瞬間、自分が知らない記憶が脳の中に流れ込んできた。
苦し、もがき喘ぐもの。
ママァー!と、大きな声で泣き叫ぶもの。
死んだように眠っているもの。
そして、魅魘を操り人形にして、壊すもの…
引き継がれてきた記憶がグアングアンと、頭の中で鳴り、収まった。
パチパチと、瞬きをすると、いつの間にか魅魘がいた。
すこしだけ頬を桜色に染めた魅魘は言った。
「主様。今度は私を何に使ってくれるんですか?」
まだ『夢の狭間』の仕組みもよくわかっていないが、2つわかった。
他の人が自分の存在に気づいてくれればもとに戻れる。
もとに戻れるついでに記憶を引き継いでもらい、また悪夢を繰り返すこと。
帰る場所もないまま、魅魘を連れて、
夢と現実、その間の闇を当てもなく彷徨い続けた
―もう少しで通信が繋がりそうです。
―その調子です。そのまま読み進めていってください。
―こちら、――――です。
―この実際に起きた話に対してどう思いましたか?
―そうですよね。怖いですよね。それでは2つ目の質問です。
―貴方ならどうしますか?
誰もが他の人を生贄にし、自分は現世に帰る。
最初はそう思わなくても、長い長い年月。やることもないままずーっと暗闇の中を彷徨い続けることになったら…やはり、他の人を生贄にしてでも現世に帰りたい。と思いますよね。
―この小説には主人公の
名前
性別
一人称など、様々なことがわかっていません。
これには理由があります。
―何だと思いますか?正解は、この主人公を貴方に当てはめてほしいからです。
―自分ならこうしていたな。や、ここはこうするしかないだろう。など、自分でこの話をどんどん否定していってほしいのです。
―そして、この事実を「無いもの」にしてください。
―とはいっても…想像しにくいですよね。
ふふふっわかりますよ。その気持ち。
―「無いもの」にするためにはこの小説を隅々まで理解しないといけませんから。
―貴方を小説世界へ送り届けましょう。
―あぁ!✕を押さないで!本当に一瞬ですから!!
―さて、お別れです。そのまま画面をスクロールしてください。
―今話した出来事は忘れてください。
―ん?無理?いえ。できますよ。人間の脳は忘れるためにできているのですから。もし忘れることができなければ…ここでの話がとても印象強く、色濃く残っている証拠ですね。それはそれで嬉しいです。
―私の指示に従ってください。
―このまま行くと、終わりになってしまいます。そこで、この小説を最後まで読んでみてください。何回も読むうちに…
―籠の中に閉じ込められますから。
―この話を「無いもの」にするのを忘れずに。
―それでは。
夢の狭間は地獄絵図 美澪久瑠 @mireikuru
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